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頑な少女は竜の騎士に暴かれる?!  作者:


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44.夜会1


「そんな訳だから、キミはいつも通りで。では。…………行きましょうか?騎士団長」


「…っ……はいっ!」



ー どきどきしないっ!!



と、自分に言い聞かせてみたものの、それが難しいと理解している。


グレンから内緒話を聞いて、アリアナとグレン、セルジュの哀しみを覗いた。『騎士団長』が大切な存在だって充分分かったし、誰も哀しまないようにもっと強くなりたいと思った。

そして何より。グレンとアリアナを気遣って、自分自身の哀しみに蓋をしたであろうその頃のセルジュを抱きしめたくて堪らなくなってしまった。

蓋をしても無くならないことは身を持って知っている。蓋を開けて、誰かに受け止めて貰えて初めて楽になることもここへ来て知った。


宰相からの封書が届いて以来、準備のためかセルジュと会う頻度はぐっと減っていた。会えないうちにも勝手に想いは募り、セルジュにそうしてあげられるのが自分だったらいいのに、と願ってしまう自分を何度も何度も諌めた。けど、


ー うーーだめ、カッコいいーー


久々に会ったセルジュは公務用の隊服を着て、外面用に髪型もバッチリセットされていた。初めて見るその姿に流月の動悸は落ち着く様子を見せず、ぐるぐると暴走してしまいそうな感情と脳みそを何とか制御している状態だった。



と、不意に手を引っ張られる。


「流月?大丈夫か?」

「ぅえっ……大、丈夫?って何だっけ」

「急に動かなくなるから」

「ウソ、ごめん……ちょっと暴走してた。大丈夫」


気づくと他の隊員達の姿はなかった。

気まずくて視線を合わせられない。ご褒美のくだりはミラとグレンが居たからできたのだ。二人きりの状況では軽口を叩く余裕なんて全くない。

流月の支離滅裂な応答に苦笑し、掴んだ手を離した。


「………………不安?」

「な、にが??」


突然のセルジュの問いかけに、流月の声が若干裏返る。



「それ、今日だけで何度も見てるから」


セルジュが流月を指差す。

流月は無意識に自分の胸元で右手をぎゅうっと握り締めていた。



それは母親がいつもやってくれたおまじないのようなものだった。

小さな頃、怖いことや不安なことで泣いてしまう流月の小さな手を、母親が大きな手で包み込み胸の前でぎゅっと握ってくれていた。たったそれだけのことで、包んでくれる手の暖かさに、怖さも不安もすっと消えていったのをよく覚えている。恐怖や不安で泣かなくなってからも、自分を落ち着かせるための大事な手段になっていた。



でも、セルジュに何かを聞かれたことも説明したこともなかったはずだ。



『……見てたからな、分かる』



急にあの夜の熱さが思い出され体温がじわりと上がる。


ー ヤバい、顔あかくなってる気がする


顔を見られたくなくて左手で顔を隠す。


「ち、がわないけど、そんなに何でもかんでも読まれると…………」


どうしても、ほんの少しでも期待してしまうことを止められない。

そしてきっとズルズルと甘えて頼ってしまう。



「るつ、」コンコン…



開けたままの扉にノックの音が響いた。


「宰相が呼んでるから迎えに来たんだけど……取込み中?」


見ると扉のそばにロキが立っていた。

いつも通りの声音であるが、セルジュへ投げる視線がいくらか鋭い。


「そ、れは!すぐ行かなきゃだね!!!行こっか!!」


流月はぱあっと表情を変え、逃げるように控室を出ていった。


「……流月は、体調でも悪いのか?顔が赤かった気が……」


セルジュには流月の行動の意味がイマイチ分からなかったのだが、その明後日なセリフにロキは不機嫌さを隠そうとせず溜め息をついた。


「緊張でもしてんでしょ、知らんけど。とにかく早く来いって」




………………




「…………それでは、建国神と始の竜の導きが我が国へ栄光と繁栄をもたらすことを願って……乾杯!」


いつの間にか現れたオリバーの合図とともに緩やかに音楽が流れ出し、ダンスを楽しむ人、歓談する人、食事をする人達によりホールの空気が楽しげに動き出した。




「……こんなの映画の世界だけだと思ってた……綺麗」




ホールを軽やかに舞う、色とりどりのドレスに流月は感嘆の声を漏らした。

流月はセルジュ、ロキとともに怪しい人物がいないかホールを囲う二階の回廊を見回っているのだが、初めて見る光景に視線が釘付けになっていた。と、ちらちらと無視できないほどの視線がこちらへ向いていることに気付く。何が気になるのだろうかと視線の送り主を確認してみると、バッチリ合う無遠慮な視線が多く存在していた。何やらコソコソと話し合っている姿もちらほら見られる。気がした。



「………………自、意識過剰だったらアレなんだけど……何か、見られてる?気が……」


後ろを歩くセルジュとロキに流月は歩みを合わせる。長身の二人に紛れ込みたい気持ちが八割だ。

ロキがちらりとホールを覗き込み、面倒くさそうに呟いた。


「そんなカッコで警備させてたらそりゃ見るよなー。初の女性騎士団員!……全くロクな指示出さねぇな、あの宰相は」

「『騎士団長』と認識している人もいるんだろう。元老院が広めてたようだし」


セルジュが視線を向けると所々で黄色い歓声が上がり、慌てて視線を戻す。


「………………三割はおっさんのせいなんじゃねえの」「そんなにいない」


完全に否定しないところを見ると、毎度の光景なんだろう。


ー ふーーーん……だってかっこいいもんねぇ


理解は出来るが何となく面白くない流月は唇を尖らせたまま、歩みを早めた。自分への視線なんてどうでも良くなってしまうから大概単純だ。



「…………っと、流月、下へ向かうぞ。宰相から合図だ。ロキは上から見張っててくれ」


令嬢達に気付かれないようホールを確認したセルジュが声をかけた。途端、


パンッ!!!!


と、両頬を叩く音が響いた。


「なっ?!」

セルジュが驚きの声を上げる。流月は何も応えず、ふぅーっと深く息を吐いた。


今更どうこう言っても状況は変わらない。ならば少しでもアリアナのために自分が出来ることを。それに、キャーキャー言う事しか出来ないご令嬢なんかに負けたくない。


そう腹を括った流月はセルジュの瞳をまっすぐ見つめ、優雅に微笑んだ。



「では、行きましょうか。セルジュ一番隊隊長」


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