第18話 これはタオルで拭くぐらいでは無理
「瑠偉ちゃん、こんなんどう?」
姿見の前で慎吾はTシャツを広げて瑠偉ちゃんの胸に当てて声のボリュームを少し落として聞いている。店内のカートを2台持って来てその上に商品を入れる4個のカゴを乗せてドンドン放り込んで行く。瑠偉ちゃんは一応小さく首を縦や横に振りリアクションしている。
「けどまぁ~、瑠偉ちゃんと洋服の趣味が似てて良かったは、こういう細かい事から仲が引き裂かれる事もあるからな良かった、良かった・・・男女の仲は特にね」
それからも耳付きのアニマル柄のフードの牛、猫、兎などアニメキャラクターの可愛い子供服を瑠偉ちゃんに当てて反応を確認してドンドン放り込み拝借ショッピングを堪能している。子供服店の館内の安全は確保して正面入口側からは見えずらくこちらからは駐車場まで見える位置で、慎吾はたまに覗き込み入口をチェックして瑠偉ちゃんの右腕も頻繁に見ている。幼児用の売り場の赤ちゃんを抱えた女性も慎吾達が離れて安心したのかゴソゴソと袋に商品を入れる音が聞こえている。
「よしっ!!、カゴもパンパンなったし、そろそろお暇しましょうかね、瑠偉ちゃん」
山盛りの4個のカゴを見て瑠偉ちゃんに話しかける。瑠偉ちゃんはゆっくりユラユラ左右に揺れて小さく頷く。
「それじゃあ~、車を持って来て正面入口に着けてカゴ後部座席に放り込むね」
慎吾はそう言うとカート2台を片腕ずつ操作して、商品棚に当て商品を落としマネキンを倒したりやりたい放題ぶつけながら正面入口まで移動させていると真横で歩く瑠偉ちゃんの右腕が上下にピクピク動いて数秒後に『グチャグチャグチャグチャ』と耳を澄ませば肉や骨を嚙み切る嫌な音が聞こえてくる。
「・・・えっ!!どこから聞こえる?外か?・・・いやっ!!・・・店内やな」
そこで慎吾は『あの女噛まれてたのね・・・そうなれば・・・赤ちゃんか・・・喰われてる咀嚼音なのね』と察すると金属バットを肩に乗せ急いで幼児用の売り場に向かう。瑠偉ちゃんは真横に付いてくれている。
「・・・・・・・・・・そっちか!!・・・・・」
慎吾が幼児用の売り場に駆け付けると、少し笑っている女性の首に母親の母乳を吸うように赤ちゃんが張り付いて歯を肉にめり込ませ口内に飲み込んでいる、『この女は我が子なら良かったんか?・・・・・良かったんかな?』とその笑顔を見て思うが、その瞬間に生後半年も満たないガリガリの赤ちゃんが目を血走らせ口から血と尖った歯を剝き出しで母親の首から慎吾の足目掛けて飛びついてくるが、瑠偉ちゃんが真横に付いているので直前で母親の所に振り向き攻撃衝動が消える動きをする。
「残念やけど俺の事は食われへんのや・・・それに食わす気も無いしな」
と呟くと金属バットを頭の上まで振り上げてそのままの勢いで後ろを向く幼くゾンビ化した赤ちゃんの後頭部目掛けて思いっきり振り下ろす『ビチャ』の破裂音と共に小さな頭は破壊され動かなくなる。すると瑠偉ちゃんはゆっくりユラユラ左右に揺れて赤ちゃんから喰らい付きすぐに綺麗にすると、今度は母親の方に進んで行った。
「・・・キツイな・・・ゾンビでも赤ちゃんはキツイな・・・・・まあ~しゃーないけど・・・」
商品棚に身体を預けて煙草を咥えると、『母親は我が子が噛まれて感染してたって知ってたんか・・・知らんかったら災難やったけど・・・もし知ってたなら自分を食べさす母親の我が子に対する愛情はえげつないな・・・』っと瑠偉ちゃんのハイエナが草食動物を仕留めて首筋に歯を突き立て頭を左右に振り喰らいつくようなお食事を何となく見ながら、吸い終わった煙草を地面に落として靴底で揉み消すと『考えてもしゃーないし、これからも同じ事するから一緒やな』と自分を納得させていると瑠偉ちゃんがユラユラ揺れて真横に戻って来た。
「お~お、お食事終わったな、今回も美味しく頂けたのかな?」
「ウ”ァァァァァ」
慎吾は気分を切り替え『考えてもしゃーない』をもう一度頭に刻み込んで、ちょっと高めのトーンで真横にいる瑠偉ちゃんに話しかけると、瑠偉ちゃんは満足そうな感じで低く呻いて答えている。
「そっか~そっか~、それは良かったな、そしたら車にカゴ積んで次に行こかな?」
「ウ”ァァァァァ」
瑠偉ちゃんの肯定の返事を聞いて、子供服店舗の正面入口から出て駐車場を進んで車を停車させている場所まで歩いていると、駐車場に入り3匹のゾンビがフラフラ両腕を上げて慎吾達に歩いて来るのが目に入る、『そういえばさっきカート運ぶ時に棚とかマネキン倒した音で引き寄せたかも?』っと一瞬考えるが、すぐに走り出して攻撃範囲に侵入すると手前のボサボサの髪の長い女性の前頭部にばっちり目を合わせながらフルスイングした金属バットの真芯の部分を叩きつけると始末して、残りの2匹が襲いかかるが諦めて戻る時に1匹1匹順番に後頭部にフルスイングで始末する。
