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エピローグ まるくおさまるとは、こういうこと

手は繋いだままで、ヘリオス様は急に立ち上がり、座っている私の前に跪く。気がつけば、サラもダントンも、少し前からいなかった。


「ディアナ・バークシャー。僕、ヘリオス・ヘイスティングと結婚してほしい。君とずっと一緒にいたい」


真っ直ぐと私を見つめ、放った言葉はプロポーズであった。貴族同士の婚約など、プロポーズはない場合も多いのに、彼は言葉で、行動で示してくれる。


「はい。私を、ディアナ・バークシャーを、ヘリオス・ヘイスティング様の妻にしてください。あなたを愛しています」


泣きそうになりながらも、ヘリオス様を見つめ、私も気持ちを伝える。愛している、そう自然に口を衝いて出た。


ヘリオス様は左手薬指に、キスをひとつ落とし、繋いでいた手を離す。寂しさを感じたのも束の間、懐から指輪を取り出し、キスを落とした薬指にはめる。


嬉しくて涙が溢れる。ヘリオス様は、私の隣に座り直し、溢れた涙を受け止める。そっと目元に触れられ、恥ずかしいながらも、ヘリオス様を見ると、近いところで目が合う。


どこまでも優しい太陽のような金の瞳、その中に情熱が潜んでおり、私は目を閉じた。また涙が溢れ、唇には自分と違う熱を感じた。ほんの少し優しく触れ、すぐに離れていってしまう。


もっと。離れないでほしい。同じ気持ちなのか、二度三度と長いキスをくれる。んっ!んんっ!! 嬉しいけど、息が、息ができない!


最後には結局、翻弄され、息も絶え絶えな私はヘリオス様の腕の中にいる。先程、おあずけした抱擁を堪能しているようだ。


「ディアナ好き!大好き!愛してる!離さない!早く結婚したい!今日は帰したくない!帰らないで!あー愛してる!」


愛の言葉を並べ立てられ、恥ずかしいが嬉しいので、ひと通り聞いている。すると、いきなりモジモジしだし、


「あの、さぁ。僕も君と前の婚約者のこと聞きたいのだけど……」


ん? まぁそうか。でも私には、ヘリオス様ほど思うところはない。腕の中に居ながら、姿勢を整えヘリオス様を見る。


「お話しするほどでもありませんが、前の婚約者とは政略結婚で、お互いの家の利益のため、幼い頃に結ばれました。それをいいことに、社交もろくにせずにきました。異性同性に関わらず、人との接点は彼以外ありませんでした。彼とは普通の婚約者の距離で、エスコートされることはあっても、このように、抱き締められたり、ましてや、キ、キスなどありませんでした。彼のことを配偶者としてしか見ていなかったからか、浮気されていたことにも気付きませんでした。同じ未来を過ごす、大事なパートナーだと思っていたのは事実ですが、恋や愛ではありませんでした」

「僕も、彼女とは適切な距離を保っていたよっ!」

「それは、良かったです。ただでさえ、焼き餅を焼いてしまっているのに、前の方ともキスしていたらと思うと…私って嫉妬深いのですね。初めて知りました」

「ディアナ……。僕は今までもこれからもディアナとしかキスしない!」

「これからは当然です!」

「あ、あとさ…ディアナってフィリップ殿下と仲が良いのかい?」

「フィリップ殿下ですか? 決して仲が良いわけではないのですが、詳しくはお話しできません。でも、ひとつだけ言えるのはビジネスです」


いくらヘリオス様でも、殿下のプライベートな情報をお話しはできない。でも本当にビジネス以外、他はない。


「ビジネスか…。わかっているよ!大丈夫!! わかっているんだけど、夜会で、2人が仲良さそうに話すのを目にして、怒りと言うか、嫉妬でいっぱいになっちゃってさ。僕のせいで、ディアナが離れざるを得なかったのに、周りの人全員を無視して、君を連れ去りたくなったんだ」


私の肩に、顔を埋めて項垂れるヘリオス様の頭を撫でる。お可愛らしい。


「本当にビジネス以外、何もありません。でも嫌な気持ちにさせてしまい、ごめんなさい」

「器の小さい男で、ごめんね。しかも僕が目を離したばっかりに、妙な男に絡まれてしまうし。危険な目に遭わせて、本当にごめんね」

「あれは私が言いつけを守らず、一人で行動したからですわ。それに、すぐに助けに来てくださいました。私、あのとき凄く嬉しかったんです。ヘリオス様以外は嫌だと思っていたところに、私に触れていいのは僕だけだって言ってくださって、通じ合ったようで嬉しかったんです」

「……ディアナ、僕を殺す気? そんな可愛いこと言われたら、本当に帰せなくなってしまう」


ギュっと腕に力を込めるが、その力は優しい。優しく抱き締めてほしいと言ったことを守っているようだ。その気持ちに応えるため、ヘリオス様の胸に近づく。


結局、痺れを切らしたサラの咳払いが、扉の外で大きく響くまで、私たちは何度もキスをした。


帰りの馬車に乗り込んだ時に、ひとつ言い忘れていたことを思い出した。扉が閉まる前に、慌てて、ヘリオス様に耳打ちをする。


ヘリオス様は顔を赤くし固まっていたが、私は言えたことに満足して、満面の笑みで手を振り、帰路に就いた。その後、ヘリオス様はその場に座り込み、叫んだようだ。


「ディアナはずるい!!」



『言い忘れていました。ヘリオス様は私の初恋です』



最後までお読みいただき、ありがとうございました(^人^)

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