四神女参上
噴火。
「……うそだろ?」
たまたまなのか。
だがハユリの叫び声と共に噴火した。
つまり、ハユリの力を疑った方がいい。
問題は。
「いや、噴火させたら困るんだが」
あまりの展開に素になってしまう。
「……な、なんで、こんな急に……」
エウロバが青ざめていると
『このクソ女ーーーーーー!!!!!!!』
そして頭上から響き渡る絶叫。
私やエウロバだけでなく、周りにいる皆に聞こえているようで、みんな一斉に上を見上げる。
『こっちは必死に噴火押さえこんでるのに!!!!! お前、なにしでかしとんのじゃーーー!!!!! あのエネルギーお前の仕業だろ!!!!』
すると、ハユリはあまりびっくりする事もなく、不敵に笑う。
「クソ女か。そのまま返してやるよ、邪教の輩。以前は信仰が弱かった故、負けたが、『天』で修行した私は別物だ。今度こそ愛しのリグルド様を守りきる。貴様の思惑などぶち壊してくれる」
『お前のいる帝国が飢餓で困るから!!! 噴火を限界まで押さえていたんだ!!! お前この大惨事をどうにかできんのか!!!!!』
聖女ミルティアの絶叫に、エウロバがビックリした顔をしている。
確かに聖女ミルティアは常に余裕をもって話をしていた。
こんなに怒り心頭なのはみたことがない。
「関係ない。邪教の輩は去れ。私がリグルド様を守る」
ああ、なんかハユリらしいが
「『天』で修行した、我等『四神女』が、貴様を打ち倒す。貴様の『奇跡』など不要だ。我等!!! 『四神女』こそが!!!」
飛んだ。
ハユリが、飛んだ。
『は?』
「は?」
みなが絶句している。
空を飛ぶこと自体は魔法を使えば出来る。
だが、詠唱もなかったし発動の呪式もなかった。
自然と浮かんでいるように見える。
そして、遠くから
『リグルド様』
『我々は今度こそリグルド様を守ります』
『リグルド様こそが全てを司る王』
『リグルド様こそが正しい』
ハユリだけではない。他にも3人の女性。
顔が違うから全然誰が誰だか分からないが、ハユリ、リメイ、ネルフラ、アンリで間違いないだろう。
問題は、言ってる内容だ。
なんだ全てを司る王って。別の宗教と勘違いしてないか?
多分あのトンチンカンな信仰の解釈はアンリだろう。
以前からそうだった。
そして、この四神女という存在は噴火が始まった火山を囲い
【滅びよ】
その瞬間。
『ズガァァァァァアアアアアアアアアアアアンンンンンンッッッッッッ!!!!!!!!』
噴火どころではない衝撃音と共に
山が無くなっていた。
『……うっそでしょ』
聖女ミルティアの呆れた声。
私もそう思う。
なんだこの力は。こんな力を振るったら、『神教』の教えはなんだったんだとなるだろ。
なにしろ『奇跡に頼るな』と明記されているんだから。
『見たか、邪教の輩』
せせら笑う四神女。
見た目、ハユリ達の方が悪役に見える。
「ハユリ、リメイ、ネルフラ、アンリ。降りて来なさい」
あまりの事に混乱するが、頭は少しずつクリアになっていく。
これが『神教』の切り札。
ああ、なぜ私が選ばれたかやっと分かった。
確かにこの娘達を躾るのは私しかいないな。
『はい! リグルド様!!!』
皆は笑顔でニコニコしているが
「火山の驚異は無くなりました。本当によくやりました」
『はいっ!!!』
4人とも何故か抱きつきかけているのだが
「ハユリ、教典187の3を読み上げなさい」
それにキョトンとするハユリ。
「教典187の3です。アンリは? 憶えていますか?」
「……ええっと? リグルド様は偉い……?」
まあアンリは憶えてないだろうが
「リメイ、ネルフラ。『天』で修行されていたのでしょう? 憶えていますか?」
二人は揃って首を振る。
「『奇跡に頼るべきではない。人は大地と共に生き、大地と共に死ぬ。その大地をまず愛せ』」
貴族が言っていたな。
『大地と共に生き、大地と共に死ぬ』
この教典を身で読んでいた。
「奇跡に頼るべきではない。無論、噴火を止めたことは素晴らしい。これで民が何人救われたのか。しかし、軽々しく振るう力ではありません。我々の本分は地道な祈りなのです。それを誇らしげにひけらかしてはなりません。分かりましたか?」
それに少し俯く4人。
褒められると思ったのにショックだったか?
と少し心配すると、4人は何故か顔を赤らめていた。
「……リグルドさまぁぁぁ♡♡♡」
「やっぱり♡ リグルド様は素敵です!!!♡♡♡ 凄いです!!!♡♡♡」
「これからも私達を導いてください!!!♡♡♡」
「えへへぇぇぇ♡♡♡ リグルド様だぁぁあいしゅき♡♡♡♡♡」
4人が一気に抱きついてきた。
『……ビッチ共が……』
「ミルティア、発音が少し違う。『ビッ↑チ↓』だ」
ミルティアとエウロバのやりとりを見ながら
「……どーするんだ、これ」
途方にくれていた。