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頑な少女は竜の騎士に暴かれる?!  作者:


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29/64

29.覚醒2


「この先は……竜の谷、か?」


セルジュが流月の頭上で呟いた。


スピードを上げた黒竜の速度は流月の想定を大いに超えており、流月は手綱を掴むことに必死になっていた。セルジュに後ろから支えられていなければ飛ばされている気しかしない。

そんな予断を許さない状況なのに、流月は平静を装えないでいた。


密着する背中や流月を抱きとめる右手に意識が集中してドキドキしてしまう。そして密着するセルジュにそのドキドキが伝わらないか心配になり、更にドキドキしてしまう。



ードキドキで死にそう……



今迄だって触れられる事は何度もあったのに、こんなにドキドキすることはなかった。あの手当の夜から自分は何かが変わってしまったのかも知れないと、そう思って瞳を閉じた。




不機嫌なフリしながら心配して、助けてくれる事が嬉しい。

気付くとあの優しい目で見てくれている事が嬉しい。

上手く伝えられなくても気付いてくれる事が嬉しい。

少しざらつく大きな手で優しく触れられる事が堪らなく嬉しい。

あの夜の、真剣なアイスブルーの瞳が過ぎった。





ーあぁ、とっくの前から好きだったのかも知れない……





流月はゆっくり瞳を開けた。


と、突然火球が目の前の闇夜を切り裂いた。

火球の灯りに照らされ、何頭もの竜が飛び交う様子が見て取れた。警戒しているのか興奮しているのか、ギャアギャアと多くの竜の声が響いている。


「……アイツこんなところで暴れたな…」


セルジュはそう言うと火球の上がった地点へと急いだ。



目立たぬよう黒竜から降り、竜達が集まる場所を確認する。

洞窟に逃げ込んだのか、入口付近やその上空におびただしい数の竜が集まっていた。




…………




「何、こんなトコまでのこのこ来てんの……」


ロキは右腕を押さえながら洞窟の壁際に立っていた。竜とやり合ったせいなのか、右腕からは赤い血がぼたぼたと垂れている。

洞窟内に落ちていたであろう枯れ木に炎が灯っていた。炎のせいかロキの顔色はあまり良くない。

傷に気が付いた流月が駆け寄ろうとするが、セルジュが右腕で制止する。


セルジュがロキの姿を見て目を見開く。

ロキの、少年の体からあかい竜の翼が生えていた。


「………キミは、半竜……?」

「へぇー、半竜っていうんだ。この中途半端な体の事」

「………じゃあ騎士棟で目撃された竜の影はキミ、か?」

「そうそう。次の街に行くのにこっそり出ようと思ったら見つかっちゃってさ。騒がせちゃってごめん、もう大丈夫だから帰っていいよ」


何でもないようにロキは笑って言い訳を紡ぐ。


「次の街ってのがここか?……流月の声を盗ったのはキミだろ?大人しく還すんだ」

「…………なんだ、そこまでバレちゃったんだ……ここに入った途端威嚇されて、ちょっと苛ついてたから反撃しちゃったらこのザマだよ」


ロキは諦めたように呟き、壁にもたれ掛かった。


「…………人でも竜でもない……半端者はどこにも馴染めないんだ。それでも生きてきたのは、どうしてもルツキに会いたかったから。記憶の中で泣いていたルツキを笑わせたかったから……それなのに、せっかく見つけたルツキの隣にはもうアンタがいた。笑わせて、守って、オレのやりたかった事全部アンタが持ってっちまったんだ…………ルツキのあんな声、アンタなんかに聞かせたくない」


「何を……どれだけ自分勝手なことを言っているか分かってるのか?」


記憶だが声だかセルジュには全く理解できないが、少なくともロキの言い分が子供の癇癪のようにしか聞こえない。そんな子供じみた理由でこんな事をしでかしたのかと苛立ち、眉間の皺が深くなる。


「うるせーな、分かってるよ!!何でも持ってるアンタには分からねぇだろ!唯一、それしか支えが無かったんだ。そのために必死に生きてきて、でもそれすら、オレの体に流れる魔力のせいで………結局、オレには何もないじゃねーか」


自嘲気味に笑うロキの瞳から涙が一雫こぼれ落ちた。


「ルツキ、アンタ印持ちだろ?……オレとアンタの魔力がよく似てんだ。父親か、母親か知らねーけどどっちかがアンタの対なんだろ……オレはその魔力の記憶を、自分の記憶だと思って、それを唯一の支えにしてきたんだ、馬鹿みたいに。記憶も支えも、オレのじゃなくていいから、オレの意志でほしいと思った声だけは渡したくない…………………オレは、これだけ持ってもう消えるから」


