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頑な少女は竜の騎士に暴かれる?!  作者:


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28.覚醒の兆し


「じゃあ、おやすみなさい」


久しぶりのセルジュとの和やかな会話を終え、満足気な流月が外へ出ると廊下に人の姿があった。急な人影にどきりとしたが、雲から抜けた月の明かりで立ち尽くす人物の顔が確認できた。




「……ロキ?どうしたの?」



「……んで……なんで、なんでアイツとそんなに楽しそうなの。アイツにその声を聞かせないで!オレがずっと探してたんだ、ずっと笑わせたくて、それなのに!!!あんなヤツのために笑わないで!オレにはそれしか無いのに、オレだけの物なのに………!!」


ロキの言っている意味が正直、よくわからなかった。

でも、握った拳で眉間を覆うロキは、とても苦しそうな顔をしていた。


……



『小さな女の子が泣いていた』


それが、唯一の薄い記憶。

その女の子に会って、笑わせたくなった。それが唯一の支え。


その声の主がルツキだと分かって。やっと目つけたと嬉しくなった。


でも。でも、あれは本当に現実の記憶なんだろうか。だってルツキの顔も景色も何も覚えていない。ただ、ルツキの泣き声だけで……



そうだ、繋がったのは泣いていたルツキと、あかい……


……




「……キッ!ロキッ!!!!」



ハッと気がつくと心配そうな流月の顔が目の前にあった。

「どうしたの、大丈夫?!急に反応無くなって、凄く顔色が悪いし、酷い汗…」


心臓が嫌にバクバクしていた。荒くなった呼吸もまだ落ち着かない。何かを思った気がするが、頭の中がぐちゃぐちゃしていてよく分からない。


「………何、でもない」


汗で張り付いた前髪を払ってくれている細い指先を、初めて自分の意志で拒んだ。力のない返事を何とか絞り出す。


「ごめん、なんかちょっと、混乱して……部屋戻る」


いつも通りの対応ができる自信がなく、ロキは一人で部屋に帰ろうと流月に背を向けた。




「ロキ……?」


見送るしか出来ない流月はその場に立ち尽くす。

じわりと竜の印が熱を持ったことにまだ気付かなかった。



…………




何とか部屋に戻り扉を閉めると、ロキはその場でへたり込んだ。呼吸も動悸もちっとも落ち着く様子がない。恐怖感なのか不安感なのかよく分からない何かが、酷く焦った気持ちにさせる。

自分を落ち着かせようと深呼吸をしてみるが、酸素は全然入ってこなかった。



ー ルツキをずっと探し求めていた。

それは間違いのないはずだ。ルツキの声を聞いて、あの女の子だと確信できた。だけどいつから、何故探していたのか分からない。

そこを思い出そうとすると自分ではないあかい影がチラついて思わず身震いをした。


今まで記憶が無い事なんて特に気にもならなかった。

それが当たり前だったし、明確な支えがあった。

でも、そこが揺らぎそうになる。

ずっとずっと支えにして執着してきたのは『誰』だ?


それが『自分』でないのならば、『オレ』はなんだ?





…………




ロキは使うつもりのなかった流月の部屋の合鍵を使った。

窓際に置かれたベッドへ近付く。そこには静かに寝息を立てる流月の姿があった。いつものニコニコしている流月と違い妙に大人びて見えた。



「あんな声を聞かせないで、……せめてオレだけのものでいて…」


好きだと言っているような声で、アイツに笑いかけないで欲しい。今となってはその執着心すら自分の恋情なのか、魔力のせいなのかよく分からなくなっているが。それでも、唯一自分の意志で求め続けた『声』だけは自分だけのものにしておきたかった。



