第9話 検証
「おはよう」
目が開けると瑠偉ちゃんが枕元に立ちユラユラ左右に揺れて見下ろしてくれている。
「・・・・・・・・・・・・・・・」
「もしかして一晩中そこにおったん?」
瑠偉ちゃんを見上げながら大きな伸びをすると布団から出る。
「確か『おやすみ』言った時にそこにおったと思うんやけど、まあぁ~ここは俺と瑠偉ちゃんの家やから自由にどうぞ」
まったく他人の家だが気にせず言い切る。
「ほんじゃぁ~今日は天気もええし煙草も無くなりそうやから、煙草補充&『瑠偉ちゃんが横にいれば襲われるか襲われないか』検証でも行きましょうかね」
慎吾はそう言うとソファーに座りノートパソコンをテーブルに置くと作戦を考える
「んじゃ~コンビニの場所はやっぱり最初にゾンビに襲われた場所が一番近いな、他は徒歩なら微妙に遠いしな~どないしよ?原チャか車でもパクるか~・・・・・けどな、全然知らん所とチョット知ってる所なら知ってる所の方がええしな~」
パソコンをポチポチ弄りながら地図でコンビニの場所を出して悩む。
「まぁ~前おったゾンビ達もどっか行ってるやろ~、それに他のコンビニにゾンビおらんとは限らんしな、しゃーない『第1回ドキドキゾンビルーレット』の時間やな、そう言う事で徒歩で近いコンビニに行きますは瑠偉ちゃん」
慎吾は思い付きのネーミングを付けて楽な方に行き先を決める。
「あとは盾やな、あのゾンビ相手にわざと見つかって攻撃されて襲われるか襲われないか検証するのに、金属バットだけどうなんやろかな?~・・・・・そうなると浮かぶのは警察や機動隊がテロとか凶悪犯の確保に使う時の透明な覗き穴があるやつ・・・・・あんなんどっかに落ちてる訳無いしな・・・てかっ!俺は今まで16年生きてて1度もこの目でそんなごっつい盾とか見た事無いんですけど・・・・・まあぁ~あるとした警察とか機動隊の所に取りにいく事になるんやけどな~~置いてるかどうかも分からんしな~それに他のめんどくさい事とかありそうやしな~どないしよかな?」
瑠偉ちゃんは真横に来て画面とポチポチキーボードを叩く慎吾をユラユラ左右に揺れて見ている。
「う~ん、やっぱ盾とかいらんかな、地図で見ても警察署とかコンビニよりめちゃくちゃ遠いし、とりあえず『瑠偉ちゃんが横にいれば襲われるか襲われないか』検証するだけなら、1匹のゾンビを見つけて腹這いゾンビならまず金属バットで片腕潰して、走らんタイプのゾンビなら片足でも潰したら走力もだいぶ落ちると思うから何かいけそうな気するしな~・・・・・走るタイプはまだ検証も戦っても無いから良く分からんから辞めとくけど。腹這いと歩くタイプはただ突っ込んでくるだけのアホやしめっちゃ速いけど最初にバレやんうちに腕か足潰せば何とかなる筈や」
出たとこ勝負の作戦を決めると、慎吾は背負い袋の中身をチェックして、冷蔵庫から牛乳をガブ飲みすると玄関に向かい、金属バットを握るとゆっくりと扉を開けて行く。
「んじゃ~、行くとしますか瑠偉ちゃん」
家の周囲と視界の入る範囲の安全を確認して、隠れられる死角と瑠偉ちゃんの残っている右腕を気にしながら進んで行く。道中何事も無く数分進むとコンビニの看板と入口が見えて来る。近くに鉄製の大きなゴミ箱の陰に身を隠し状況を伺う。まだコンビニにはスリップしたセダンがボンネットから突っ込んでいる状態で放置されており、運転席側には座った状態の人影が動いている。
「あらま!!・・・1日たってまだセダンが突っ込んでる状態で残されてるって事は、この辺ヤバいな・・・警察に通報する人間が誰もおらんって事やもんな、コンビニの店員も近所の人達も逃げたか、食われたか、ゾンビになったって事になるよな・・・・・ヤバッ!!、それにセダンの運転席側こっから見ても完全にゾンビですやん」
