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ゾンビが蠢く世界  作者: ありがとう君
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第16話 お喋りとピンクのランドセル

「おはよう~」


カーテンの無い直射日光を顔に受けて、枕元に立つ瑠偉ちゃんに見下ろされて朝を迎える。


「もしかして俺が起きるチョイ前にここに立ってるのかな?」


慎吾は伸びをしながら聞いてみる。


「ウ”ァァァァァ」


枕元の瑠偉ちゃんは低く呻き首を縦に振る。


「なるほど、それなら安心やね」


何が安心か寝起きで理解出来ていないし良く分かっていないが、適当に深く考えずに相槌を返すとソファーから起き上がる。


「それじゃあ~、寝起きの一服」


煙草を咥えて半分程吸い、瑠偉ちゃんの右手を見ると小学2年生の国語の教科書を持っている。


「あれっ!!、小学1年生の国語の教科書は全部読んだん???」


昨日は確か寝落ちして起きたら小学1年生の国語の教科書3ページぐらいで『めっちゃスローペースやな』っと思った事を思い出して戸惑いながら聞いている。


「ウ”ァァァァァ」


瑠偉ちゃんは首を縦に振り全部読んだらしい。


「そうなのね・・・もしかしてある程度教科書で勉強して身に付いたとか?」


「ウ”ァァァァァ」


瑠偉ちゃんは首を縦に振り答えている。


「ほほ~、瑠偉ちゃんはお利口さんなのね・・・国語って事は言葉とか覚えたの?・・・何かしゃべれるの?」


「ごオォォはアァァんンンン」


瑠偉ちゃんは低い唸り声で苦しそうに言葉を口から吐き出す。


「おおおおお!!、何となく分かる!!分かるよ!!話した言葉って・・・ご飯やんな?」


始めて聞く瑠偉ちゃんの言葉にめちゃくちゃ感動して『我が子が初めて話す言葉もこれぐらい嬉しいんやろな』と左手でお茶碗右手で箸を持ち口に運ぶリアクションをして満面の笑顔で瑠偉ちゃんに『ご飯を食べるポーズ』で喜びを表現している。


「ウ”ァァァァァ」


呻き首を縦に振る。だが瑠偉ちゃんは四つん這いになり地面に横たわるゾンビらしき何かを貪るリアクションで『ご飯を食べるポーズ』で返答していたが。


「・・・・・・・うんっ!!そこは俺とお嬢ちゃんは違いましたよね・・・・・ハハハハハ・・・ハハ」


数十秒慎吾は絶句して変な笑いをするが。


「・・・まぁ~そんな事より・・・瑠偉ちゃんが少しでも喋れるとかめちゃくちゃ嬉しいわ、これでドンドン喋れるよな?瑠偉ちゃん?」


「イ”ァァァァァ、つウゥゥかアァァれエェェるウゥゥ」


首を横に振る否定から入り、低い呻き声の苦しそうな言葉を発する。


「あ~あ、なるほど瑠偉ちゃんは言葉を使うと疲れちゃうのね・・・・・確かにしんどそうやし・・・まぁ~徐々に慣れていけばええから、話せる時や気が向いた時に話したらええからね」


「ウ”ァァァァァ」


喉から苦しそうに言葉を絞り出す姿を見て納得すると、瑠偉ちゃんは首を縦に振って呻く。


「瑠偉ちゃんが少しでも喋れる事が分かった事がほんまに嬉しいかな」


慎吾はそう言うと2本目の煙草を咥える『だが瑠偉ちゃん?最初の言葉がご飯なの?』と頭に浮かんだが、それ以上は深くは考えず忘れる事にした。










「それじゃあ~、今日の予定は瑠偉ちゃんのお洋服拝借やね、ここは俺の独断と偏見で決めるから瑠偉ちゃんは黙って従うように」


「ウ”ァァァァァ」


朝飯も食い、外出の準備も整い玄関前で人差し指をピーンと突き出して偉そうに慎吾は瑠偉ちゃんに言い切っている。瑠偉ちゃんは慎吾の勢いに負けたのか空気を読んだのか良く分からないが、右手に教科書を持ちながら低い声で唸って慎吾を見つめながら返事をしている。


「・・・・・瑠偉ちゃん?・・・返事は気持ち良くて俺だいぶ気分ええから嬉しいけど・・・・・教科書は置いて行ってもええと思うんやけど・・・・・この部屋に置いてても俺は勿論・・・誰も盗らへんし・・・」


