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天の子

「龍姫と聖女シリーズ」の本編最終章となります。

主人公は最初の作品に登場し、それ以降も必ず名前だけは出ていたリグルドさんです。

彼が皇帝に転生し、生き足掻く物語

 死んだ。

 死んだ筈だ。


 皆に見送られ、やるべきことをやりきって死んだ。

 解決出来ないことばかりだった。

 後悔も沢山ある。


 だが……。私の全能力を使い切った満足感はある。傲慢で愚かかも知れない。だが、私は……


『残念ながらー、お前の他にー! このピンチを切り抜けられるやつがいないのだー!』


 目の前にいるモノ。

 光輝き、そのモノを直視出来ない。

 声は随分甲高い。

 動作も幼い。


 だが、言い伝え通りであるならば、目の前の方は


「……まさか、ここは『天』ですか……?」

 私の問いかけ。もしここがそうなのであれば、本来は私が話かけて良いモノではない。


 だが、その光は怒ることもなく


『そうなのだー! ここは『天』でー! 私は『神』だーーー!!!』


 頭がクラクラしてくる。

 信仰者としてはこれ以上ないような名誉。


 死後、『神』に認められ『天』に招かれた。

『神教』の信仰者が求めてやまないこと。


 その『天』では『神』の元、幸福に過ごすことが出来る。

 そう聞いてはいたが、そんなことは無いだろうな。とは思っていた。


 死後、安寧に過ごすために苦しい現実を生き抜け。そういう教えとは思えなかったのだ。


 もしそうなら自殺でもすればいい。

 だが自殺は禁じられている。


『その通りだー! 死後、安寧に過ごすなんて無理だぞー! 諦めろー!』

 楽しそうな声。こちらの心はそのまま伝わっているようだ。


「はい。それで、私がどのようなことをすれば……」

 残念ながら、このピンチを切り抜けられるのは私しかいないと仰られた。


 このピンチとはなんだろう。

『簡単だー! 私を崇めている帝国がー! 崩壊寸前なのだー! 別に崩壊してもー! 私を崇めるならば許してやるがー! そうではないからだめなのだー! お前の役目はー! 帝国を立て直す! それが無理ならば! 神教の勢力を維持するのだー!』


 帝国の崩壊。

「……メイル、いえ龍姫がおります。それでもダメでしたか」

 私が跡を託した女性。


 人間では無くなってしまったが、その信仰心は本物だった。


『100年持ったがー。あいつはドラゴンなのでコントロールできねーわー、子飼いの龍族は生意気だわー!』

 100年。

 私が死んでからそんなに経っているのか。


『皇帝の血筋は限界だー。だからお前が行くのだー! お前は今日から『天の子』としてー! 皇帝になるのだーーー!!!』


 言い終わると同時に、光輝くモノは私を蹴り飛ばした。


 そこは文字通り『天』

 天から地へ落ちていく。


『リグルドーーー!!! たのんだぞーーー!!!』


 光輝くモノ。恐らく、私が崇めた『神』

 それに蹴り飛ばされ、地に落ちていく。


 ああ、きっとこれは夢か。

 神教のトップ2になりながらも、常に信仰心の無さに怯えていた自分が見せた夢。


 そう思おう。

 死を迎える直前に見るには、随分と洒落た夢だ。


 私が皇帝か……

 そんな事は……



「……っっっ!!!!!」

 夢、夢だった。


「……ぐっっっっ!!!」

 頭を抱える。


 この夢は強すぎる。

 定期的に必ず見る夢。

『神』が、忘れぬように私に見せ付けているのだ。


「……汗が凄い」

 まずは身を清めよう。



 私は生まれる前の記憶がある。

 赤子の時には思い出せなかった。


 まだ体が私の記憶を受け入れるだけの容量がなかったのだろう。

 ハッキリと記憶が蘇ったのは3歳の時。


 アラニアの公王、エウロバが帝国統一戦争を始めた時期だ。


 この大陸はティルディア神聖帝国が支配している。帝国の下に公国があるのだが、ここ百年の帝国本国は存在感を失い、公国が力をつけていた。


 その中の一国、アラニア公国。

 その公王エウロバは帝国を一つにするべく、公国削減に動き、帝国内で争いを始めた。


 帝国の皇帝は、この私。

 まだ三つの幼帝だ。政治もなにも出来ない。


 その時、家臣達が慌てふためいているのをボーーーッと見ていたのを憶えている。


 そこに、突然あの夢が降りて来た。


 過去の記憶が、神教幹部リグルドの記憶が蘇った。


 頭はパニックになった。

 3歳の体では強烈すぎる記憶。


 頭を抱え唸る私に、家臣達は慌てて近寄ったが、私はすぐに立ち上がり


「……龍姫の所に行く」


「……は?」

 家臣達は呆然とこちらを見る。


「エウロバの、帝国内部への戦争は認めぬ。認めるのは、この大陸内にある帝国外の国のみだ。だが、それを伝えて止まるまい。エウロバの後援には龍姫がいる。だから龍姫の所に行く。呼び出しても来まい。ならば押しかけるまでだ」


