20.城下の出会い
「ありがとうございます!えっと、30分位で戻ると思います」
「はい、ここでお待ちしています。気をつけてくださいね」
あれよという間に城下町のロータリーに到着した。
魔法演習場を出て真っ直ぐ医務室へ向かったが、丁度ミラは後方部の会議に出ているところだった。ひとまず空きの馬車を確認しようと守衛室へ向かうと、丁度手の空いている守衛兵が直ぐに出してくれると言うので流月は慌てて隊服のまま乗り込んだ。これが20分程前の出来事。
そして守衛兵は流月の用事が終わるまで待っていてくれるというから助かるやら申し訳ないやら…。
目指すは中央広場付近の雑貨屋だ。今晩のコーヒーデリバリー用の豆が切れてしまったのだ。
何だかんだで一人でここまで来てしまったし、セルジュやミラにバレたら『コーヒーくらいで、このバカ!!』と怒られる事だろう…流月は身震いをして、ささっと用事を済ませようと目的地へ走る。
辛うじて太陽の明かりが残っているが空は夜空一歩手前の澄んだ紺色に染まっていた。
街灯が次々と灯る。以前セルジュと来た時とは雰囲気がガラリと変わって見えたが、メイン通りは街灯も人通りも多くまだまだ賑わっている。
これならロイの言っていた『変な輩』との遭遇も無さそうだと足を緩めたとき、路地裏から激しい物音と怒鳴り声が聞こえた。
……………
「あれ?ミラさん?」
後方部の会議が長引いたため、中々空いている席が見つからずミラは食堂内を彷徨いていたところ声をかけられた。
振り向くとグレンとロイが座っていた。
「グレン隊長!ロイ!丁度よかった〜相席させて!後方部の会議で…」
「流月さんは一緒じゃないんですか?」
「???流月?一緒じゃないわよ?」
「ロイ、どー言うことだ?」
グレンもミラも要領を得ない。ロイは若干焦りの色を強める。
「流月さん、魔法訓練後に城下に出たいって言ってて…もう暗くなりそうで止めようとしたんですがミラさんと一緒に行くからって、馬車で行けることを教えたんですけど…まさか一人でなんて行きません…よね?」
流月の性格をよく知っているグレンとミラの顔色が変わる。
「ロイ、訓練終わったのがどれくらい前だ?」
「確か…1時間近く前だったと…」
「1時間か……まずは守衛室に確認だな、ミラは流月の部屋の確認を頼む」
「「分かりました!」」
食べかけの夕食をそのままに3人は食堂を後にした。
ミラは流月の部屋へ走る。
流月の部屋は客間の一室を使用しているため、他の騎士達の部屋とは別の棟にあった。
しばらく走って漸く流月の部屋のある棟に着く。既に息が上がっていた。こんな時ばかりは騎士棟の広さが憎らしい。
暗くなった騎士棟内では部屋の灯りが扉の隙間から漏れてくるはずだが、一帯暗闇のままだ。
眠ってしまってるだけかも、と望みを捨てきれず暗闇の中扉を叩く。
「流月!!流月!!いないの?!」
何度叩いても返事はない。
「っもーーー!!!あの子は心配ばかりかけて…!!!」
ミラはそう毒づいて守衛室へ走り出した。
……
守衛室の前ではグレンとロイが話し合っていた。
「グレン…たいちょ……」
「ミラ!どうだった?………大丈夫か?」
ミラは膝に手を付き、全身で息をしていた。
「るつき、いま、せん!!……あたし、体育会系じゃ、ない…のに……」
堪らずその場にしゃがみ込む。
「悪りぃな……流月はやっぱり城下に向かったみたいだ。オレが竜使って先に行くからお前とロイは馬車で」
「珍しいな、こんなところで何してるんだ?」
と、久しく顔を見せていなかった人物の声が響いた。
…………
気付いたらベンチに座ってぼんやり空を眺めていた。
俺は何してたんだっけ?
何を探してるんだっけ…?
そうだ…
そうだ、月の石の加工品を届けてちょっと休憩してたんだ。夕焼け空だったはずなのに、今はもう夜空に変わっている。どれだけぼんやりしていたんだろう…
竜の谷で月の石を採って、加工して買ってもらう。月の石の加工品は人気があるからいい値で買い取ってもらえる。お陰で生活には困っていないのに少しも満たされない。
何かをずっと探しているような焦燥感が常に付きまとう。何か大切なことを忘れている気が……
「おいボウズ、お前さっきからずーっと座ってっけどどうした?迷子か?オレ達が助けてやろうか」
「手に持ってるその袋、オレ達にくれないか?さっきの店で金いっぱい貰ったんだろう?」
「バカ、余計なこと言うなよ」
「関係ねーだろ、どっちみち…」
見るからに柄の悪そうな男が4人、ぼんやり座ったままの少年を静かに囲んだ。
「ほらみろ、お前らが怖くて声も出ねぇみたいだぜ…くくっ、なぁボウズ。大人しく金わたしゃ何にもしねぇよ」
リーダー格なのだろうか、周りの男より図体もデカく偉そうな赤茶色の髪をした男が少年の隣に座り、肩を組んだ。
「はははっ…何もしねぇ訳ないだろ」
「加工品の出処も是非教えて欲しいね」
周りの男達が下品に嗤う。
「…るせぇな…」
「………………あ??」
少年の返答に、赤茶色の髪の男が動きを止める。男達の威圧感が増した。
「うるせぇっつったんだ…お前らのクソみたいな声を聞かせんじゃねぇよ、どっか行け!」
瞬間、少年の右頬に衝撃が走った。脳みそが揺れる。
ベンチの肘掛けのお陰でベンチから落ちずに済んだが、体をぶつけた。痛みに思わずうずくまる。
その間に赤茶色の髪の男が少年の目の前に立っていた。
「全く…年上に対する礼儀がなっちゃいねぇな、このガキは……」
男が呆れたように少年のうずくまるベンチの背もたれを思い切り蹴る。ベンチはいとも簡単に倒れ、少年は頭を強打する。
男は金貨の入った袋を持つ右手首を踏みつけた。
「いっつ……」
ぎりり、と男は体重をかける。
「年上の言う事は素直に聞いとくもんだぜ?」
堪らず少年の手が緩んだ所で、別の男が袋を奪い取った。
それを確認して赤茶色の髪の男は少年の胸ぐらを掴み、持ち上げた。
少年の顔は鼻血のせいで血塗れになっていた。
ーあぁ、苛々する。
こんな下らない奴ら、殺してしまおうか…
そう思い、思わず口元を歪めた瞬間
少年と男の間を何かが走り抜けた。
男は少年を離し、尻もちをついた少年の腕を『何か』が掴み上げ、そのまま走り去ろうとする。
「ってぇ!!!誰だ!!俺の腕を斬りやがったのは…お前ら絶対逃がすな!!!」
男は痛みと獲物に逃げられた状況にますます激昂し、男達に怒鳴り散らす。
「キミ、大丈夫?!」
醜い怒鳴り声に場違いな、軽やかな声が響いた。




