最初の別れ
私は現場が移動になり、京司とは別の棟で働くことになった。
近くにいた分離れるのは寂しかった、だって新しいとこには京司がいない。
それだけで仕事のやる気は激減だった。
ただ飲みたいだけだろって感じだけど、歓迎会をやってくれることになり、あまり気がすすまなかったけど参加した。
どこに座っていいのかわからず部屋の隅で棒立ちになっていると小さいおっさんが隣に座れと手招きしてきた。
他に場所もなさそうだったので座ると目の前にいろんな料理が並べられてきて、ビールを飲みながらここは行くべきだと思いビール瓶片手にみんなの席を回り始めた。
誰の名前も覚えられなかったけど、いいことは小さいおっさんの隣から開放されたこと。
気づくとフルーツ盛りの前を陣取ってる人がいた。
お腹もいっぱいになってきたから、私も隣に座って食べ始める。
甘いのやすっぱいのいろいろあったけど普通においしかった。
「そういえば名前」
酒の力を借りて隣にいる人に話しかけてみる。
「名前は木本祐」
フルーツばかり食べている祐の第一印象は可愛かった。
「他のは食べないの?」
嫌そうな顔で
「好き嫌い多いからフルーツでいい、酒も飲めないし」
「ダメダメじゃん」
ふざけあいながら一応楽しい一時だった。
駐車場に向かうと京司が待っていてくれた。
私の頭をポンポンとたたきながら
「飲みすぎてない?」
「うん。大丈夫」
「ならいいけど」
?・・・なんか様子がおかしい。
「じゃ、先帰る」
「ああ、バイバイ・・・気をつけてね」
たまたま近くに車を停めていた祐が気まずそうにしていた。
近づいていって話しかけようとすると、祐から話しだした。
「あいつ結婚してるよ」
いきなりの話題でびっくりした。
さっきまでの気分が台無しになるくらい。
「知ってるよ。でも好きなの」
「知ってるんだ。悪いとか思わない?」
「私は・・・」
言えない。言葉がでなかった。
罪悪感なんか考えてなかった。
言われるまで好き同士が付き合うのは普通で、ただ相手には妻がいるだけ。
妻のことなんて考えてなかった。気持ちに誰かを気遣う余裕も無かった。
私は何も言えず車に向かい、そのまま帰宅した。
何も考える余裕が無い。
翌日普通に仕事が始まる。
罪悪感は無い。それが私の答えだった。
昨日ずっと考えていたけど、私は京司を独占したい。
できれば今すぐ別れてもらいたいくらい、そんな相手の妻に罪悪感などない。
昼休憩は京司と倉庫の隅で待ち合わせをするようになった。
「仕事はどう?」
「こっちでも男ばかりだよ」
「嫌なことあったら言いなよ」
「うん。ありがとう。大丈夫だよ」
罪悪感の件は言わなかった。
京司との一時は短かったけど、会えるだけで嬉しかった。
でもどこかで引っかかる物を感じながら、昼休憩は毎日同じ場所で二人の時間を過ごした。
「まだ別れないの?いつ別れるの?」
「今はちょっと・・・」
こんな会話が多くなっていた。
待っているのが耐えられなくなっていたから。
もっと一緒にいたい。
他の人が京司のそばにいるのが嫌。
私は一人で感情と格闘していた。
待っている自分と待っていられない自分と。
少し距離をおこう。
私が決めたことだった。
気持ちが抑えられなくなりそうだったから、このままだと多くのものを傷つけ、失いそうだったから、そんな自分が怖くてそんな自分からの逃げだったのかもしれない。
私は京司と別れた。
そんな時そばにいてくれたのが祐だった。
落ち込んだとき、悩んだとき、辛いとき、気づくとそばにいたのは祐だった。