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リメイの暴走

 恐らく諜報のエールミケアが龍姫に報告したのだろう。

 ハユリが転生したと聞いて、大喜びになり面会を希望してきた。


 ハユリの取り扱いは色々面倒なので、元々はかなり仲の良かった龍姫に任せられると助かると場を設けたのだが。



「どうでした?」

 二人きりで話をしていたのだが、目の前の龍姫はハッキリと不機嫌な顔をしていた。


「……偽物です」

「……は?」


「あの、ハユリさんを騙るクソ女は偽物です。本物のハユリさんは『リグルド様は私が守るのでもういいです』とか言いません」

 そのセリフに吹きそうになる。


 どれだけ失礼なことを言ってるんだハユリは


「またあのクソみたいな色情女、リグルド様とのセックスの話題ばかり振ってきました。セックスしたのか? まだ処女なのか? とか。私は生きている間、リグルド様への恋慕の吐露はされたりはしていましたが、そんな下品で下世話な話は一回もされていません。ハユリさんから出る話はどれも中心に神様がいて、美しい物語を紡ぐような素晴らしさがありました。それに対してあの色情狂はそんなのありません。間違いなく偽物です」


「……記憶の齟齬はありましたか?」

「良くできた偽物なのでそういうことはありませんでした。ただ、記録を眺めればなんとなく検討はつく話題ばかりです」


「あなたの旧名はともかく、その『本名』はハユリを始め数名しか知り得ません。それは確認しましたか?」


「……精巧な偽物なのです……」

 つまり答えた、と。

 龍姫の旧名は「メイル」その本名も「メイル」

 だが、「メイルの本名は?」と聞いて「メイル」とだけ答える人間は殆どいないだろう。大抵は戸惑い、別の名前を言うか、なにかを付け加えるだろう。


「本物でしょう。ただ、舞い上がっているというか、変な選民思考は感じます」

「そうです! 『天』で修行したと言われてはいますが……」


『天』で修行か。

 それも聞かねばな。



『リグルド様!』

「皇帝陛下と呼ぶように」

 全員でリグルドとハモる4人を見ながら、胡乱な目で見ているエウロバと6人で話し合い。


「それで。『神』になにを言われて来たのですか?」

 本題から入る。

 エウロバもそれに頷き黙って聞こうとするが


「はい! リグルド様のお手伝いをせよと!」

「私達、天に招かれ感涙しておりました! そこに声が響いたのです! リグルドが再び地に降りる。その時に手助けをせよ、と!」

「私達はリグルド様のお助けになりませんでした! 今度こそ助けられるよう! 『天』で修行していたのです!」


 ハユリ、リメイ、ネルフラが答える。

「神からのお言葉は『リグルドの手伝いをせよ』だけですか?」

『はい!』

 まあだろうな。そんなに長々と指示は出さないと思う。

 出せるなら、出すつもりならば私に同じ夢を何度も見せるなんてことはしない。

 別のメッセージを送っているはずだ。


「それで、『天』での修行というのは?」

「しゅぎょーですか? なんかですねー。ずーーーーっと部屋で火の玉とか打ち込んでました!」


「『天』ではイメージを湧かすことで、様々な超常の力が出せました。私達はずっとそこで、その力の制御を学んでおりました」

 学べてない。


 咄嗟に突っ込みそうになったが


「ビッチ共、全然学べてねーじゃねーか。どーなってんだ、教育」

 エウロバの突っ込み。


 力の制御を学んだと言っていたリメイ。

 彼女も生前……と呼ぶべきか、以前からこんな感じだった。


 そもそも天然で、なにも分からないアンリとは違い、リメイはキチンと勉強をして教義も理解はしていた。


 なのだがその勉強には大きな問題があって、どんなに勉強をしても試験に落ちるのだ。


 幹部の試験は難しい。

 それに落ちるのは当たり前だ。

 特に女性幹部ともなれば何年も落ち続けるのはある意味当たり前。


 しかしリメイの場合は教会に赴任するための神官長の試験で、これは普通は一年勉強すれば大抵合格をする。


 神官長を目指す人間は生まれた時から教会に勤めている人間なので、幼い頃から勉強はしている。15ぐらいから受験をはじめ、大体はみな18ではほぼ全員合格。

 ところが、リメイは14から受験を始めたのに19になっても合格できない。


 リメイのいる教会長がそのことを嘆いていたことを聞き、興味を持ちリメイと会った。


 聡明な女性だな。

