10.デートですか?
「そこのおじょうさん!髪飾り、どうですか?」
突然、流月に声がかかった。見ると若い露天の店主が流月に手を振っていた。店先には煌びやかな物から素朴な物まで多くの髪飾りが並んでいた。流月の顔が輝いたことに気づいたセルジュは揃って店先へ移動する。
「どれもこれもかわいい〜あ!これいいな」
1つの髪飾りを手に取ってみる。セルジュも流月の手元を覗き込んだ。
「似合うと思う。買ってやろうか?」
「え!いいよ、自分で買える!」
二人のやり取りをにこにこ見ていた店主は「ふふ、腕まで組んで、とっても仲良しさんですね。デートですか?」と、にこやかに爆弾発言を落とした。
店主の言い分を時間差で理解をした二人は慌てて手を離し、ギクシャクとそのまま店を後にした。そして変な空気感のまま中央広場へ到着した。
中央広場は、円形に走る道路の中心に位置しており、路面店のや露店も多く並んでいる。城下町の中心だ。
天気がいいからか買い物を楽しむ人々は溢れ返り、広場で遊ぶ子供達や談笑する人の姿も多く見られた。
「お…お店を!そう、お店を一通り覗きたいから、えと…広場で待ってて!」
そう慌てて言い残した流月は、セルジュが止める間もなく路面店に消えていった。衛兵だけでなく、定期的に騎士達も見回りに来るおかげか治安は悪くない。昼前の賑わっている時間であれば大丈夫だろうと、自分も軽く店を見たあと、ベンチで休むことにした。表面上は落ち着きを装ったセルジュだが、まだいつもより少し心臓の鼓動が早い。
『すごく優しい』
はにかみながら笑顔を浮かべる流月が急に浮かび、慌てて打消そうとするが、なかなか消えてはくれない。
最初、この国では見ない、漆黒の艷やかな長髪と瞳を見て、正直、綺麗だと見惚れた。
本来は直ぐに確保すべきだったのに、流月を受け止めてからの初動が遅れた。グレンは気付た上でからかっているのだろう。
あんな少女を気にするなんて思いもしなかった。自分の立場から、気にしてはいけない事も分かっている。分かっているからこそ必要以上に騎士隊長であろうとしてきた。
はぁーーーー……
両手で顔を覆い、空を仰いだ。
まさか、あんな可愛い事を言われるとは思ってなかった。表情が変わらないよう平静を装うのに必死だった。
黙っていれば美人なのに、くるくる表情が変わる所も、素直すぎる所も、一人でなんとかしようとする姿勢も、全部、全てが、可愛いと思ってしまう。
大概重症だ…思わず自嘲の笑みが溢れた。
「疲れちゃった?」
突然流月の声が聞こえ、顔を覆う手を退けると、心配そうに覗き込む流月の顔が間近にあった。思わず声を上げそうな動揺を、騎士隊長としての意地で抑え込み、姿勢を正す。
「…………いや、大丈夫だ。」
「それならいいけど…はい、セルジュの分のコーヒー。今日のお礼!美味しそうな出店見つけちゃったから買っちゃったの。ここにもコーヒーってあるんだね」
言いながらセルジュの横に座り、カップをセルジュに渡した。見ると流月の持っている紙袋は2つだけだった。
「目ぼしい物はなかったのか?思ったより買ってないんだな。」
受け取ったコーヒーを飲みながら問いかけた。
「充分買えたよ。服とコーヒー豆!!これで部屋でもコーヒー飲める」
にこにこしながら紙袋を抱き締めた。
「…キミが淹れるの?」
「ん?そうだよ。カフェのバイトでも淹れてたの」
以前も聞いた『バイト』と言う言葉が気になりはしたが、それよりも流月の淹れるコーヒーに興味が湧いた。
「今度、飲みたい」
「んふふ、マスターお墨付きの美味しいの、今度淹れてあげる」
「……楽しみにしてる」
緩みそうな頬を誤魔化すように冷えたコーヒーを飲み干し、流月に小箱を渡した。
「??」
無言でセルジュに促されるまま小箱を開けると、先程露天で見た髪飾りが入っていた。
「それは似合ってたから。コーヒーのお礼に?」
外出のお礼の更にお礼を既に準備しているなんて流石に強引すぎるかと思いながらも、口実の欲しかったセルジュは深く考えないことにした。
「ありがとう!!嬉しい!!」
流月は強引な口実になど気付かぬように目をキラキラさせてセルジュに礼を伝えた。髪飾りは数枚の葉っぱが銀細工で繊細に再現されていた。その葉っぱの所々に白く輝く石がはめ込まれている。
「……これ、月の石?髪飾りにしちゃって大丈夫なの?ミラが皮膚が爛れるって…」
「ああ、それは原石に触ると、だな。特殊な加工をすれば誰でも触れるようになる。月の石はこの国の山脈でしか採れないから、結構人気のある土産物になっているんだ」
「ふぅん…かわいい…原石も触ってみたかったなー」
「………。キレイだから、か?」
ニヤリと流月へ問いかけた。流月は開き直って答える。
「そうよ!!!キレイなの大好きだもん!!キレイな物見ると元気になるの!!だからほんっとに魔力ほしい!!魔法使ってみたいし、月の石にも触れたい!…………って、そーだ!セルジュは?何ができる騎士なの??」
キラキラした目のまま、胸ぐらを掴む勢いで迫る流月に、思わず逃げ腰になる。
「グレン隊長から聞いたよ。印のある人は普通の騎士より強いって…セルジュも魔法なの?」
「あー……俺は…」
グレンの奴余計なことを、とセルジュは内心毒づく。人を食ったようなグレンの顔が浮かんで若干苛つく。
「………竜に、なれる」
数秒、流月の動きが止まった。
ああ、またか…
4枚羽の印持ちだと持ち上げられるが、この能力を人に、特に一般人に話すと大概引かれてきた。竜と接する事のない人からすれば、竜もセウシリアの奴らも変わらない、畏怖の対象なのだろう。
と、急に体を押されベンチの背もたれで頭を打つ。
「わっ!!!…いっって……流月!急に何を…」
体を押されたのは、セルジュの胸へ流月が前のめりに倒れてきたからだった。傍から見ると流月がセルジュを押し倒している様にも見える。
「…流月?」
異様な様子に気がつく。
「…ほんと?ほんとに?竜ってこの前見たような??」
これでもか!と言うくらいに目を輝かせて、セルジュに凄い圧で問いかける。セルジュは無言で頷いた。
「凄ーい!!いいなー!!あんなキレイな子になれるの?見たい!!」
「ぶっ!!!」
夢中になって喋る流月に呆気にとられ、思わず吹き出した。
「悪い…くくっ…初見の黒竜に触ろうとする奴だったな…見縊っていた…くくく」
「……褒めてないよね?今度こそ馬鹿にしてる?」
流月がじとりと睨んだ。