「……は、はっ!!!」


「その前にエウロバを呼び出せ。龍姫と話をする前に先に伝える」


「……へ、へいか。どう、されたので……」

 ひとりの家臣が、ゆっくりと喋る。


 どうされた、か。


「祈りの間に行く。エウロバとはそこで話す」



 生まれてからの記憶で残っているのはそんなに多くなかった。

 その中で母の記憶はほぼない。


 すれ違って「……気色悪い」と吐き捨てられる程度。


 母は、母の兄に恋慕していた。

 だから、無理矢理結婚させられた父への嫌悪感は凄まじく、私の存在も否定していた。


 そんな私を母代わりに育ててくれていたのがエウロバだった。


 既に結婚適齢期の凄まじい程の美人。

 母の兄と婚約していたが、婚約状態のまま数年が経っており、未だに婚姻はされていない。


 そんな母のようなエウロバ。


 私は祈りの間で『神』に祈っていた。

 神教の『神』


 実在を疑っていた。そんな私に姿を見せた『神』


 思っていたような神秘さは皆無だったが、今ここにリグルドの記憶を持っているのが『神』のいた証。


「……エリス。呼び出しと聞いた。どうした? またあのビッチが……」

 エウロバは普通に喋るが、私の目を見て凍りつく。


「……ファック? ……なにものだ、お前。エリスでは無いだろう?」

 エリス。


 エウロバは私の幼名を気に入り親しげに呼んでいた。


「エリスだよ、エウロバ。それと、もう一人」

 私は祈りの間にある壁画を指差す。


 光輝くモノに導かれる男性。


「……神か? そう言いたいのか? なにかの精神憑依を受けたか? それとも皇帝に伝わるそのような秘術でもあるのか?」


 エウロバは必死に考える。

 だが

「秘術ではない。教典には載っている。『神』によって『天』に召され、選ばれ地上に堕ちてくる話だ。この私はあなたを知らない。もっと前の人物だ。リグルドを知っているかね?」


 その言葉にエウロバは固まった。


「……ま、まさか。いや、そんな、バカな……」

 エウロバの言葉に被せるように


『うわーーーー!!!!! うわーーーー!!!!! マジだーー!!!! 本当に神教の神様っていたんですねーーーー!!!! エウロバさん!!! この人!!! 本物のリグルドですよーーー!!!!』


 祈りの間に響き渡る女性の声。


「……ミルティア、本気か」

『スッゴい力がぶつかったんです。慌てて精神飛ばしたらこれですよ。ハッタリで出す名前じゃない。龍姫が会えばすぐにバレる名前を敢えて名乗った。こいつはリグルド。間違いないです』


「……エリスはどこにいった」

 エウロバの言葉に

「私はエリスだ。記憶はしっかりあるよ。『ママ』」

 ママ。母替わりのエウロバにそう言って甘えていたのだ。


 だが私が言うと恥ずかしいな。


『まあ、普通に共存している、というか元々リグルドさんはいたんでしょうね。ただ幼い体ではその記憶に耐えられなくて、封じられたままだったのが、帝国のピンチに『神』が無理矢理起こしたと』


「……失礼。私の記憶にあなたの存在はない。名乗ってくださると嬉しい」


 響き渡る声に問いかけると

『二代目の聖女、ミルティアです』

 聖女。


 頭がクラクラする。

 私が全能力をかけて戦った聖女は100年経ってもまだ健在なのか。


『初代聖女の記憶は残っています。リグルド、あなたは最大の宿敵であり、敬意を払うべき存在でした。神教がここまでなんとか繋がっているのも、あなたの活躍があってこそ。だから『神』もあなたを選んだんでしょうね。ですが、歓迎しましょう。良き宿敵は世界を良くします。喜んで戦いましょう』


 聖女の声が遠ざかる。


「龍姫に会いに行きます」

「……私も立ち会う」


「分かりました。共に行きましょう」

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