50.深夜の男子会と
「つーか団長と隊長がそのまま帰ってこないとかどーいう事だよ」
何とか警護依頼をこなし、報告書など事務作業を終わらせた23時過ぎ。
グレンとセルジュ、そしてロキは薄暗い談話室にいた。
22時以降は基本的に談話室は施錠されており隊長格のみ使用が認められているが、基本的に個室が与えられている隊長格が使用する事は滅多になかった。それ故今も他に利用者はいない。
グレンとセルジュもどちらかの自室で飲むことが殆どなのだが、今回は珍しくロキも参加だ。成人男子三人がゆっくり寛げるほど個室は広くないため薄暗い談話室で三人がグラスを片手に雑談 ーと言う名目で、途中で職務放棄したセルジュへの愚痴をぶつけていた。
「流月確保したならさっさと連絡よこせよな、おっさん。どんだけ心配したと思ってんだ」
「悪かったって……ちょっとこっちも色々あって」
「なんだ色々って。こっちは今すぐにでも竜化しそうなロキを必死になだめたり、狸の嫌味を受け流したり……お前の尻拭いしてやったんだからな。そもそも依頼受けたの一番隊だろ」
「…………」
グレンの正論にぐうの音も出ないセルジュは無言でグラスを呷った。
「悪かった!流月とのやり取りで冷静さを欠いた。ホントにお前らがいて助かった。ありがとう」
空になったグラスをタンッとテーブルに置き、額がテーブルにつきそうな程頭を下げた。そのまま一息で謝辞を述べる。
「全く心こもってねぇなー」
グレンがくくっと笑いながらセルジュへ酒を継ぎ足す。
セルジュはうるせーと言いながらそれを受けた。
「で、流月は?なんともなかったわけ?」
「あぁ、それが……」
セルジュは事のあらましを二人へ説明した。もちろん、控え室に戻ってからのやり取りは大半を端折ってだが。
「ブローベル侯爵、ねぇ……最初の挨拶で顔見せたくらいで、その後会場では見てねぇな」
「あぁ。挨拶も一言二言で狸に代わってたし……そんな積極性があるようには見えなかったが……流月との接点を持ちたがってるのは間違いなさそうだ」
「でも流月がその場に行ったってのも全くの偶然だろ?普通会おうと思ったら会場に来ないか?」
「…………前当主と長男が不慮の事故で死んで、仕方なく次男が継いだって聞いてる。そもそも家督を継ぐはずじゃなかったんだし、社交の場は苦手とか?」
ロキが氷の入ったグラスをカラカラと回しながら答える。
「おっ前、相変わらず何でも知ってんなぁ……驚き通り越して怖ぇよ」
「グレン隊長が興味なさすぎなんだよ。一人で生きてくには情報が大事なの!貴族との付き合いも大事な商売網なんだから」
「社交が苦手なタイプでは無さそうだったな。どちらかと言うと飄々としたタイプの……」
ロキの言葉にブローベル卿とのやり取りを思い出す。
ー あまり人の為に動くタイプに見えなかったが……今回はたまたまの接触か?
「もしくはオレ達で助けた女の子もグルだった、か。だとしたら相当な策士だね、その人」
ロキから詳細を聞いたアクシデント。
流月じゃなくとも騎士であれば誰でも同じ対応をしていただろう。それでも流月だけを狙えるものなのか?だとしたらどこまで警戒しても足りない気さえしてくる。
「しばらく警戒した方が良さそうだ……城下にも一人では行かせないほうが」
グレンもロキも無言で頷く。
隊服を着ていなくとも、あの髪色と瞳の色では否が応でも目立ってしまう。
「どこに行っちゃだめなの?」
突然の第三者の声に、その場にいた全員が驚き振り返った。
見ると、淡い水色のワンピースを纏った流月が立っていた。艷やかな黒髪はサイドで緩く編み込んである。
「流月!?な、んでここに」
「うん?ミラのとこから帰る途中で明かりが見えたから寄っちゃった」
「な………っ………」
騎士棟内であれ警戒心を持てと何度伝えたら理解するのだろうか。
悪びれる様子もなくにこにこと答える流月にセルジュはがくっと落胆する。談話室使えるんだね、と言いながらロキの隣の席についた。
「……?流月、なんか飲んでる?」
ふわりと感じる酒のような匂いと、いつも以上ににこにこと楽しげな様子にロキは違和感を覚えた。そう言えば僅かに顔も赤い気がする。
「うん!ミラがしっかりお肌ケアしてくれて〜今日はゆっくり寝なさいって紅茶に少しお酒入れてくれたの。美味しかったよ〜んふふ」
両頬を押さえて幸せそうににこにこ答える。喋り方もふにゃふにゃで舌っ足らずだ。特に今居る面子に対して警戒心の欠片もなく、懐きまくっている流月だが、流石にいつもの様子とも異なる。気がする。
「…………酔ってねぇか?」
「確実に酔ってる」
「ミラが飲ませすぎるって事はまずないし………相当弱いのか」
グレンが苦笑しセルジュが頭を押さえる中、ロキがおもむろに立ち上がり流月の腕を掴んだ。
「とりあえず言いたいこと言ったし、コレ連れてくよ。流月、行くよ」
「えー??私もお喋りしたいのにー」
「駄目。じゃあね、隊長さん達」
ぎゃあぎゃあと不満を言う流月を丸っと無視して、ロキは颯爽と談話室を出ていった。
「オイ、よかったのか?」
「…………とりあえず明日流月とミラに説教だな」
嵐の去った静かな談話室に残された二人は再びグラスに手を付けた。
…………
「ねぇっ、ロキ!速い!痛い!」
流月の腕を掴んだままロキは自室のある建物へ進んだまま、足を止めない。いつものロキは何も言わず流月の歩くスピードに合わせていたのだが、今日は違った。
ー もー!!今日これ2回目なんですけど!!!
いい加減話を聞いてくれないロキに流月も腹を立て、掴まれた腕を思い切り振り払った。ロキは流月の抵抗に何も言わず振り返る。無言の圧力にたじろぐが、負けじとロキの目を睨んだ。
「せっかく楽しかったのに、何怒ってん」
文句を言おうと開いた口を、柔らかな感触が塞いだ。