「イ”ァァァァァ」


瑠偉ちゃんは数秒前の「ウ”ァァァァァ」より強めの否定で呻いている。


「ほほ~。これは絶対に教科書を持って行くっぞって言う強すぎる意思を俺はビンビン感じましたな・・・・・そうなると俺は教科書持って行く賛成派になるしかないんですよね・・・・・よしっ!!分かった・・・持って行っても全然ええけど、万が一落としたりしたらあかんから・・・それに何かとても大事にしてはるみたいですからな・・・・・・・」


慎吾は暫く瑠偉ちゃんの顔と右手に持つ教科書を交互に見て考える。


「・・・・・そしたら部屋に置いてあったピンクのランドセルに入れて持ち運ぶのとかどう?」


そう言うと慎吾は玄関前まで来ていたが、ピンクのランドセルを見かけたクローゼットまで行き手に取ると玄関前まで戻り瑠偉ちゃんに見せる。


「ウ”ァァァァ」


瑠偉ちゃんは慎吾の提案に賛成の呻きと首を縦に振る。それから他の教科書小学1年生の国語、算数、理科、社会と2年生の算数、理科、社会もリビングに転がっていたので持って来て喜ぶと思いピンクのランドセルにまとめて入れようとする。


「イ”ァァァァァ」


「・・・・・えっ??」


瑠偉ちゃんは何かお気に召さないようだ。慎吾が戸惑ってフリーズしていると小学1年生の国語の教科書だけ指差す。


「・・・・・ほほ~なるほど・・・ご希望通りそうさせて頂きます」


それからピンクのランドセルに小学1・2年生の国語の教科書を入れてロックをして瑠偉ちゃんに背負って貰う。それから背負い方、ロックの仕方、教科書の取り出し方とか細かい事を教えると何度か練習すると覚える、無表情だが仕方を覚えると何回も背負い直し、ロックを『カチャカチャ』開け閉めして、教科書を出し入れしている。『ほほ~これは瑠偉ちゃん絶対嬉しいんでしょうな』慎吾は黙ってランドセルを扱う姿を見守りながら『無表情ですけど』と瑠偉ちゃんが納得するまで待つ。


「瑠偉ちゃん、だいぶランドセル使える様になったね?」


あっという間に30分程が経過して瑠偉ちゃんがピンクのランドセルを背負い納得したみたいなので声を掛ける。


「ウ”ァァァァ」


納得したので首を縦に振る。そして追い打ちで玄関前の姿見の存在を瑠偉ちゃんに教えると、そこからまたあっという間に30分程時間が早送りで経過する。『おじいちゃんとかおばあちゃんの気持ちが分かる、俺今分かったよおじいちゃんおばあちゃんありがとう、孫がこんなに自分がプレゼント(俺は部屋に置いてた物)したランドセルで喜んでくれるとか、めちゃくちゃ嬉しかったんでしょうなぁぁぁぁぁ、俺も今嬉しいぃぃぃぃぃ』と姿見前でクルクルしたりランドセルを映す姿を見ながら『感謝と喜び』を大爆発させて頭の中で拳を握り大空に向かって両腕を突き出していた、まだ16歳だがおじいちゃん目線で瑠偉ちゃんの無表情の喜ぶ姿を満面の笑顔で見守っている。


「・・・ふぅ~、瑠偉ちゃん良かったねめちゃくちゃ似合ってるよ・・・俺はもう感謝と喜びでお腹一杯や」


瑠偉ちゃんの姿見前の可愛らしい行動も落ち着いて慎吾を見つめている。


「ウ”ァァァァ」


満足した瑠偉ちゃんも低い声で唸り首を縦に振って答える。


「それじゃあ~、思わず玄関前で時間食ってしまったけど・・・・・まあ~出発しましょうかね。」


『お喋りとピンクのランドセルと幸せな玄関前の1時間でしたな』と廊下に散らばる国語以外の教科書を拾いリビングのテーブルに置いて、瑠偉ちゃんのピンクのランドセルの位置を少し直して金属バットを握ると玄関から慎吾はまだ喜びの余韻に浸りながら普通に出る。


「ウウウウウァァァァァ」


「うわっ!!」


玄関を出た瞬間に突然タイミング良く呻き声と共に、階段を上って来る男のゾンビと視線が合うと両腕を上げて歩いて襲いかかって来る。下から登ってくるゾンビの頭が丁度野球のストライクゾーンのど真ん中に来た所で冷静にスペースもあるのも確認してフルスイングで一撃で始末する。『ちょっとビビったけど、こんな事もあるよね』と思いピンクのランドセルを揺らしてユラユラ歩いて始末したゾンビに向かって行く瑠偉ちゃんを見て煙草に火を付ける。



















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