第46話 生き残る最適解
「はぁ~しんどかった・・・」
「そうっスね、やっと終わったっスね・・・」
慎吾と希唯依は後部座席の大量の配送車の拝借した段ボールを部屋の拝借置き場に積み終わると、その場に座り込んで大きな呼吸をしながら言う。
「もうこの廊下段ボールで左右塞がれて身体の向きを横向きしか進めませんよね・・・」
「そうっスね、置き場所変えないとダメっス・・・」
「そうですな・・・その案はまた後で・・・」
「そうっスね・・・」
2人は疲れ切っているので先送りにする。瑠偉ちゃんは2人が汗まみれで無言の積み込みを傍観していて暫く呼吸音のみの時間が過ぎる。
「それで慎吾の兄貴?さっきの配送車の残してきた段ボールっスけど何か勿体なく無いっスか?」
「・・・たしかに・・・」
「私はもう体力戻ったんで残りの段ボール運んで来るっスか?」
「・・・・・いやっ!それなら俺も行くわ」
「慎吾の兄貴大丈夫っスか?」
「大丈夫や無いけど・・・ニコチンパワーで復活するわ、あの段ボールは残すのは確かに勿体無いし、希唯依1人で愛車に積み込むのも大変やし・・・瑠偉ちゃんは見学専門やし・・・それに何かトラブル起こった時は2人の方が有効で対処しやすいからな」
「分かったっス」
それから慎吾は煙草2本と水分補給をして希唯依も特攻服の汚れチェックと水分補給を完了させる、そして瑠偉ちゃん用の着替えと下着を背負い袋に補充して愛車のストック用にも紙袋に詰め込み両手に慎吾と希唯依が持つと、玄関を開けて愛車に乗り込み後部座席の隅に瑠偉ちゃんの着替えと下着の紙袋を置くと先程のコンビニ配送車の事故現場まで向かう。
「さっきと同じ所に愛車止めるっスね?」
「お願い!」
前回と同じ場所に停車させると瑠偉ちゃんを真ん中にしてコンビニ配送車の周囲を念の為に徒歩で向かう。すると瑠偉ちゃんの右腕が『ピクピク』と上下に反応する。
「この動きはゾンビやな・・・往復1時間休憩20分ぐらいの間にゾンビも忙し過ぎやろ・・・」
瑠偉ちゃんの右腕を見てから慎吾は呆れ声で溜息混じりに吐き捨てる。
「本当っスね、さっきの時は全然いなかったっスのに?何でっスかね?」
「う~ん、考えられるのはさっき瑠偉ちゃんが始末した奴らの短い悲鳴か、俺達とあいつ等の会話か愛車に段ボール積み込みの時の音とかエンジン音ぐらいかな~けど分かんね~~ゾンビ共めちゃくちゃ聴覚ええからな・・・」
「そうっスね、ワラワラ湧くっスからね・・・」
ゾンビだけなので身も屈めず普通に歩いて行くとコンビニ配送車周囲に複数のゾンビが一か所で立ち止まりユラユラ左右に揺れて地面を見ているのが視界に入る。
「・・・んっ!?何かに集まってるっスね?・・・これは歌っスか?・・・」
「・・・かな?まぁ~行ってみるか?・・・3,4,5え~と全部で7匹もおるやん・・・」
「そうっスね、瑠偉ちゃん姉さんの食料にするっス」
「そうですな・・・頭しばきましょか!」
「はいっス」
慎吾と希唯依は悪臭が酷くなるのを我慢しながらゾンビ達が固まっている場所に近付くと、スマホが1つ地面に転がっていて着信で慎吾は聞いた事がある有名アイドルグループの曲が大きめの音量で流されていた。希唯依は『何っスか・・・このチャラチャラした歌は・・・女は演歌っス』と言っていたが慎吾は当然スルーして『・・・何でこのご時世でスマホバイブと違うの・・・危機意識ガバガバで終わってますやんか・・・』と頭に浮かべていて、瑠偉ちゃんは音自体に興味が無いのかチラッとスマホを見るがすぐにいつもの無表情で慎吾と希唯依の真ん中で歩いている。
「う~ん、電話に出た方がええんかな?・・・どないするか?」
瑠偉ちゃんの能力で脱力状態のゾンビの壁を金属バットで押し退けて中に入るがゾンビに囲まれる悪臭に我慢出来ず、地面に転がるスマホを金属バットの先端でパターみたいにしながらゾンビの集団から少し離すと考える。ゾンビの集団は脱力状態が続いている。
「どうするっスか?」
するとスマホの着信が止まる。
「止まるんかいっっっ!!」
慎吾は反射的にツッコむとまた着信が鳴り始める。
