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頑な少女は竜の騎士に暴かれる?!  作者:


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18.コーヒーデリバリー!


最近、セルジュと全く会えてない。

 



ギィンッッ!!!

刃の潰された模擬刀が交わる音が耳元に響いた。握力の抜けた手からすっぽ抜けた剣は空中でくるくる回転し、地面に刺さった。


「くぉらっ!!流月、集中しろ!!」

「集中はしてる〜けど、手が限界!!」

両手を振りながら流月はその場にしゃがみ込んだ。頬に大粒の汗が流れた。



流月に長の印があると分かってから4日。 

流月は騎士見習いとして訓練に参加していた。初期値の低さを考え、全体訓練ではなく個別訓練なのだが。

礎体力作りのトレーニングから始まり、素振り、手合せに関する訓練が日々行われていた。

小さい頃から頃から剣道を習っていた流月は、思った程剣の扱いは悪くなかった。が、どうしても筋力の弱さが足を引っ張る。



「2時間近くぶっ通しですし、ここらで休憩しましょ」

丁度様子を見に来たロイが時計を確認し提案する。

「もーそんなに経つか?んじゃ、休憩するか」

そう言いながらグレンは模造刀を鞘に納める。

「やったーーー!!ちょっとまっててくださーい!!」

そう言って流月はダッシュで演習場から消えていった。

「……アイツ、まだまだ元気じゃねーか」

「まぁまぁ、まだ始めて1週間も経ってないんですから」



暫くしてバスケットを持った流月が戻ってきた。

「今日も食堂で冷やしてもらってたの。ロイさんもまだ居てよかった!どーぞ」


バスケットの中にはアイスコーヒーの入ったボトルと水の入ったボトル、グラスが数個入っていた。流月が出際よく注ぎ入れ、二人に渡す。

グレンはゴクゴク喉を鳴らしながら一気に飲み干した。

「………あーーー…生き返るー」

「うん、美味しい…流月さん、騎士じゃなくてコーヒー職人になれるんじゃないですか?」

「バカか!長の印持ちをコーヒー職人にしてどーする!」



一度夕食後に流月のコーヒーを披露したところ好評だったため、訓練後は勿論のこと訓練の合間に飲むこともしばしば増えてきた。


「ま、ホントに旨いけどな」

グレンの呟きに流月は笑みが溢れる。皆に飲んでもらえて、美味しいと言ってもらえることは流月にとってとても嬉しいことだ。色々仕込んでくれたマスターに大感謝だ。

だが、未だに果たせていない約束が胸に引っかかる。


『今度飲みたい』

『楽しみにしてる』


勿論セルジュのためだけに淹れている訳では無いが、飲んでもらう機会がなかなか来ないことが寂しい。



「ね、グレン隊長?最近セルジュに会った?」

「毎日会ってるよ、情報共有のためにな。アイツが帰ってからだから夜遅くにだけど」

「……それって団長室で?」

「ん?いや、時間がまちまちだからオレの部屋に来るけど…なんで?」

「いや!!なんとなく……?」

「???」

流月は誤魔化すように自分用に注いだアイスコーヒーに口を付けた。スッキリした苦味でモジモジした気分を流し込む。

その様子にグレンもロイも首を傾げた。




最近、自室から団長室が見える事に気が付いた。そして日付が変わるかどうかの時間帯に明かりが灯る様子を、ここ数日の内に何度か見ていた。

セルジュが帰ってきたのかも、と思いはしたが本人に確認する機会が全く無かったし、わざわざグレンに確認するのも色々ツッコまれそうで勇気が出なかった。約束を果たすためとは言え、わざわざ『セルジュのため』にコーヒーを淹れて持って行く事をグレンに知られるのは気が退けた。

だから団長室の明かりはやっぱりセルジュで、更にセルジュ一人しか居ないのだと分かって流月の気持ちは固まった。



「よし、休憩おわりーーー!続きやんぞ、流月ー!」

ぐぐっと背を伸ばしグレンが声をかけた。流月はスッキリした気分で立ち上がる。

「はーい!おねがいしまーす!!」




…………






23時半過ぎ。

ようやく捜索が終わり団長室に帰ってきたセルジュは、一息つく間もなく地図を広げ今日の捜索範囲を書き込む。

捜索開始から今日で4日目。竜の住まう谷全体の4分の1程度の捜索が完了したがまだ長は見つからない。覚醒後すぐのためテリトリーがまだ完成していないのか、手がかりすら掴めていなかった。