セダンの運転席側の人影は激しく小刻みにその場で頭と肩を上下左右に動かしていて、瑠偉ちゃんの右腕も上下に動いている。
「シートベルトで固定されてるからあんな動きなると思うけど、人間なら簡単にシートベルト外せるしな、それにしても1日あんなんってどんだけ知能低いんや。それに瑠偉ちゃんも教えてくれてるし」
慎吾は『瑠偉ちゃんが横にいれば襲われるか襲われないか』検証の第一候補はセダンの運転席のゾンビにして、あとはコンビニの中と周囲をチェックを開始する。
「まず、周囲は大丈夫やな、んでっ、コンビニの中は棚とか死角あるから向こう側は分からんけど、見えてる範囲は大丈夫、レジ周りも人影は無し、それじゃあ~ソロっといきましょうかな」
まずはコンビニの中に突っ込んでるセダンの陰に隠れてセダンの中をチェックするが異常は無し、それから地面に落ちているガラスの破片を拾うとレジの死角、棚の向こう側の死角にそれぞれ投げてゾンビの存在を確認する。運転席のゾンビはガラスの割れる音を聞くと無言だったが呻き声をあげ始め口から体液を飛ばしながら興奮し始める。
「コンビニの中は大丈夫やから、ちょっと運転席側のゾンビ煩くて他のゾンビとか呼ばれたらめんどくさいから黙らして、片腕と両足は検証の為に先に砕いておくかな」
コンビニの中は物音一つ聞こえず、慎吾はセダンの運転席側に回るとドアを開け、さらに慎吾を見て興奮をあげるゾンビの喉元に金属バットを両手で持ち先端を押し出すように突き立てると顎と喉を潰して『ウゴッ』っと音を出すと呻き声が止まり無言で頭と体を上下左右に狂ったように振っている、次も同じ様に右肩、両膝に2,3発ずつ先端に突き立てると右腕、両膝と破壊して血と体液と共に膝から下を運転席のシートの上に転がす。
「よしっ!!準備完了。これで当分ゾンビを呼ばれる事は無いでしょう、それじゃあ瑠偉ちゃん略奪しちゃいましょうか、店員さんも許してくれる筈やし・・・・・ウンウン」
大きく頷いて店内に入るとまず男女のトイレ、バックヤードも隅々までチェックするがゾンビはいない。バックヤードで台車も見つけたのでその上に大き目の段ボールを置くと中に商品を落としていく、店内は荒らされていないのか普段のコンビニ並に商品が陳列されているので煙草、カップ麵、お菓子、生活品など好きな物をメインで選ぶ。
「大量大量、段ボール2箱分やな、これで当分食い物、煙草には困らんな。それじゃあ~『瑠偉ちゃんが横にいれば襲われるか襲われないか』検証やろかな、準備は完了してるし」
台車をゴロゴロ押しながらコンビニから出てセダンの近くに台車を止める、シートベルトに固定されて無言で激しく全身を揺らして暴れまくっているゾンビの、逆側の助手席側のドアを開けると残っている滅茶苦茶に振り回されている左腕だけ細心の注意を払い、いつも付いて来てくれてユラユラ左右に揺れ無言で慎吾を見つめてる瑠偉ちゃんの脇の下を両腕で持つ。
「瑠偉ちゃん、チョットお身体お借りしますよ」
っと声を掛けると静かに持ち上げて助手席の座席に立たせる、するとあれだけ滅茶苦茶に暴れていた運転席のゾンビが『ピタっ』っと動きを止めるとシートベルトで身体を固定されているが瑠偉ちゃんから離れようと殺意も凶暴性も忘れたかのようにゆっくり運転席側に身体を移動させようとしているがそれ以上動けない。
「うわっ!!マジなんや、瑠偉ちゃん近くにおったらゾンビ何にも出来やんのや・・・・・」
ゾンビの急激な変化に驚きながら、慎吾が運転席のゾンビに恐る恐る腕や顔を口周りに徐々に近づけても運転席のゾンビは慎吾を見ようとも噛み付こうともせず、興味を示さず瑠偉ちゃんの逆側に移動しようとするだけだった。