第33話 お兄ちゃん
「外は異常無し」
「そうっスね」
慎吾達は大きな本屋の正面入り口まで戻って来た。駐車場及び周辺を歩いて見て回ったがゾンビも人間にも出会わなかった。
「それじゃあ~瑠偉ちゃんのお勉強の為の教科書探しに行きましょうかね?」
「ウ”ァァァァァ」
「瑠偉ちゃん姉さん、良いのがあれば大量に拝借するっスよ」
「ウ”ァァァァァ」
正面入り口は自動ドアのガラス張りで破損も無く血や体液も付着しておらず綺麗な状態で電気も通っているので、瑠偉ちゃんと希唯依の返事を聞くと慎吾は自動ドアが開くと「拝借しに来ましたよ」と呟くと店内に足を踏み入れる。店内は2階建てで入り口付近の左側にレジが有り右側には階段が有る。
「まぁ~無人やから静かやな、え~と1階が書籍メインで2階がゲーム、DVD、フィギュアの感じの本屋さんみたいやな」
入り口の館内案内図を発見して見てから、1階の奥行きがある構造で本棚が綺麗な一定の間隔で配置されているのを確かめる。
「俺は本もそうやけど、ゲーム、DVDそんなに興味無いし、特にフィギュアとかは今まで1度も実物見た事無いレベルやから2階は興味無いけど、誰か行きたいなら行くよ?」
実家にはゲーム機も有りそれでDVDも見れるが最近は実家にも帰らず放置したままで使用しておらず、フィギュアに関しては興味が0の人生を歩んで来た。本もヤンキー漫画が数冊床に転がっている。
「はいっス、私も興味は無いっス、暴走こそ俺達の人生の漫画しか読まないっス、家に全巻有るんで大丈夫っス」
「イ”ァァァァァ」
瑠偉ちゃんは『興味無い』と呻いて返事して、希唯依の好きな漫画には触れる事は慎吾はしなかった。
「それじゃあ~2階とそれはスルーで瑠偉ちゃんの教科書拝借したら部屋に帰る事にするわ」
「はいっス」
「ウ”ァァァァァ」
賛成の返事を聞いて、慎吾達は店内に嫌な雰囲気を全く感じず一応周囲を探り瑠偉ちゃんの右腕を気にしながら普通に歩き、店内の一角に有る小学生の学習系が揃っている場所まで辿り着く。
「う~ん、教科書は本屋には置いてないみたいやな・・・」
暫く探すが教科書は見当たらず代わりにどら焼き大好きアニメキャラクターの表紙や恐竜が表紙の小学3,4年生の国語の内容の本を、瑠偉ちゃんが数冊選んだのでそれをピンクのランドセルに拝借して入れてあげる。
「教科書無かったからこれでええよな?」
「ウ”ァァァァァ」
瑠偉ちゃんは『良いよ』と返事すると、すぐに背負っているピンクのランドセルを床に下ろすと、入れたばかりのどら焼き大好きアニメキャラクターの本を取り出して両手で持つと大きな目をさらに大きくして表紙を眺めている。
「そんなに嬉しいのね、まぁ~そんなに嬉しそうなら落とす事も無いやろうし、この本屋も安全っぽいしまぁ~ええかな?ところで瑠偉ちゃんそのキャラクター知ってるの?」
「イ”ァァァァァ」
『知らない』と答える。
「知らんのかいっっっ!!」
瑠偉ちゃんの返事に条件反射でツッコミを入れるとこの本屋には特に用事も無くなったので慎吾達はゾンビの気配も人の気配も感じずに入り口に歩き出した、すると慎吾のスマホが着信してバイブレーションが機能する、スマホを取り出し着信者を見ると妹の【真奈子】だった。
「・・・・・お、お、お兄ちゃん・・・・・た、た、助けて・・・・・」
着信に出ると微かに聞き取れる声量で真奈子の泣きじゃくる声が聞こえる。
「・・・おう?どうした真奈子?」
「・・・・・お、お、お父さんと・・・お、お、お母さんが・・・・・」
「んっ?おとんとおかんがどうした?」
「・・・・・し、し、下で・・・下で・・・・・お、お、お、お父さんとお、お、お母さんが・・・・・し、し、知らない男の人達にて、て、鉄の棒でいっぱい、いっぱい叩かれてるの・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
慎吾は絶句する。スマホを1回落として慌てて拾うと耳に押し当てる。
「・・・・・お、お、お兄ちゃん・・・・・き、き、聞こえてる?・・・・・」
泣きじゃくる不安な小さな声が聞こえる。