長の捜索を最優先事項としているため、国境の警備を五番隊のみで何とかしてもらっている。広範囲の攻撃を得意とする隊のため威嚇には丁度いいが、その分攻撃力がやや劣ってしまう。セウシリアに本気で攻め込まれると分が悪い。

警備が手薄だと気づかれる前に長を見つけ出さねば…

溜息をつき、背もたれにもたれ掛かった。



…コンコンコン


いくら団長室の明かりがついているからと言ってこんな時間に訪れる隊員は余程いない。来るとしたらグレンくらいだろう。

いつもなら自室に戻る前にグレンの部屋へ寄り、その日の出来事を共有している。わざわざ団長室に来るのは何か問題でも起きたか、と予想をする。

「グレンか?何があった?」


返事から一拍置いて静かに扉が開かれた。中々入って来ない様子を不審に思い目線を向けた。その人物の意外さに、すぐに言葉が出てこなかった。

開いた扉の向こうに立っていたのはグレンではなく流月だった。

「こんばんは、セルジュ。お疲れさま」



「こんな時間にどうして…何かあったのか?」

「あはは、別に何もないよ。」

わざわざ深夜に訪れる位だから何か問題でもあったのかと心配するセルジュに対し、流月は微笑んで持ってきたバスケットをテーブルに置いた。

中からポットとマグカップを取り出すとゆっくり注ぎ入れた。芳醇な香りが湯気とともに部屋中に広がり、鼻をくすぐる。流月はにっと笑いマグカップをセルジュの前に差出した。


「これは…」

「んふふ、流月コーヒーのお届けです!」


予想外の言葉にセルジュの動きが止まる。ん?セルジュ?と小首を傾げる流月が可愛い。…ではなく。


「はー……こんな時間に一人でうろつくなんて何考えてるんだ!」

急な小言に驚いて肩が跳び上がる。マグカップは死守した。


「えー?だって騎士棟内、でしょ?」

「それはそうだが…もしも不審者が居たら…」

「騎士達が捕まえてくれるんでしょ?」

「…ここは男所帯なんだ、あまり油断ばかりしていると…」

「セルジュがここに居るの分かってたんだもん。それなら何があったって大丈夫でしょ?」

「………………」


何を可愛いことを言っているとか、もうちょっと危機感を持てとか、心配させるなとか、色々色々言いたいことが山程あるが。全てを制して大きな溜息をつく。

諦めてマグカップに口を付けた。


「………ん、旨い…」

予想以上の味に思わず素の声が零れた。

食堂で飲める苦いばかりのコーヒーではなく、ちゃんとしたコクと香りが存在していた。


「よかったぁ…コーヒーってね飲むとリラックスできるんだよ。長の捜索、私は何もできないから、これ飲んで少しでもゆっくり休んでほしいなって…」

流月が安心したようににこにこしながら来客用のソファに座る。

コイツはまた『何もできない』なんて余計なことを考えてる、と引っ掛かりはしたが、グレンとのやり取りを知らない流月にセルジュが言えることはなかった。



「訓練は順調?」

「んーーーー、体力無さすぎてグレン隊長に怒られてばっかだよ。あ、でも剣の扱いはちょっと褒められたよ!意外だって…」

「ケガは…無理はしてない?」

「ケガなんてしてないよ。無理は…してもいいの!楽しいから!」

「くくっ…『キレイ』の次は『楽しい』か…」

「いいのっ!」

からかわれた事に気付き、顔を背ける。


「……『無理』はしてもいいから、『辛く』なる前に言えよ」

「??……うん?」

からかいとは違う、セルジュの真面目な声に流月は首を傾げた。セルジュは流月の様子に気づかないふりをしてコーヒーを飲み干す。



「旨かった、ありがとう。さ、部屋に戻って寝な」

そう言って席を立つとマグカップをバスケットにしまい、流月の頭を軽く撫でる。


「はーい、おやすみなさい」

「あぁ、おやすみ」




団長室の扉を閉めながら、セルジュにお休みの挨拶をしたのは初めてだな、と頬が緩むのを止められない流月だった。

またまたお付き合いよろしくお願いします。


運動後のカフェイン摂取は如何なものかと思いつつも、話の都合上こうなりました。

セルジュは油断すると婚約者のいる自覚がなくなり過ぎて困ります。

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