「はぁ~・・・はぁ~・・・はぁ~・・・ちょっと4連発のフルスイングはしんどいな・・・ハハハ」
近くの駐車場内に停車している車に背中を預けて座り込むと大きな呼吸をしている。
「これは煙草止めやなあかんかな・・・・・止めやんけど・・・」
1人ボケ1人ツッコミを孤独に決めてまた煙草を咥えると火を付ける。瑠偉ちゃんは無我夢中で四つん這いで口回りを血塗れで慎吾を見ながらお食事を開始している。すると2匹目のゾンビの死体を食い尽くした後に突然立ち上がると全身が激しく震え出す。
「・・・・・・・・・・えっ?!・・・えっ?!・・・えっ?!・・・」
口に咥えた煙草が地面に落ちたのも気付かないぐらい口を大きく開けて驚いた慎吾の目の前で、瑠偉ちゃんは『ピタリ』と激しかった揺れが急停止する、腐り果て頭蓋骨が見えるゾンビの首から上の部位が少し余韻で揺れている中激しい揺れの影響で首全体の腐った肉がゼリーみたいに『グニャグニャ』で千切れかけており、最後に大きく瑠偉ちゃんが1回激しく揺れると花の首が寿命を迎える様に『ポトリ』と地面に落ちる。
「・・・・・・・・・・・・・・・ブォバァシャァ!!」
慎吾は人生で1度も言った事の無い擬音を自分自身で気付かず吐き出して驚愕している。すると先程より激しく全身を揺らし始めると『ブシュブシュブシュブシュ』と血と体液を首の切断面から勢い良く撒き散らしながら血塗れ体液塗れの黒い髪の毛が頭部、顔にべったりと張り付い状態で見えてくると続いて細い首がゆっくりと生えてくるのを呆然と見る。
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
驚愕と恐怖と現実離れの衝撃現場に慎吾は無言で見つめていると、瑠偉ちゃんは慎吾を見つめながら、新しく出て来た首を左右に2,3回動かし顔面や頭部を手の平で『ペタペタ』数回触り動きや感触を確かめると、残った3匹目の地面に転がるゾンビを四つん這いでのお食事を慎吾を見つめながら再開する。
「・・・・・そういえばもう1匹残ってたもんねって・・・・・駐車場ほぼ血と体液と油塗れにする衝撃映像を特等席で見せといて・・・お食事再開するんかいっっっ!!・・・」
慎吾は人生イチのツッコミを入れてしまい、落とした煙草に気付くとそれを拾い吸い直そうとするが瑠偉ちゃんの血と体液と油一色なので、そのまま近場の血の溜まりに投げ捨てる。すると最後の1匹を綺麗にお食事した瑠偉ちゃんが戻って真横に来る。
「・・・・・・・おか・・・えり・・・・・お食・・・事・・・美味し・・・かった?」
「ウ”ァァァァァ」
慎吾は何とかブツ切りな言葉を掛けると、瑠偉ちゃんはゼリー状の血と体液塗れの顔で小さく首を縦に振り呻く。
「俺・・・俺な・・・俺ですがな・・・いきなり・・・いきなりな震え出してな止まったと思ったらな首が・・・首がですがな・・・落ちて・・・落ちてな・・・血がブシュードバドバな・・・ドバドバブシューやで・・・出たと思ったらな・・・新しい・・・それも新しい・・・メリメリ感でな・・・首と頭が出て来たからめちゃくちゃ・・・それはほんまにめちゃめちゃ・・・引くほど引いちゃう程ビビったんですけど・・・目の前やで・・・めっちゃ目の前でドバドバメリメリブシューブシューやで・・・・・・・・・・ふぅ~、もしかして瑠偉ちゃんお食事して成長したからなん?」
「ウ”ァァァァァ」
慎吾は驚愕が治まらず見たまんまの事を興奮して支離滅裂で早口で話して最後は一息入れて冷静になり聞く。瑠偉ちゃんはゼリー状の血と体液塗れの顔で小さく首を縦に振り呻く。
「ふぅ~・・・とりあえず今は着替えやなあかんな・・・俺も全身瑠偉ちゃん特殊ゼリー汁でベトベトやし・・・瑠偉ちゃんも俺以上に全身ベトベトで特に顔と頭はゼリー状の良く分からん体液で覆われて顔もはっきり見えやんぐらい凄い事になってるし、鼻とか口も塞がってて・・・呼吸は・・・瑠偉ちゃんは呼吸してないから大丈夫やけど・・・・・・・これはタオルで拭くぐらいでは無理かも・・・」
慎吾は少し落ち着くと、背負い袋に入っていたすべてのタオルで瑠偉ちゃんの首から上の部位を拭くが、拭けば拭くほどゼリー状の体液の粘着で血が顔と頭に広がり収拾が付かなくなり、タオルも体液塗れで使い物にならなくなった。
「う~ん、これは無理・・・次の目的地よりまずは家に戻ってお風呂入らなあかんな」
そう決断すると、使い物にならなくなったタオルを油が浮いた血の池に変わり果てた駐車場に投げ捨てると、『この店の経営者さんや関係者さん、なんかゴメン』と『瑠偉ちゃんエグ過ぎる』を思いながら駐車場の出口に精神的疲労を感じながらトボトボ歩いて行く。瑠偉ちゃんは赤と黄色と緑と茶色など複数の汚く変色した全身ゼリー状塗れで慎吾の真横に付いて来ている。