「あ、あ、あっ!?すまんスマホ落とした・・・それで真奈子は部屋か?」
「・・・・・う、う、うん部屋に逃げて来た・・・さ、さ、さっきまで下の部屋でお、お、お父さんお、お、お母さんと3人でTV見てたの・・・・・そ、そ、そしたら急に知らない男の人達が家の中に入って来て・・・・・お、お、お父さんが逃げろって言ってくれて・・・お、お、お母さんも私が逃げる時に私を助ける為に男の人に頭鉄の棒で叩かれて・・・どうしようお兄ちゃん?怖いよ私・・・お兄ちゃんどうしよう、私分からないのどうしたらいいの?・・・警察に電話しても繋がらないの・・・どうしようお兄ちゃん?・・・・・」
真奈子は早口でまくし立てると泣き出した。小学3年生の9歳で恐怖と混乱で咄嗟に部屋に逃げ込んだが慎吾は内心最悪と思い浮かべる。真奈子が上の階に逃げるのは襲撃者達は確認している筈で両親が動けなくなるかあるいは死亡した時点で真奈子を襲うか襲わないかは襲撃者達の気分次第、このゾンビが徘徊して法が機能していない世界は強者が弱者を生命まで当然自由に出来る。
「・・・くそっ!くそっ!くそっ!・・・・・真奈子?真奈子聞こえるか?真奈子の部屋に窓ガラスあったやろ、そこから飛び降りろ・・・落下した時に少し足が痛くなるかもしれやんが・・・飛び降りて逃げろ・・・真奈子?部屋に隠れてるのは危ない!!」
罵声を吐きながら頭をフル回転させて真奈子の部屋の構造を頭に浮かべる、家の周囲はコンクリートでは無く少し硬めの地面が窓ガラスの下に広がっている。
「・・・怖いよ、真奈子飛び降りるの怖いよお兄ちゃん・・・どうして?どうしてなの?どうしてお父さんとお母さんは鉄の棒で叩かれるの?あの人たちに何か悪い事でもしたの・・・ねぇ~お兄ちゃん?・・・・・」
「・・・・・・・真奈子、おとんとおかんは何も悪くない・・・今は少し忘れて兎に角窓から飛び降りて逃げてくれ・・・頼む真奈子・・・」
慎吾は懇願する。両親が目の前で理由も無く他人に殴られて理解不能で、9歳の女の子が絶望と恐怖に侵されて兄に必死の思いで電話をしたら自分には不可能な2階から飛び降りろと言われて絶望と恐怖と失意しかない真奈子の気持ちが痛い程分かるがそれ以上の考えが思い浮かばずに懇願する。
「・・・・・・・・・・・・・・・」
無言で泣き声しか聞こえない。
「くそっ!くそっ!くそっ!、瑠偉ちゃん希唯依すぐに車と取りに行ってきてくれ実家に戻る、早く頼むここは大丈夫だから早く頼む!!」
現在地から実家まではゾンビが蠢く世界前でも30分以上掛かり今の世界は道を塞ぐ事故車、ゾンビ、人間の死体などなど何十分掛かるが想像出来ないし間に合うかどうかも想像出来ないが車を持って来る様に指示する。その間瑠偉ちゃんが居なくて多少不安だが現状を考えるとここの本屋より車までの移動が危険と判断して瑠偉ちゃんに希唯依と同行してもらう。
「分かったっス」
「ウ”ァァァァァ」
無言で電話を聞いていて内容を理解していた瑠偉ちゃん希唯依は慎吾の言葉を聞くと同時に本屋の入り口に全速力で走り出した。
「・・・・・真奈子?真奈子?聞こえてるか?今から俺そこに行くからめちゃくちゃ急いで行くから・・・怖いと思うけどものすごく怖いと思うけど・・・頼む窓から飛び降りて何処かに隠れてくれ・・・頼む真奈子」
「・・・・・こ、こ、怖いよ・・・・・お、お、お兄ちゃん・・・・・こ、こ、怖いよ・・・・・知らない男の人達も・・・窓から飛び降りるのも・・・どっちも怖いよ・・・・・」
「・・・・・真奈子・・・・・」
慎吾はスマホに力が抜け悲壮感を隠せきれない声を出してしまう。暫く泣きじゃくりる真奈子の声を聞きながら次の打開策を考えている。
「・・・・・ど、ど、どうしよう・・・お、お、お兄ちゃん・・・・・」
細い声で考えを中断する。
「・・・・・どうした真奈子?」
「・・・・・し、し、下に居た・・・男の人達が・・・わ、わ、笑いながら・・・階段上がって・・・き、き、来てる・・・お、お、お父さんとお母さんの悲鳴も・・・き、き、聞こえなくなっちゃった・・・・・」




