第17話 ヤンキーとゾンビの組み合わせ
玄関先のゾンビの肉の塊や脳症などの体液や金属バットを綺麗に掃除した瑠偉ちゃんがお食事が終了して慎吾の真横でユラユラ揺れて見つめている。
「幸せの時間全開やったんやけど・・・いきなり現実の世界に戻されてしまいましたな・・・・・けどゾンビを発見してがっつり目が合っても冷静でいられるってめちゃくちゃ強いよな!!瑠偉ちゃんありがとね。ピンクのランドセルも似合ってるしね」
瑠偉ちゃんの謎の襲われない事のありがたみに再度感謝して、階段を1階まで降りると拝借した白色の軽ワゴンの愛車に無免で乗り込む。
「それじゃあ~、一応3か所ぐらい目星付けたから、そこ回るね~、後は行き当たりばったりやね」
スマホの地図にマーカーを付けておいた、郊外の大型ショッピングセンター、郊外の大型子供服店舗、駅周辺の商店街のショップのマーカーをもう一度目を落とすと、一応ナビゲーション機能をセットして車を発進する。
「まずはショッピングセンターから行くね~、まあ~ショッピングセンターはゾンビ以外にも人間とかおってめんどくさそうやから近くまで行く感じかな?よっぽど何にも無さそうなら館内に入るけど」
ハンドルを握りながら、今はピンクのランドセルを胸の前で大事そうに抱えてこちらを見つめている瑠偉ちゃんに説明する、片側2車線の道を20分程移動すると道路の脇に停車している車やガードレールに衝突してボンネットから白煙を上げている事故車をちらほら視界に入ってくる。
「う~ん、やっぱ無理そうやな、ショッピングセンターに近付くほどに増えてるしな」
それから5分程移動するとショッピングセンター見えてくるが建物の一部から黒い煙が上がり、進行方向の片側2車線の道路の真ん中に車が横転していて、白煙を上げる事故車が増えて、複数のゾンビもショッピングセンターの方向に歩いて地面に横たわる死体も目に入って来た。
「うん、これは無理」
即決すると車をUターンさせて進ませると見晴らしの良い場所に停車させると、スマホを開き次の目的地の大型子供服店舗に地図をセットして走り出す。今度は30分程車を走らせても事故車も発見せず行き違いの車も無く、目当ての子供服店舗が見えると1本手前の角を曲がり住宅の壁の前に車を停車させると降りる。
「それじゃあ~瑠偉ちゃん。こっからは少し歩くよ、俺のおニューの愛車傷付けられたら嫌やしな」
慎吾は背負い袋を準備して瑠偉ちゃんがピンクのランドセルを背負うのを待つと歩き出す。子供服店舗は閑静な住宅街に囲まれた場所に建てられており、正面の入り口前には20台は止められる駐車場が設置されている。駐車場外から見るかぎり停車されてる車は3台で車体や窓ガラスは壊されていない。
「ふ~ん、店舗も荒らされた跡は無さそうやし正面入口も普通やな、まぁ~子供服狙いに行くのは小さな子供がおる人だけやろうしな~、俺みたいな奴らだけやろな・・・水も食料も置いて無いし・・・あっ!!子供が食べる商品はあるかな?」
そんな事を言いながら中腰で駐車場に足を踏み入れると停車している車の陰に隠れて車内を確認して店舗へと進んで行く。車内はすべて異常は無く店舗からも呻き声や物音も聞こえない、瑠偉ちゃんの右腕も反応していなかった。
「ここまでは安全で異常無しっと!」
3台目の入り口に一番近い車の陰に隠れながら店内を見渡す、照明は消えて奥の方は薄暗いが昼間なので視界は何とかなり、ぼんやりと見える商品棚や手前の窓際に飾られてあるマネキンも荒らされたり倒されたりの異常は見当たらない、それを確認して正面入口を小走りで抜けると一番手前の商品棚に勢い余って棚の角に身体をぶつけて『カタッ』っと音を出してしまい子供用のスニーカーを落として慌てて身を屈めて息を殺して店内の様子を伺う。
「・・・やってもうたな・・・う~ん、大丈夫そうやけど・・・・・」
薄暗い中暫く待機してから店内を素早く見渡す。カートが2台分並んで通れそうな広めの通路の左右の棚に商品が綺麗に畳まれ積まれており、一定の間隔でスポットライトを浴びる子供服のマネキンが設置されている、ゆっくりと中腰の体勢で商品棚に身を潜めて警戒しながら店内のレジが設置されている奥まで到着するが物音も瑠偉ちゃんの右腕も反応しない。
「油断は大敵やけど・・・やっぱ子供服はすぐには狙わんかな・・・・・」
レジ周りをチェックして身を隠していると、瑠偉ちゃんが顔を動かし右腕を胸の高さまで上げると人差し指を店内の角の売り場に設置されている幼児用の商品やおむつやミルクがまとめて置かれてる場所を見て指す。
