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頑な少女は竜の騎士に暴かれる?!  作者:


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31.流月とロキ(大)

人の気配に、発散していた意識が像を結んだ。

ゆっくり瞼を開く。その動作にいつもより労力がかかるな、と他人事のように思った。


目を開けると、何度も見た休養室の天井だった。


上体を起こそうとするが、体がずしりと重く思うように動けない。何が起こっているか確認するため軽く首を上げると、お腹の上に見覚えのある赤味がかった銀髪の頭が乗っかっていた。おまけに左手は強く握られている。



「…………ふふっ」

状況は全く飲み込めないが、なんだか面白い光景に流月は笑いながら力を込めて何とか起き上がった。ロキの頭は滑り落ちるが、起きる気配が全くない。


「もー、人の上で熟睡しないでよね」

それでもロキを起こさないように小声で囁いた。空いている右手でロキの前髪を梳く。


「…………あ、れ?」

ちらりと覗く寝顔に何やら違和感を覚えた。

まじまじ観察しようとしたところで、後から衝撃を受けた。


「わっ!!!」

「流月!!!!アンタ…どんだけ心配さすのよ!!!」


声でミラだと言うことは分かったが、怒られる理由も、ミラの涙声の理由も皆目検討がつかない。ミラは力いっぱい流月を抱き締めていた。


「ミラ?……心配かけて、ごめんね……?」

前例があるのでとりあえず謝っておく。


だがよく分かっていないこともミラにはお見通しだったらしい。抱きしめられたまま、頬を抓られた。


「適当に謝らないの!……アンタ、3日も意識が戻らなかったのよ」

「えっ!!?何それ!!!怖い!!」


ようやく体を離したミラが潤んだ瞳を擦りながら流月の正面に回った。



「ロキを探しに行ったのは覚えてるわね?魔力使い切って倒れて帰ってきて、ロキが魔力を回復させたのに、ぜんっぜん起きる気配なくて。アリアナ姫が言うには魔力のないアンタが竜との契約を行ったから反動の回復に時間がかかるんだろうって……でも前例がないから確証なんてなくて。」


ミラが説明してくれているが、流月には疑問が増えるばかりだった。

魔力を使い切った覚えもなければ、竜との契約なんてそもそも知らない。何とかロキを止めたくて必死だった事しか覚えていない。

そして次々現れるあかい傷のことを思い出した。


「ロキは……」

「ロキ?ほんのついさっきまで、ずーーっと流月に付いてたんだけど。限界だったみたいね。」

ミラがそう答えながら、眠りこけるロキの頭を指で突く。


「じゃなくて、怪我は?!」

「怪我?ああ、数か所深い傷は縫合したけど後は大丈夫よ。すぐ治っちゃうわ」


それを聞いて安心したと同時に先程の違和感が戻ってくる。



「ねぇ、ロキ、なんだか雰囲気違わない?」

「そりゃあ、急に五歳も年取れば変わるわよね」


「何?…………ご、さい……?」


話し声が煩いのかロキがもぞもぞと体勢を変え、空いている右手を流月の腰に回した。体勢を変えたせいでロキの顔がハッキリ確認できてしまった。


長い睫毛に、通った鼻筋。

パーツは間違いなくロキなのだが、あどけなさがまるっと消えてしまっていた。


自分と同じか、やや年上の青年が自分の腰に抱きついている。『可愛い年下の男の子』だと思っていたから許せた色々が、許容し難くなってくる。

そしてそれを受け入れるには、ちっとも時間が足りない。


「…っ……きゃーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!」


思わず流月は叫んでしまっていた。

突然耳元で弾けた高音に、ロキはガバっと起き上がった。


「なっ……何……」


何が起こったのか分からず周りを確認すると、真正面には顔を真っ赤に染めた流月が座っていた。予想外の光景にロキは目を見開き、ずっと離すことのなかった左手を強く引っ張った。

