13.騎士隊長と少女
ふと、目が覚めた。
ランプでぼんやりと照らされた天井が目に映る。
天井がいつもと違う事に数秒遅れて気が付いた。
ーこの天井は知っている。休養室だ。
短期間で何度も見てきた天井だ。見間違いはない。
ーなんでここで寝ているんだっけ?
記憶を辿りながらごろり、と横を向く。と、そこに居るはずのない…と思っている人物が視界に入り、流月は驚きに目を見開いた。
「セルジュ……?」
すぐ横のベッドでセルジュが眠っていた。流月の方へ体を向けてやや丸くなっている。投げ出された左腕がベッドからだらりと落ちていた。
なんでこの人まで休養室で眠っているんだろう、と思いながら、セルジュの腕が気になった流月はそっと自分のベッドから降りりた。腕を直そうと静かに近付く。と、眠っているはずなのに眉間のシワがとても深い事に気が付いた。
ーこんな顔してどんな夢見てるのかな…
真面目で面倒見の良い騎士隊長さん。夢の中で位、気を抜けばいいのに。
流月はふふっと笑いながら、眉間のシワを緩めようと指を伸ばす。流月の細い指が額に触れた途端、セルジュのがっしりした手に止められた。
「きゃっ!!」
「っ!!!…る、つき」
ほとんど反射で流月の手を捕らえたであろうセルジュも、流月の手を握りながら驚いた顔をしていた。
「悪い、つい反射的に…体の具合は?」
そう言いながらセルジュは上半身を起こし、ベッドに座った。無意識に掴んだ手を離す。
下ろそうとしていた手が、そのまま空中に留まった。見ると、流月の手によって握り締められていた。
「流月?」
「………手、引っ掻いちゃってごめんなさい」
握り締めた手には真新しい引っ掻き傷があった。
セルジュに力強く掴まれ、気を失う前の状況を思い出した。あの時もこの手が助けてくれた。
そうだ、確かミラも無事だったはずだ…
「ミラは、大丈夫だったよね?…私、よく考えずに走っちゃって…セルジュが真剣に止めてくれたの覚えてる。助けてくれてありがとう。」
気絶する直前だったためミラの安否に自信が持ち切れないのか、流月は眉毛を下げた情けない笑顔をセルジュへ向けた。
その瞬間。思わずセルジュは流月の手を引いていた。
バランスを崩した流月はセルジュの方へ倒れ込み、肩口へ頬をぶつけた。
「キミのお陰でミラは無傷だ。馬鹿な隊員のせいでキツい思いをさせて悪かった。あいつ等もミラが怪我でもしていたら除隊処分になっていた筈だ。…隊員達を助けてくれてありがとう。」
セルジュは右手で流月の頭に優しく触れる。左手は流月の手を掴んだままだ。
自分を助けてくれた人がいつも嫌な目にあってしまう。
両親は自分を助けたせいで命を落としたし、親戚はそんな自分を厄介者だと言い、誰も引き取ってはくれなかった。
面倒を見てくれた母の友人である明さんにはしなくていい苦労ばかりかけてしまった。
『厄介者の自分は助けられてはいけないんだ』、『自分でやらなければ』と躍起になり、どんどん頑なになっていた。自分にできる事は『嫌な目に合わせない事』で、こんな自分が人のためにできる事なんてないと思っていた。
セルジュはそんな自分でも誰かの助けになれるんだと教えてくれる。
鼻の奥がツンとし、視界が涙で滲む。泣きそうな事を知られたくなくて、流月は子供のようにセルジュの首にしがみついた。
「……ありがと」
セルジュは何も言わず、流月の頭を撫で続けてくれた。
…
時折、鼻を啜る音が聞こえる。
恐らく泣いているんだろう。流月が顔を隠そうとしている事に気が付いていたセルジュは、無理に追及せず首に巻きつく流月をそのままにしていた。
…なんでこんなバカみたいに素直なんだ。
セルジュは内心毒づいた。完全に八つ当たりなのも分かっている。
結果的にはミラも流月も助かった。だけどミラを助ける事を邪魔した自覚はある。
あの炎魔法は流月がどうにかしていなければ、ミラに直撃していた。セルジュが助けに向かっても間に合わなかった。
更に放おっておけばミラを必死に助けようとする流月もただでは済まなかっただろう。だからあの状況で確実に助けられる流月を助けた。そして隊員達へ『その後』の対応を指示した。
火事で両親を失う経験をした流月へ、結果的に助けない決断をしたミラを見せてしまう事を最善の判断として選んだ。
そうなっていれば当然こんな風に穏やかに過ごすことなどできなかっただろう。
そこまで考えて、自分まで流月に助けられた事に気付いた。気付いて、触れるつもりのなかった少女を抱きしめる腕に力がこもってしまった。
ー重症どころか手遅れじゃないのか…
そう思いながらも、セルジュはその手を離すことができなかった。
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