「えっ?・・・何その何処かを指差す動き・・・俺初体験なんですけど・・・」
「にイィィんンンンげエェェんンンン」
瑠偉ちゃんが苦しそうに低い声で唸る。
「・・・・・人間?えっ???・・・人間あそこにおるの?・・」
「ウ”ァァァァァ」
小さく首を縦に振り肯定する。
「・・・マジか分かった、ありがとう助かるけど・・・・・けど・・・・・人間か~・・・」
慎吾は一瞬躊躇うが、確認をする為に瑠偉ちゃんが指差した幼児用の売り場に静かに進むと哺乳瓶が並べられている棚に進み屈ませる、前方のおむつが高く積まれた商品の陰に1つの人影を確認する、背後からゆっくり進んで様子を伺うと人影は髪を後ろで一つに結んだ女性で身体を小さく丸めて顔を伏せて隠れているつもりだが細かく震えて胸の中には乳児を抱いている。慎吾は『女性で赤ちゃんか~、う~ん、どないしよ?・・・それに隠れてるって事は俺達の存在がバレてるって事やしな、音も立てたし・・・、う~ん、ほんまにどないしよ?』
「あの~すみません?」
慎吾は悩んだが声を掛ける事に決めた『もし攻撃的なら先に俺達を発見した時点で何かの攻撃アクションをする筈で、この女性も瑠偉ちゃんの小学生ぐらいの年齢を考えると幼児用の売り場には来ないと信じて隠れてやり過ごす事が出来れば見つからない方に賭けたのかな?、最後の決め手は女性と赤ちゃんですから大切』と判断する。
「・・・あっ!!・・・ヒッ!!・・・」
背後から声を掛けられた女性は一瞬『ビクッ』っと反応するが恐る恐る顔を上げて振り返る、薄暗い中慎吾と瑠偉ちゃんの存在を確認して目が慣れると絶句して慌てて目線を逸らして赤ちゃんを強く抱きしめると下を向く。慎吾の今の外見は身長180cmの細見で金髪の坊主頭で耳には合計10個のピアスを開けており黒のジャージ上下で金属バットを持っている、横の瑠偉ちゃんは何処からどう見てもゾンビ。『ですよね、このご時世にこんな姿の奴に声掛けられたら100%何で私なのって思いますよね・・・うんっ!!そりゃ~外見で判断するに決まってますよね・・・後は瑠偉ちゃんは人間ちゃうし・・・そりゃ~ヤンキーとゾンビの組み合わせって人生で会いたくないランキング5位以内には入るでしょう多分・・・』
「・・・え~とっ!、こんなんやけど何もする気は無いんやけど・・・」
「・・・・・・・・・・」
子供を抱えた女性は下を向いて顔を上げない。
「・・・う~ん、この店に用事があって来ただけで・・・一応店の中全部調べやんと何も出来やんから、調べてたら偶然見つけただけで・・・・・う~ん・・・」
慎吾も女性の怯え様に言葉が上手に出てこない。
「・・・まぁ~・・・俺はあんたが何もせんかったら何もしやんし、この店で用事済ませたら帰るから・・・」
「・・・・・・・・・・」
「・・・そ~ね・・・いきなり声掛けて悪かった・・・一応調べやんと落ち着いてこの店の用事も済まされへんから・・・そう言う事かな・・・」
言葉を選んで話すが女性は下を向いている。
「・・・・・ミ、ミ、ミルクを・・・こ、こ、この子の・・・ミ、ミ、ミルクを・・・」
女性は怯えたままで下を向いて震えた声を出す。
「あ~あ、そうねミルクな・・・俺達はミルクは必要無いから欲しいだけ持っていったらええよ」
「・・・・・こ、こ、この子、さ、さ、最近、ミ、ミ、ミルクが無くなって・・・だ、だ、だから、ミルクを・・・」
「そ~ね、子供はミルク飲まんとあかんもんな、ここには沢山あるからいっぱい飲めるわ」
『この女性は大丈夫かな?』と判断して早く瑠偉ちゃんの洋服を拝借して次に向かう事を考え始める。
「・・・い、い、家には・・・た、た、食べ物や・・・の、の、飲み物は・・・あるんですが・・・ミルクだけ無くなって・・・」
「そ~ね、そしたら早くミルク家に持って帰って飲ましたり、後あんまり食い物や飲み物があるとか知らん人に言わん方がええと思うけど・・・まぁ~こんなんみたから動揺してるかも知らんけど、それじゃ~好きなだけ持って帰って好きな時に帰って、お邪魔しました、さいなら」
そう言うと慎吾は瑠偉ちゃんの洋服を探しに女の子用のコーナーに向かいながら『んっ?、赤ちゃん寝てたんかな?顔は見えやんかったけど静かやったな』と考えるが商品を手に取ると広げる。瑠偉ちゃんは暫く女性を見つめていたが、慎吾から距離が少し出来ると振り返りゆっくりユラユラ左右に揺れて後を追って歩き出す。