神都に向かう龍姫
思えばリュハは随分待たせた気がする。
「すまないね。間が空いてしまった 」
「いえ! 私も準備が足りませんでした! 訓練しましたのでもう大丈夫です!」
後ろには龍族のクミルティアがいる。
リュハの教育係りとして色々面倒を見てもらっていたのだが
「今度という今度こそ大丈夫です。どうぞどうぞ。私は気配を消しておきますので」
その瞬間、目の前にいるはずなのに存在感が無くなる。
これが諜報として活動するクミルティアの能力。
「クミルティアにも話があります。そのまま聞いていてください。あなたならもう知っているでしょう。今回サザリィを正妻の婚約者として立てました。ですが、あくまで婚約者。正式な正妻は15にたてる。そして始めに長子を産んだ子を正妻にたてる方針は代わりがありません。つまり……」
「はい。リュハが孕めば正妻に。そしてそれは龍姫様への勢力を頼むことに繋がる」
「ええ。龍姫には様々お願いしています。私としては龍姫にお願いするのが一番やりやすい」
龍姫、聖女、エウロバ。
この3人。
龍姫と聖女はこの世界に存在する超常者。
エウロバはこの帝国の中でもっとも有能な王。
帝国はこのままではもたない。
ではどうするか?
超常者の能力を使い切って防衛するか、エウロバ率いるアラニア公国に従うか。
「そのためにも、陛下を支える妻として。リュハの教育をしたつもりです。お願い致します」
リュハはゆっくりと跪づき、奉仕をしてくれる。
「……本当にきもちいいよ、リュハ。本当に努力してくれたんだね」
「……はい♡ 頑張りました♡」
にこにこするリュハ。
以前と比べて全然違う。
「もう、本当に辛かったんですが、陛下の為にと思って我慢しました! 女同士の訓練とかもう二度としたくない! その決意でやりきりました!」
女同士の訓練。
ふと顔を向けると
「てめえ、なに美談みたいにしてんだ。お前がやれねーとか騒ぐからやったんだよ。こっちだって嫌だったわ」
みたいな顔でクミルティアが呆れた顔をしている。
「訓練のおかげだね。ありがとう。リュハ。いつも抱き合って寝ていたね。初めても抱き合ってやろうか」
「……はいっ! ぜひ!」
にこにこしているリュハを抱きしめベッドに倒れこむ。
行為の間クミルティアはサポートしてくれたのだが、その間も気配がない。
吐息がかかるような近い位置にいるのにだ。
(……凄まじいな。龍族が本気になれば国を何個も滅ぼすと言われているが……)
龍族。
龍姫の血を分けられた女性達。
その身体能力と知能は人間を超えている。
この龍族の血が世の中を変えようとしている。
ドラゴンハーフと呼ばれる、龍族と人間の間に出来た子供。
そのドラゴンハーフと人間の子が、ミルティアであり、エウロバ。
ドラゴンクォーターと呼ぶべきか。
この身体の母であるビルナもドラゴンクォーター。
つまり、この身体にもその血は流れている。
この世界のキーとなる人物に絡んでくるこの血。
それは龍姫から始まっている。
(龍姫に野心はない。だから世界はなんとか均衡を保ってきた)
しかし、龍姫が産み出した龍族の子達は違う。
龍族ソレイユの息子テディネスは帝国内で戦争を続け、娘エウロバにその覇業を引き継いだ。
二代目聖女ミルティアは、初代聖女以上に野心が強い。
隙あらば帝国内でも信仰を広げようとしており、聖女信仰のオーディルビス王国を尖兵に様々な仕掛けをしてくる。
そんな龍族の血を引く者が世の中を変えている。
となれば
(オリジナルの龍族を直接率いれば、彼女達に対抗できるだろうな)
彼女達。エウロバとミルティア。
この二人は仲が良い。
対立関係にもあるが積極的に意志の疎通をしている。
究極的には、エウロバはミルティアの聖女信仰に切り替えを狙っていると思う。
元々エウロバも、彼女のいるアラニア公国も、神教信仰は薄いのだ。
やはり、そうとなれば龍姫と手を結ぶのが一番早い。
これで3人と性行為をした。
まだ痛むであろうリュハとは一度きりで、このまま抱き合って寝ている。
そのそばで黙って立っているクミルティア。
リュハはもう寝息をたてて寝ているので
「龍姫に伝えてください。また会いにいきますと」
「はい。姫様からは『こちらが向かいます』と伝えられておりますが」
こちらが向かう。
「ハユリとリライの抑えがいるはずです」
「あれは、チャズビリスという地下牢の主に送り込みました。チャズビリスとフェルラインの二人が残れば、例え相手が神であろうとも押さえ込めます」
チャズビリス。
直接会ったことはないが
「ドラゴンどころか妖精すら単騎で殺せる」と龍姫が語っていた。
元々龍姫は、人間だったころにドラゴン殺しで生計を立てていた。
何人もの魔法使いを引き連れて、ドラゴン殺しのキャラバンを率いていた女性。
彼女が
「チャズビリスは強い」と保証している。
その龍族チャズビリスはリグルドが生きている時に噂になっていた女性。
『皆殺しのチャズビリス』という名で、有名な人間だった。
「……そうですか。もしも可能ならばそれをお願いしたいです」
龍姫が自分の館を出て、神都に来る。
その事は大騒ぎになった。
龍姫は自分の館からは出ない。
例外が2つあり、一つはリグルドが死ぬ直前。リグルドが病で動けなくなり、龍姫に遺言を伝える為にきてもらったこと。
もう一つは『聖龍大戦』と呼ばれた世界中が巻き込まれた大戦争。
これをおさめるために、龍姫は神都に向かい皇帝と話し合った。
今の帝国はエウロバの後見人終了に伴う混乱期にある。
ここで神都に向かう龍姫に
「聖女から、是非私もお会いしたいと連絡があった」
移動と言っても、単独ならば転移石ですぐに着く。
だが今回は龍姫が何人も龍族を連れて馬車で移動してきたので時間はかかる。
その間にミルティアから連絡があったのだ。
「……そうですね、私は構いませんとお伝えください」
軍権をエウロバに渡した。
その事で「今ここで動くべき」とエウロバの部下は騒いだらしい。
一度話がまとまり帝国本国は油断している。軍権移動の混乱期に動けば全て収まると。
それをエウロバが止めていたのだが、そこに龍姫が乗り込んでくるという話が出た。
しかも大勢の龍族を引き連れてくる。
龍族一騎は一万の軍に値する。
龍族達がくればクーデターを起こしてもすぐに鎮圧されかねない。
その抑止のために招かれたのではないか?
そんな噂。
そこに聖女ミルティアも行くという。
「……どちらにせよ、龍姫、聖女、エウロバとは何度も話をしないといけませんから」
「……そうか。お主がそれでいいと言うならば」
エウロバ。
恐らく軍を抑えているというが、エウロバ自体も
「いつでもクーデターを起こしていい」と腹を括っていると思う。
軍権を渡したことでエウロバも色々考えるだろう。
その上で
「ありとあらゆる可能性は排除していません。私の目的はなにも変わりませんから」
その言葉にエウロバの顔が若干引きつった。




