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9.お出かけ

「セルジュ、流月に街を案内してあげては?支給品だけじゃ足りないものもあるだろうし…監視も兼ねてで申し訳ないけれど、流月も知った顔のほうがいいでしょう?」


にこやかに微笑むアリアナの提案により無理矢理休みを取らされたセルジュと城下へ出かけることになった。


「城下じゃ女性のパンツスタイルは見ないから、流月の着ていた服じゃ目立っちゃうかも…」


こちらはミラの助言により城下でも目立たない服を準備してもらうことになった。

お姫様のいる世界ならドレスとか?!と若干不安になっていた流月だが、淡い水色のストライプのワンピースと言う至って普通の服装に胸を撫でおろした。所々に施されているレースや刺繍はさり気なく上品で可愛らしい。さすが王城の手配だ。髪の毛もミラの手により可愛らしくアップに纏めて貰っていた。





コンコン

「はいはーい」

ミラが扉を開けた。

「なんで俺なんだ!適役はお前だろ?!」

扉を開けた途端セルジュの文句が響いた。

「あたし今日は抜けられないんです!万が一なんかあった時のために騎士は必要でしょ?じゃあセルジュ隊長1人で問題ないじゃないですか!それに、アリアナ姫のご指名でーす!!」

「…っつ!!あのイタズラ姫が!!」


…なんだろう。隊長さんなのにイジられてるし…お姫様にあんな言い方…?

流月は影から2人のやり取りを覗いていた。

「流月!行くぞ!」

急に名前を呼ばれて慌てて飛び出した。

「ふふ、楽しんでらっしゃい!」

振り返ると、ミラが笑顔で見送ってくれた。



……



城下町までは馬車で移動するらしい。

狭い空間で2人きりと言う状況に緊張感が漲る。どうしても医務室での威圧感が刷込まれている。しかもセルジュはやや不機嫌だ。対角線上に座っているものの、正面が向けず膝の上で組んだ指に視線を落とす。

初めての道に、初めての馬車。ソワソワする流月は分からぬようにチラチラと窓の外を覗いていた。

もちろん、セルジュにモロバレであったのだが。


くっく…

突然笑い声が聞こえて、慌てて流月は正面を向いた。

「そんな隠れて覗いてないで堂々と見たらいい。…怖がらせて悪かった。大人気ない所を見せた」

「〜〜覗いてない!!…です。それに別にセルジュ…隊長が怖いわけじゃ、」

「ふっ!!顔真っ赤だぞ…セルジュでいいし敬語も要らない。キミは要監視者だが団員じゃない」

馬車内の緊張感が緩み始めた頃、馬車がゆっくり停車した。

「着いたみたいだ。降りるぞ」

セルジュが扉を開け先に降りると、自然に手を差し出してくれる。

初めてのエスコートに固まる流月に、軽く眉間に皺を寄せ「早く」と促す。ちょんと返された指先を強く握り、力強く引き寄せた。

「わっぷ…」

「ここがシルヴェータ王国の城下町だ」

セルジュにぶつかる様に降りた流月を支えながら声をかけた。


馬車の止まったロータリーのような場所は小高い丘になっていて城下町が一望できた。城やベージュなどの淡い色の外壁をした建物が円形に走る道路に沿って綺麗に並んでいる。黄色やおれんじ等の明るい屋根材が多く使われております、街全体が明るい印象与えている。更に今日のように天気のいい日は太陽の光を反射して町全体が輝いているようだった。

流月は目をきらきら輝かせ、初めて見る景色に夢中になっていた。夢中になるあまりセルジュに支えられたままだ。その様子に笑いが漏れそうになる。




「さて、何を見る?足りないものは?」

「雑貨と服みたい!!」

「なら中央広場の方だな」

全開の笑顔で答える流月に笑いながら答え、歩き始める。

「何笑ってるの」

唇を尖らせてセルジュの横を歩く。

「いや、ずっと俺を怖がってたのにな、と思って。どっちかって言うとグレンに懐いてたろ」

「だって医務室で会ったセルジュ、ほんっっっとに怖かったもん。あのまま捕まって殺されちゃうかと思った」

「あれは…騎士としては当然だ。キミは正体不明の侵入者だったからな」


「『セルジュ隊長』の時、ピリピリ怖いけど。…けど、すごく優しい」

思いがけない感想に目を丸くして流月を見る。流月は

はにかみながら笑顔を向けた。

「セルジュだけじゃなくて、ミラもグレン隊長も、他の騎士の皆も。結局私が何なのか全然分かってないのに、皆優しくしてくれる。グレン隊長はいっそお兄ちゃんみたいなんだけどね」

丸くなった目を更に見開き、セルジュは思わず足を止めた。


「セルジュ?」

急に止まったセルジュを不審に思い振り返る。

「…キミは…ホントに素直なんだな…」

「……褒めてる?馬鹿にしてる?」

「くくっ…褒めてる」

膨れっ面になった流月を通り越して歩き始めたセルジュをを、ホントかなーと疑いながら追いかける。ふと、セルジュの左腕が目についた。いつもの隊服では隠れている竜の印が目立っていた。


思わず、セルジュの左腕を捕まえる。

「っ!!!なんだ?!」

「竜の印!こんなとこにあるんだ…キレイ…セルジュのは真っ黒だねぇ」

「はぁ……キミはもう少し行動基準をどうにかした方がいい。グレンから聞いたんだっけ?」

「うん!グレン隊長のはちょっと緑がかってたよ。それにセルジュのが羽根が多い…?」

「そうだな、俺は『4枚羽』だから。そこまでは聞いてないのか?」

こくこくと頷く流月に説明を続ける。流月は腕に捕まったままで、傍から見れば腕を組んでいるように見えるのだが、話に夢中になる二人は全く気が付かなかった。


「印は生まれつきなんだが、印に、と言うか対になる竜にランクがあるんだ。羽根の多い竜の方が強くて、5枚羽の竜が他の竜を纏める『長』の役割をしている。だから『5枚羽』の印を持つ竜騎士が騎士団長になるんだ」

「?ミラからセルジュが騎士団長みたいなものだって聞いたよ?なのに4枚なの?」

「『5枚羽』の印を持つ者がみつかってない。だから4枚羽の俺が代役をしているってだけだ」

「セルジュに決まった理由は?他にもいるんでしょ?」


「…俺一人、だな。……竜の力がどんどん弱体化している…竜の長も生まれない程に」

セルジュが無意識に力を込めた拳に、流月はそっと手を重ねた。最後の呟きが長の対にはなれない自分への苛立ちのように聞こえた。

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