2.青年と合う日
炎が一瞬で広がる様に、視界が赤く染まった。
「っ!!!」
そんな事あり得ないと思いつつも、流月は驚いてぎゅっと目を瞑る。熱さは全く感じなかった。
どれ位目を閉じていたのか、ふと、まぶたの裏側が刺すように明るくなった事に気付く。
恐る恐る目を開けてみると、
真っ白に輝く太陽と鮮やかな青い空が視界を埋めた。
「ん?!え??なに?!なにコレ!!!」
「ちょ!まって!!やだ!落ちてる?!」
自分がどんな状況なのかさっぱり理解できていなかったが、体中に感じる浮遊感から落下していることは確実だった。
体は上を向いていて青空以外景色を確認することができないし、確認するために体勢を変えることも怖くてできなかった。全く状況の分からない恐怖心から流月は再びぎゅっと目を瞑った。
…どさっ…!!
体に衝撃が走った。が、不思議と痛みはない。
痛みを感じる間もなく死んじゃったのかな…なんて思いつつゆっくり瞼を開く。
見たことのない青年が、目の前、しかも至近距離に居た。
状況の掴めない流月は目を見開いたまま、青年を見つめた。
「………」
青年も驚きを隠せない様子で流月を見つめる。
亜麻色のちょっとハネた短髪に、アイスブルーの瞳。長い睫毛にスッキリした鼻立ち。
ーキレイな目…
驚きの連続で正常な考えを放棄した流月は、そんな場違いな事を考え、その綺麗さに思わず目元に指を伸ばす。
ビクッと青年の肩が揺れた。
青年の驚きに、急に現実感が戻ってくる。
「あ…ごめんなさ…」
急に触れてしまったことに謝罪しつつ、自分の状況を確認した。
うんうん、ちゃんとバイト中の格好だ。どこも変じゃない。五体満足。
ふと、足が地面に着いてないことに気が付いた。
青年の顔が至近距離だったのも当たり前だった。
流月は俗に言うお姫様抱っこで抱えられていた。
「…っ…きゃーーー!!!」
17年間してもらったことのない、こんな体勢で!こんな距離で男の人の顔に触れちゃうなんて!!!流月は恥ずかしくなり顔を真っ赤に染めつつ、暴れ出した。
流月の悲鳴に青年もハッと正気に返った。
「わっ、まっ!待てっ!こんな体勢で暴れるな…」
急に暴れだす流月を制止するように、青年が左腕に力を込めた。その時。
…キィイイイイン!!!
「?!」
「!!…んんっ…!!!」
全身を衝撃が走った。痛いような、痺れるような、よく分からないけれど体が言う事を聞かない。
「っ…共鳴…か…?」
青年に抱きしめられたまま、呟く声が聞こえた。
共鳴?一体なんの…?
「…っつ!!!」
急に右肩が燃えるように熱くなってきた。
何これ?!熱いし、頭がぐるぐるする…気持ち悪い…!!!
……あの時の炎みたい…
流月は、そのまま意識を手放した。
「おいっ…!!…」
青年は、急に力の抜けた流月の体を落とさぬ様に抱え直した。
「…共鳴が、止まった…?…」
少女が気を失ったからだろうか、とぼんやり流月を見つめる。長い睫毛は伏せられたまま、暴れていた時より幾分か大人びた表情に見える。
艷やかな髪がさらりと青年の腕を掠めた。
その感覚に弾かれた様に思考が動き出した。
「アリアナ姫へ侵入者の報告を。『印持ち』の可能性があると伝えろ。近衛は王城へ!他の者は警戒体制を取れ!直ぐに他の侵入者の確認を!」
部下への支持を残し、青年は足早に医務室へ向かった。