33.式典前
休息期間の一週間はあっという間に過ぎ、叙任式当日の朝。
「ねーミラ〜なんで採寸室なの??」
「リズさんに頼まれたのよ。なんか、『服飾班の本気を見せたい』らしいわよ?」
「???」
流月はミラに採寸室へ連れられてきたが、その理由は今ひとつ理解出来ないでいた。採寸室前へ到着し、ミラが扉をノックする。以前、採寸を行ったときとは違い、中では慌ただしく動く人の気配があった。
「はい!お待ちしていました!」
出迎えたのはチビロキと同じ年頃の女の子だった。ふわふわの栗毛を二つに結んでおり、ピーチピンクのくりっとした瞳が愛らしさを際立たせていた。
「わたくし、服飾班のアメリアと申します。本日、流月様のお着替えのお手伝いをさせていただきます」
アメリアがペコリと丁寧にお辞儀をし、ミラと流月を採寸室内へ招き入れた。
アメリアがミラをやや小振りなテーブルに、流月をカーテンで囲われた更衣室へ手際よく案内していく。
更衣室内には既に式典用の隊服が準備してあった。流月が更衣室内に入りカーテンを閉めようとすると、当然のようにアメリアも中に入り込んできた。
「えっ!あの、アメリア、ちゃん……私自分で着替えられるよ」
「いえいえ、流月様に完璧に着こなして頂くためのお手伝い係です!ご遠慮なさらずに!さぁ、お召し物をお脱ぎください!」
「ひぇっ……あの、待って、アメリアちゃ……自分で、脱げます!!きゃーー、待ってーーー!!!」
…コトッ
更衣室から聞こえる流月の叫び声にミラがクスクス笑っていると、リズが紅茶を持ってやって来た。
「あ、リズさんありがとう〜いい香り!アメリア、相変わらずね」
「でしょう?採寸した時に流月を見かけて以来ずっと流月のデザイン書き続けているのよ、あの子。今回の執着はなかなかのものよ」
「わー愛が重い!でもいいセンスしてんのよね。今度あたしも作ってもらおー」
「ミラ?アメリアは『綺麗なもの好き』なのよ?」
「あら、それならあたしのデザインも止まらさそうね」
ミラとリズが楽しげに雑談していると、試着室のカーテンが勢い良く開かれ、そこにはやりきった表情のアメリアと疲れ果てて項垂れる流月の姿があった。
「完璧ですッ!!」
「……………………」
「あははははっ!!流月、顔顔!!」
ミラが大笑いをしながら流月の方へ近付き、しゃがみ込む流月を立たせた。
「いいじゃない!流月、とっても似合ってるわ」
よろよろ立ち上がった流月を見てミラが歓声を上げた。
通常時と同じライトグレーの上着だが、細かい装飾がこれでもかと施されている。更にロングコートの様に丈が長く、その間からは同色のスカートが覗いていた。要所要所にさり気なくレースまで取り入れられていた。
「へぇ、スカートにしたのね」
ミラの言葉を聞いて、流月はスカートの裾をピラリと持ち上げる。薄いグレーのスカートから黒のレースがちらりと除いた。
「男性騎士と同じ服って意見も勿論ありましたが、せっかくの式典用隊服を他の男性騎士に紛れ込ませるなんて勿体なさすぎて……全力で流月さんの可愛さが十二分に発揮されるデザインを考えました!!」
アメリアが目を輝かせてミラへ熱弁を続ける。
「アメリアちゃんていつもあんな感じなんです?」
流月はその圧にやや怯えながら、リズにこっそり尋ねた。
「あぁ、流月が来て2割増しくらいかしら?」
「あれで、たったの2割増し……」
「でも、センスと腕は本物よ。とても似合ってる」
優しく微笑まれ乱れた前髪を整えてもらった。思わずどきりとしてしまう。
「…ありがとう、ございます……あ、中の、ワンピースが本当に凄いんですよ!ピッタリフィットするのに窮屈じゃなくて……これは本当に一人じゃ着られなかったかも」
照れ隠しのためやや大きくなってしまった流月の声に、アメリアが耳聡く反応した。
「勿論です!!窮屈さなんて感じさせません!……かと言って、インナーにゆとりを持たせると上着を着たときのラインがもたつくので、可能な限り上着への影響が無いように作っています。なので、インナーワンピだけでのお出かけは絶対に避けてくださいね!体のラインがしっかり出ちゃうので」
「ひぇ………それってもはや下着なんじゃ……」
にっこりいい笑顔で説明するアメリアに流月は思わず突っ込みを入れた。
………………
謁見の間の重厚な扉の前で、式典用の隊服に身を包んだ流月とロキが立っていた。緊張した面持ちで扉を見つめる流月をロキはチラリと横目で確認する。
「……よかったの?これで」
「え?」
ロキは正面を向いたまま、扉の両側に立つ守衛兵に聞こえないように顔を近付け問いかけた。
「『竜騎士団で力を使う』ってまーまーしんどい事も多いと思うけど。別にオレだけでも…」
「やだ。だめ」
ロキの質問の意図が分かって、流月はそれ以上を遮った。ロキはそんな流月の様子を見て小さく溜息をついた。
「また何かで頑なになってる訳じゃない?」
「…………何かしなくちゃって思ってたよ。『あっち』じゃなくて『ここ』に居ていい理由が欲しかったから。皆を助けたいはずなのに、ただの辻褄合わせみたいって、ずっと思ってた」
流月はポツリ、ポツリと言葉を続ける。ロキに通じているか分からないが、誰にも知られたくなくて、蓋をしなくちゃと思っていた本音を言葉に出来る自分に少し驚いた。
ロキはどんな自分でも受入れてくれる、そう流月は実感できている。
扉の向こうが僅かに騒がしくなっているが、先程までの緊張はどこかへ行ってしまった。
「でも、それよりも……」
そう呟いてロキの指先をギュッと握る。
「あの時みたいにロキが……ロキだけが傷つくのが嫌。セットなんでしょ?私達」
「……お時間です」
守衛兵が二人に声をかける。
流月は握った指手を静かに離し、落ち着いた様子で正面を見据えた。
謁見の間の重厚な扉が、守衛兵の手によってゆっくり開かれる。