ロキが自分の喉を愛おしそうに片手で覆った。

流月の喉元がじわりと熱を帯びる。恐らく流月の声を示しているのだろう。ロキの絶望した瞳に、何故か怒りが湧いた。



ー 何も気付かないまま、消えるなんてさせない。

 私を助けた貴方が絶望しか知らないなんて許せない。



緩みかけたセルジュの静止を振り切って、流月はロキへと走り出した。慌てて止めようとしたセルジュは流月の右肩を掴み、その熱さに思わず手を放してしまった。



流月はロキを強く抱きしめる。

何度叫んでも流月の喉からは何の音も出てこない。

どこにも属せない辛さも、何もできない歯痒さも痛いほど分かる。声を出せないことがもどかしい。そんな顔をしたロキに言葉がかけられないことが悔しい。その悔しさに涙が滲む。



ー だって、違うのに!!!



流月の首元に熱が集まる。

感情の昂ぶりのまま解放された魔力が、ロキの魔力の痕跡を掻き消した。

 



「……う………違う!!!このまま消えるなんてさせない!!貴方が居たから、私はここに来れて救われたの。貴方がいてくれるから、私は皆を助けられるの。プレナの実、あんな酸っぱい実を『美味しい』って食べるのは竜くらいなんだよ…………魔力が同じなのは当然でしょ?」



「貴方は半竜なんかじゃない…………私のあかい竜よ?」



そう言って涙の滲む目尻に口付けを落とした。

瞬間、ロキの体が真っ赤な炎に包まれ、炎に包まれた場所からどんどんとあかい竜の姿になっていった。呆然としたままピクリとも動かない。それなのにロキの体から溢れる魔力がロキの体をどんどん傷付けていく。


「ロキ!しっかりして!!そんな使い方したらダメ!!お願い、気付いて…私ここにいるよ!繋げてくれたのはロキだよ!!」


流月は必死にロキの首へしがみつく。次々現れる傷からあかい血が溢れてくる。ロキの反応は無いが、絶対痛いに決まっている。流月がいくら傷を押さえても、ただ流月の手が赤く染まるだけだった。それでもロキの魔力は止まらない。



「……ッ……もーーーこれ以上、貴方を傷つけないで!!!」


流月の叫び声に呼応し、流月の魔力の全てが解放された。

自身を傷付けるロキの魔力を巻き込んで、大きな塊となった魔力が一直線に洞窟の天井に向かい大爆発を起こした。




……




二人を包んだ炎の勢いが凄まじく近寄れない。何もできないもどかしさに歯噛みするセルジュは、突然の爆発音に咄嗟に腕で顔を覆った。

天井に大きな穴が空き、一気に洞窟内の空気が外へ流れ出そうとする。セルジュの行く手を阻んでいた炎はその暴風により鎮火し、爆発による煙も舞い上がった砂埃もキレイに消えてなくなった。

弱まった暴風に腕を下ろしたセルジュは、立ち尽くすロキとロキに抱きついた状態の流月を視界に捉えた。

二人共酷い外傷は無いように見える。と、流月の体がぐらりと揺れた。



「…っ…流月!!」

ロキにしがみついていた流月は気を失い、ロキの体を滑り落ちる。地面に倒れ込む直前でセルジュが抱き止めた。


ー魔力が…弱い!!


ぐったりとする流月の異変に気付き、ロキへ振り向いた。あんなに執着していた流月が倒れたことに反応できていないことが、セルジュの目には異様に映った。


ー何があった?裂傷は酷いが、動けない程の傷はなさそうだが……



「傷はそれだけか?」

「…………あぁ……」

返事のできる状態であったことにセルジュは安堵する。



「洞窟を出た先に黒竜が居る。黒竜に乗って城へ戻れ」

「……ルツキは…」




「俺が連れて行く」


そう言って自分自身に大量の魔力を込める。

セルジュの全身が魔力で覆われたかと思うとミシミシと音を立てて体躯が形を変え、どんどんと巨大化していく。巨大化した先から肌は黒く変色し、艷やかな黒い鱗で覆われていった。



「……はっ…………マジでムカつくヤツ……」


セルジュの変わり様を間近で見たロキが苦々しく呟いた。


大きさは本物にやや劣るものの、艷やかな黒い鱗を持つもう一頭の黒竜が姿を現した。

アイスブルーの瞳がゆっくりと開かれる。

セルジュは流月を抱えたまま、大きな羽根を羽ばたかせた。

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