突然の力に、流月は抵抗する間もなくロキの腕の中にぼすんと収まった。



「……ろ……き……?」

「流月……馬鹿なことしてごめん」

ロキはぎゅうっと腕に力を込める。あまりの力強さに痛みを感じたが、流月は何も言えなかった。

「目が覚めて、よかった…………」


記憶の中の声より数段低く響く声が僅かに震えている。

自分をすっぽり覆う背中が、少年の小さな背中と重なった。

流月はそっとロキの背に手を回し、優しく擦った。



「心配かけてごめんね?ありがとう」





と、廊下を急ぐ足音が近付いてきた。

「なんだ、今の叫び声は……」



怪訝な顔を覗かせたのはセルジュだった。セルジュも起き上がっている流月を見て驚きの表情を浮かべたが、ロキが引っ付いている様子に僅かに眉間の皺を深くした。


「気が付いたか……体調はどうだ?」

そう言いながら流月の元へ近付く。

「だ、大丈夫……」


自分の気持ちを認識してから初めて顔を合わせるセルジュに、流月は若干硬くなってしまった。顔を見るだけで、声を聞くだけで心拍数が勝手に上がる。

その反応をどのように取ったのか、少し困った顔をして流月の頭を優しく撫でた。そのついでにロキの頭を軽く叩く。

ロキは流月を離し、叩かれた頭を両手で押さえた。


「ってぇ!!なーにすんだ!!」

「もうガキじゃないんだ、ひっつき過ぎ。流月、今日一日は医務室でゆっくり寝てろ。何ともなければ明日アリアナ姫も交えて話をしよう」

そう言うとセルジュは休養室から出て行ってしまった。



「セルジュ隊長ったらあっさりねー、あんなに心配してたのに。ロキ、流月に付いててね」

その言葉に頬が緩みそうになり、慌てて両手で隠した。

ミラは気づかない様子で医務室へ向かう。


「へーい」と気のない返事をしたロキだけが、流月の様子を不満気な顔で見つめていた。







「…………オレにしとけば?」

突然の呟きが何についてなのか、流月は理解できず両頬を隠したまま首を傾げた。


「オヒメサマの『婚約者』なんだろ、アイツ」


そこまで言われて、やっと理解することができた。


「……なっ……んで……」


自分の意志とは関係なく顔が赤くなっていくのが分かる。

その反応に、更にロキが不貞腐れた。


「オレ、耳いいって言ったじゃん……そんな流月の声聴いてれば分かるし。あとそのやたら早い心臓の音とか」

「やだだめ!!何も言わないで!!!」「……むぐっ!!」

流月は前のめりになってロキの口を両手で塞いだ。バランスの崩れた体をロキが支える。


「分かってるの!好きになっちゃいけないってことは。勿論伝えるつもりなんかないし。ただ、自覚はしたけど改めて人に言われるとうわーってなるって言うか……だから何も言わないで……忘れるから、ちょっと……待ってて……」


真っ赤な顔を辛そうに歪めて、流月は言い訳をするようにまくし立てた。ロキは口内で舌打ちし、口を塞ぐ流月の細い指を絡め取ると、


……チュッ


わざとらしくリップ音を鳴らし、流月の手の平に口付けた。

流月は目を真ん丸くし、真っ赤な顔を更に赤く染めた。何か言いたげな唇がわなわなと震えている。

ロキの耳に大きく脈打つ心臓の音が届いた。多少は意識してくれているんだろうと、口元が緩みそうになる。



「別にそんな顔するくらいなら無理に忘れなくていーよ、オレが変えるから」



ロキはニヤリと笑うと流月を抱き寄せ、そのままベッドに倒れ込んだ。



「わわっ!!!」



ロキの上に乗っかる体勢になってしまった流月は、慌ててロキの上から離れようと藻掻く。が、ロキに強い力で阻まれ、程なくして諦め藻掻く事をやめた。



「…………潰れても知らないから」

「潰れるわけ無いでしょ、流月の方が小さいのに。」

「…………私の可愛いロキならこんな事しなかったのに……」

「しなかったんじゃなくて、出来なかったの。チビだったからね…………だからオレは今の姿になれてよかったよ。小さい流月をぎゅってできるし、流月を堂々と護れる。それに子供扱いされない」



「そんな子供扱いしてたかな?」

「少なくとも今のオレに部屋の鍵渡さないでしょ…それに、こんなにドキドキしてくれない」

「………………」



ごろり。

不満げに唇を尖らせ、流月は顔を隠してしまった。

流石に怒らせたか?と流月の様子を伺うが表情は全く見えない。オーラは確実に不機嫌だ。


「…………流月?」


自分でも驚くほど情けない声が出てしまった。が、どうしたらいいのが分からず固まっていると、ふっと吹き出す声が聞こえた。流月はもぞもぞと体勢を変えると、ロキに気の抜けた笑顔を向ける。



「んふふ、なにそのしょんぼりした声。…………大きくなっても匂いは変わらないのね。ロキの匂い……落ち着く」



そう言われ、情けなくも心臓が大きく脈を打った。

真っ赤になっているであろう顔を見られたくなくて、流月を抱く腕に力が入る。



ーホント、ズルい……



暫く無言のままいると小さな寝息が聞こえてきた。落ち着くのは本当の事らしい。

セルジュ相手では寝息など立てないんだろう、と面白くない気持ちもそれなりにあったが、気を許して眠る流月を愛おしく思う気持ちの方が勝った。

流月の規則正しい寝息を聞いているうちに、抗いがたい眠気がじわじわとやって来る。そういえば暫くちゃんと寝てなかったな、と流月を抱いたまま布団にくるまりロキは瞼をゆっくり閉じた。

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