ロキが旋律を紡ぐ。

旋律に合わせるように魔力が唇に集まるのを感じる。

流月の首の下へ腕を差し込み、起こさない程度に持ち上げ、そのまま流月の細い首筋へ唇を落とした。


「……んっ……」


軽く吸い上げると、じわりと魔力の動きを感じる事が出来る。流月から吸い出す魔力が、自分の物と酷似していることに気付き、ロキの疑惑は確信に変わった。


「…………」

流月は身じろぎをするが、起きる気配は無かった。


こくり、と何かを飲み下す。じわりと暖かな塊が喉の奥に流れていく。それだけで少し、気持ちが落ち着いた。

そしてゆっくり唇を離した。

流月の体を元に戻し、そのまま僅かに揺れる瞼へも優しく口付ける。



「バイバイ…ルツキ」





……………





ーロキが、泣いている夢を見た。


嫌な胸騒ぎがして唐突に目が覚めた。右肩が熱い。

慌ててベッドから飛び起き、ロキから預かった部屋の鍵を持ち部屋を飛び出した。

いつもは静かなはずの騎士棟内が何故だがざわついていた。

が、そんな事を気にしている場合ではない。焦ってもたつきながらも何とか鍵を開け、扉を開く。


部屋の中はしんとしている。

カーテンの開いた窓から入る月明かりで部屋が照らされていた。ベッドには誰も居ない。誰かの寝ていた形跡すらなかった。





…………




「近衛、三番隊は王城へ!四、六番隊は敷地内の警備を!不審者は印持ちの可能性が高い。一、二番隊竜騎士は上空の捜索を!!」




団長室で雑務をこなしていたセルジュに、騎士棟内で不審者が確認されたとの報告が飛び込んで来たのは10分ほど前の事だ。報告に来た隊員へ全隊員を演習場へ集合させるよう伝え、セルジュも演習場へ急いだ。

夜間警備の隊以外もあらかた演習場に揃っていた。



竜の目撃情報が入っていた。未登録の印持ちである可能性が濃厚だ。機動力の高い一番二番隊の竜騎士を配置するのが得策だと判断し、セルジュは隊員へ指示を飛ばす。


「二番隊は王城から西側の捜索に当たる!出動っ!!」

セルジュの指示を受け、グレンが二番隊へ号令を投げかけた。

途端に10匹程の竜が暴風を巻き起こしながら一斉に飛び上がった。

「一番隊は東側だ!情報を掴んだものは直ぐに光弾を打ち上げろ!」

暴風に負けない声を張上げセルジュも一番隊へ号令を投げる。

そして自らも捜索に出るため指笛を鳴らし黒竜を呼び出した。深夜だというのにすぐに駆けつけてくれた黒竜を一撫でし、乗具に跨ろうとしたところで左腕を引っ張られた。

 


一刻を争う情況に舌打ちをしつつ振り返ると、真剣な顔の流月が立っていた。

「流月?!こんな時間になんで……悪いが今は構っている暇がないんだ、自分の部屋で」

流月を自室へ帰そうとするが、首を振って一向に折れない。

言う事を聞かない、何も話そうとしない流月に苛立ちが募る。

「いい加減にしろっ!遊びじゃないんだ!」

流月はビクッと肩を揺らす。涙目になりながらもその強い眼差しは変わらなかった。ふと違和感に気付く。



人に迷惑を掛ける事をあんなに嫌っていた流月が、こんな行動を取るだろうか。こんな顔をしながら何故何も言わないのか。


「流月、声は……」


流月の首元が目に付いた。

白い肌に映えるあかに触れる。流月がびくりと体を震わせ、驚きの声を上げようと口を開くが、セルジュの耳には何も届かない。

あかい跡から魔力の痕跡を感じる。流月の魔力とよく似ているが、制御すらろくに出来ない流月には無理な芸当だ。


「……誰に……」

呟いて、流月の抱える物に気がつく。ロキがよく来ていた上着だった。


「…………ロキ……?」

流月が一瞬驚きの表情を浮かべ、深く頷いた。



セルジュは隊服を脱ぐと有無を言わさず流月へ着せ、乗具へ乗せた。流月を支えるようにセルジュはその後ろに座り、手綱を引く。黒竜が大きく羽ばたき、上空へ舞い上がった。



「黒竜、ロキの気配を追えるか?」

セルジュが問いかけると、黒竜は短い答えを返した。セルジュは頼むと伝えるように首元をぽんぽんと叩く。

セルジュは右耳のイヤーカフスに触れ、魔力を流し込んだ。



「こちらセルジュ。新たな情報を入手したため単独行動を取る。隊の指揮は任せたぞ、オーウェン」

セルジュは相手からの応答を待たずイヤーカフスから手を離し、流月にも手綱を握らせた。


「スピードを上げる。しっかり掴まって」


そう言うと手綱を下方へ強く引っ張った。

ホバリングを続けていた黒竜が行き先を確定させると共に、しなやかな翼を大きく羽ばたかせる。

お付き合いありがとうございます。

亀ながら定期的に更新出来るように頑張ります!

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