 それが喋った時の第一印象。

 だが、その欠点にもすぐに気付いた。


 会話があっちこっちに行き過ぎるのだ。

 集中力が皆無。

 頭の回転はかなり良い。

 だが、集中力がないため勉強が身に付かない。


 一通り話をしたあとに

「彼女の努力は十分でしょう。私が面倒を見ますから神官長に特別推薦という形で上げます」


 そのときの彼女の喜びようは今でも憶えている。


「やっぱり分かりますよね!!! 分かる人ならすぐに分かるんです!!! ありがとうございます!!! リグルド様!!!」

 そう言って抱きついて、頬にキスしてきたのだ。


 基本的にそんなことをやった時点で神官長取り下げなのだが。



 当時のリグルドは寄附金集めをする「宣揚」の部隊を率いていた。

 彼女の頭の回転の速さは、寄附金集めになら生かせるだろうと思ったのだ。


 結果はすぐに出た。

 彼女はあっという間にトップの成績をあげたのだ。


 その美貌と口達者な口上。

 本人も「天職です!」と喜んでいたのだが

 その無防備な態度が悪い方に出てしまった。


 寄附金を集めている最中に、大口の寄附を出すという名目でリメイを呼び寄せレイプをしようとした男が現れたのだ。


 リメイはなんとか抵抗をして逃げることが出来たが、無理矢理キスをされたり、酷いことはされた。


 かなりの落ち込みようでずっと泣いていたリメイ。


 だが、当時宣揚の組織において多額を稼ぐリメイを外すことが出来ず


「リメイ、これも神からの試練です。乗り越えなければなりません」


 半分男性恐怖症のようになってしまったリメイを、それでもなお使い続けた。


 相当きつかったと思う。

 それでも彼女は私にだけは昔と同じように笑い


「リグルド様がそういうのなら頑張ります!」


 だが、その精神は限界だったのだろう。

 ハユリもそうだったが、精神的負担がかかりながらの激務は病を引き起こす。


 彼女はそれから二年で倒れ、起きあがれなくなった。


 見舞いに行くと「治ったら、また必ずリグルド様のお役にたちますから!」

 と笑ってはいたが、憔悴は止まらずそのさらに二年後に亡くなった。


 そんな申し訳のないことをしたリメイ。

 なんでそんな酷いことをしたのに慕ってくれたままなのかは謎だ。


 恐らくだが、彼女は集中力が無いというよりも過去に興味がないのだ。


 だから男から酷いことをされて、身体が完全に拒絶していても、頭は「治ったらまた男のところに行って寄附金を集める」となり、その心と身体のバランスの折り合いが付かず壊れてしまったのではないだろうか。


 そして今回も同じ。


「……まあ、リメイは昔からこうですから」

「それで? 結局おまえ等はなにをしに来た? 皇帝陛下のお手伝い? なんの手伝いをする気だ」


 エウロバの問いかけに

「まず、陛下を悩ます害虫から殺す」

「まずはお前だ、邪教の手先。エウロバ」


 その瞬間、リメイからエウロバに向かって光弾が放たれ、とっさにエウロバを庇い抱きしめるように被う。


『ガシュッッッ!!!!!』

「ぐっっっっ!!!!!!」

 身体を削られるような感覚。いや、これは多分実際に……


『リグルド様!!!???』

 四神女が絶叫するが痛すぎて言葉が出ない。

 エウロバも苦痛に顔を歪めて声が出ていない。おそらくエウロバも巻き込まれている。


 なんだ、あの光弾は。


「アホかー!!! リグルド様を傷つけてどーすんだー! 下手くそー!!!」

「庇われるとはおもわなかったんだーーー!!!」

「それよりリグルド様を癒せーー!!!」

「そんな修行してなーい」


 四神女はなんか騒いだままだが、癒やしの力がないのは分かった。

(……破壊する力しかないのか)

 聖女はどちらも出来る。


 四神女の力は絶大に見えるが、融通がきかない。


『とりあえずお二人とも治しますよー』

 間延びした声と共に、傷が一気に癒えた。


「……ミルティア、正直本当に助かった。あのままなら死んでいたぞ」

「ええ。本当に感謝します」


 四神女は頬を膨らましてなにか怒ってる。

『こんな疫災みたいな女達に囲まれて地獄ですねー。私も毎回こうやって間に合うかなんて知りませんから、くれぐれも強く教育してくださいねー』


 教育。

 この4人に教育。


「……なんでよりによってこの4人なんだ」

 頭を抱えてうなっていた。

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