「鳴るんかいっっっ!!」
また反射的にツッコむ。
「慎吾の兄貴、急用の時とかっス何回も電話掛けるっスよね?私は寝坊とかの遅刻する奴とかには鬼の様にっス、リダイヤルするっスね遅刻とか私は許せないっスから」
「なるほど、希唯依のリダイヤルうんぬんは知らんけど・・・確かに急用の時とか何回もリダイヤルするよな・・・ふむ、おもろそうやから出てみるか?」
希唯依のリダイヤルプチ情報はスルーすると慎吾はスマホを手に取り通話ボタンを押す。
「・・・おっ!やっと出たか?今お前何やってんだよ?こっちは今ゾンビ共にタクローが見つかって連れて来ちまって、ヤバいんだよ・・・正面のドアがゾンビが多すぎてもうじき侵入されてしまう・・・建物の周りもゾンビ共に囲まれているっっ早く他の奴等も見つけて戻って来い・・・外からゾンビ共の注意を逸らせてくれ、その隙に俺達は逃げる・・・早くしろもうドアが耐えられない!時間が無い・・・もう本当にヤバい!・・・ヤバいんだ!・・・ドアがもたねぇんだよ・・・早く皆で来てくれ・・・急いでくれ・・・・・・・」
電話が繋がると男が早口で大声で焦りながら捲し立てる、慎吾は途中からはスマホを少し耳から離すほど必死に話している
「・・・・・・・・・・」
スマホを離して無言で待つ。
「・・・おいっ!・・・嘘じゃないぞ、マジだマジなんだよ・・・早く注意を逸らしてくれ・・・ドアがゾンビの重さで・・・もうもたねぇんだ・・・早くしろ!早くしろよ!・・・・・・・」
電話の向こうの男は泣きそうな声に変わって来ている。
「・・・ただのスマホを拾った者なんやけど・・・」
「・・・・・・・・・・えっ!?シューゴは?・・・」
早口で大声のトーンが一瞬で驚きに変わる。
「それは長髪の鉄パイプの奴?茶髪の登山用の杖の奴?それか黄色いTシャツの奴?・・・他は特徴忘れたけど?」
「・・・ちょ、ちょ、長髪の奴だ34歳ぐらいの年齢の奴がシューゴだ!!・・・」
「死んじゃったかな」
「・・・・・えっ!?・・・」
「ちなみに他の奴も死んじゃったかな」
「・・・・・えっ!?・・・だ、だ、誰が・・・お、お、お前がこ、こ、殺したのか・・・・・ま、ま、まぁ~今はそんな事は・・・ど、ど、どうでもどうでも良いから、お、お、俺を助けてくれ・・・も、も、もう本当にヤバいんだ・・・・・」
電話の向こうからは呻き声やドアを叩き付ける音も耳に入っている。
「う~ん俺黄色のTシャツ男の3人組に・・・実はさっき殺されそうになったんやけど・・・それでも助けやなあかんのかな~?う~ん、それはチョットおかしな話やん?それにお前そいつらの仲間やろ?」
「・・・・・ま、ま、待ってくれ・・・」
「それに客観的に思うけど、ゾンビに見つかった状態で逃げれる所が無いってもう詰んでますやん!それに最後のドアもあかんのやろ」
家族の理不尽の皆殺しから、慎吾は助ける気ゼロで他人の命はどうでもいい人間に生まれ変わるのがゾンビが蠢く世界で生き残る最適解と考えに至ったので冷静に言い終わる。
「・・・・・・・・・・い、い、嫌だ・・・し、し、死にたくない・・・・・」
相変わらず電話の向こうからは狂気的な呻き声と激しい破壊音が止まらず聞こえている。
「まぁ~俺がお前の大事な仲間かヒーロー気取りの人間ならもしかしたら助けに行ったかも分からんけど、残念な事に両方とも違うんですわ~、そう言う事で俺も今から仲間の食料準備しやなあかんからサヨナラ~」
「・・・・・・・・・・ま、ま、待て、た、た、助け・・・・・・・・・・」
慎吾はスマホを耳から離すと電話の向こうは地面に物が倒れる音と複数の呻き声と足音が大きくなり男の絶叫が聞こえていたが、慎吾は通話を終了すると持っていたスマホを適当に投げ捨てる。
「そういう電話やったみたいですわ」
横で無言で会話を聞いていた瑠偉ちゃんと希唯依の方に向くと無感情のトーンで言う。
「はいっス」
希唯依も無感情で返事をすると木刀の柄を握り締め、慎吾は金属バットのグリップを握り締めると感慨ゼロで次の仕事に取り掛かる準備を完了させる。




