22.王城へ
「セルジュ!流月は無事か?!」
セルジュが男達を拘束して間もなく、グレン達三人が合流した。
グレンは流月の無事な様子を見てホッとした表情を浮かべた後、直ぐに表情を引締めセルジュに情況を確認する。
騒ぎを知って自警団が集まって来ていた。情況を把握し終えたグレンが事のあらましを説明していた。
セルジュはロイへ少年を任せるとグレンと合流し、この件を騎士団預かりとしたい旨を伝える。自警団は嫌な顔はしたものの断ることは出来なかった。騎士団と自警団では覆せない力関係があるためだ。
ミラは怖い顔で流月を抱きしめたあと、少年の怪我を確認し始めた。
少年は顔は傷だらけではあるものの、意識もしっかりしていて命に別状はない。とは言え殴られた衝撃で耳朶は切れているし、踏まれた右手首は捻挫か、最悪骨折しているかもしれない。ミラは応急処置のために少年を馬車まで運ぶようロイにお願いした。
ロイから「流月さんも一緒に…」と移動を促された。
慌てて立ち上がろうとするが、足に力が入りそうにない。
ロイもミラも少年のケアで両手が塞がっている。少年の手当を早くしてもらわねば、自分の介助なんてしてもらっている場合じゃない。
「後でグレン隊長と行くから先行って、手当してあげて」
そう思った流月は立てないことを隠し、ヘラっと笑って二人を先に行かせた。
…
一息ついて周りを見渡す。
グレンとセルジュが自警団とまだやり取りを続けていた。その側では拘束された男達が項垂れている。
先程までの恐怖心はない。でも高揚感で現実じゃないみたいにふわふわしている。
ふと、流月は1メートル程離れた場所に麻袋が落ちていることに気がついた。側にキラッと輝く物も落ちている。
丁度少年が男に捕まった場所だ。
ーあの子のかも…
流月は立ち上がろうとするが、やはり足に力が入らない。
たったあれだけでホントに情けない、と思いながら這うように移動することにした。男に掴まれた場所だろうか、体重を支えようとした右腕が痛む。それでも流月は麻袋に向かって進もうとした。
と、急に視界が回転する。
「きゃっ…!!!!」
「何してる」
安定した視界の先にはセルジュの呆れた顔があった。先程の少年同様、流月もセルジュに抱え上げられていた。
「せ、るじゅ……」
「立てないなら素直に言えばいいのに」
「だって、話し合いは…?」
「大体終わった。後はグレンに任せる……あぁ、アレ?」
セルジュも麻袋に気が付いたようで、流月を抱えたまま軽々と拾い上げ流月に手渡した。
「ありがとう。もう大丈夫だよ、重いから、降ろして」
「全然重くない。騎士隊長を舐めるなよ」
そう言いながらセルジュは裏路地を進もうとする。
「え!待って待って、あの人達は?!グレン隊長は??」
流月は焦ってセルジュを制止しようと暴れる。
「わっ!暴れるな、落っことす!…後はグレンに任せるって言ったろ……キミ、歩けないんだろ?馬車まで運ぶ」
「でもでも……私なんかあとでいいから…」
「それ、いい加減怒るぞ」
セルジュの言葉に流月が再び固まる。本気で理解のできない表情をしていた。セルジュはその様子を見て溜息をついた。
「俺もグレンもミラもロイも、何か起こったから来たんじゃない。キミが心配で来たんだ。キミの優先順位が低い訳ないだろ。そりゃ騎士だから、色々優先しなきゃいけないことも多いけど……」
「キミはもっと欲張っていいんだ」
慌てて流月は両耳を塞いだ。
「…………流月?」
ーこれ以上、この人の言葉を聞くのは駄目な気がする!
怒られるのが怖いわけじゃなくて、もっと根本的に…!!
何故だがじわりと涙が浮かぶ。
ギュッと固くなっていると、体に振動が走った。
驚いて周りを確認すると、処置のために馬車へ戻ったはずの先少年がセルジュの体に引っ付いていた。さっきの振動はセルジュにぶつかった衝撃だろう。
「おっさん!苛めんな!」
「はぁ??」
セルジュの素っ頓狂な声が響く。
「セルジュ隊長ー!!その子、捕まえて!!!」
ミラが肩で息をしながらこちらへ走って来ていた。少年はセルジュが捕まえるまでもなく、セルジュに引っ付いている。正確にはセルジュと流月を引き剥がそうともがいているのだが。
「んもー!まだ処置終わってないのに走って行っちゃうんだも」「ルツキ、泣いてんじゃねーか!!」
少年の怒鳴り声に驚いたミラとセルジュが一斉に流月へ顔を向ける。
「え、やだ!待って違う……」
まさかバレると思っていなかった流月は慌てて赤くなった顔を隠してしまった。
「………………」
「……セルジュ隊長?まーた流月泣かせてんです?」
「違う!そもそも泣いてるなんて知らなかった、泣かせるようなことは…してない」
「怪しい……それにしてもこの子、よく流月が泣いてるなんて分かったわね。言われなきゃ気付かなかったわ」
「だって聞こえたから」
少年がポツリと呟いた。
「? ふふ、流月の事気に入っちゃったのね」
呟きを特に気にすることなく、ミラは笑いながら少年を馬車へ戻るよう促す。少年は流月も馬車へ向かうことを確認してから歩き始めた。
ーずっと探してたんだ。聞き逃すワケないだろ…
……
「そういえば、キミ名前は?」
馬車で王城へ戻る途中、流月が少年に問いかけた。
少年はちゃっかり流月の隣をゲットし、ぺたりと引っ付いている。流月も懐いてくれる少年が可愛くて仕方がない。
セルジュとミラが微笑ましく二人の遣り取りを見つめていた。
「オレはロキだよ」
「ロキくんね!私、流月だよ」
「ロキでいいよ……やっと会えた、ルツキ。ずーーーっと探してたんだ」
そう言いながら流月の腰にギュッと抱きつく。セルジュの顔がやや引きつる。
「もう、オレが泣かせないからね」
そう言ってジロリとセルジュを睨んだ後、流月の頬に口付けをした。
「わーぉっ?!」「っ…!!」
ミラが驚きの声を上げ、セルジュが目をまん丸くする中、流月は少年ーロキの言葉の意味が理解できないまま固まっていた。
ー探してた?私を…?『ここの人間』のロキが…????
お付き合いありがとうございました。
グレン隊長は気を抜くとチャラくなってしまうので気を付けるのですが、ロキはまーいっか!とチャラチャラさせてしまいます。




