9話 帰還
ユキがようやく目を覚ましたことで、気持ちがだいぶ落ち着いてきた。
「ユキ、あと少し休んだら今日はすぐに帰るぞ。流石に俺も少し疲れた」
「あっ、は、はい、わ、わかりました……」
どうにもユキの様子が少し変だ。やけに顔が赤く体温も高い。
「どうした?体調でも悪いのか?やっぱりさっきのことが」
俺がユキと目を合わせて話をしようとしたら、ユキは顔を真っ赤にしてまた顔をそむけてしまった。
「あっ、い、いえ、なんでもありましぇん、じゃなくて、何でもありません」
……やっぱり何か変だな。帰ったら病院に連れていくか。
「おーーい。ユウくん王子ーー。ユッキーー。どこにいるのーー。返事してーー」
ミーロンの声だ。声がした方を振り向くと、ミーロンとあまねちゃんが俺たちを探していた。
「おーい。こっちだ。はやくきてくれ」
そのあと俺たちは合流して、街に戻ることができた。
街に戻ってからが本当に大変だった。
ケルベロスがあの森に出現したことは、すでに街中に広がっていた。
それを俺が倒したということがばれてしまったら、ギルド内どころか街中が大騒ぎになってしまう。
それはまずいと思った俺は、急いで宮殿に向かい、親父がケルベロスを倒したということにしてもらおうとした。そうしたほうがまだマシだ。
宮殿につくと、親父の姿はなく、母さんと他の大臣しかいなかった。
「あら、ユウト、久しぶり。いったいどうしたの?」
「母さん、平原の奥にある森にケルベロスが出たことは聞いてる?」
「ええ。有翼人の女の子がエルフの子を抱えて、大慌てで門番に知らせてくれたからすぐにわかりました」
アンリだな。まあでも、ちゃんとエルフの子を街まで連れて行ってくれたようでよかった。
「それと、あのケルベロスについてだけど……」
「本当はあなたが倒したけど、国王が倒したってことにしてほしいってことでしょ? あなたが倒したって伝わると、自由な生活が送れなくなっちゃいますしね」
……さすが母さんだ。俺の考えを全部把握してる。
「後のことは私に任せて、あなたはゆっくり休んでください。あなたも疲れているでしょう。あ、でも、ユキさんたちはもっと疲れているだろうし、彼女たちのことは労わってあげてね」
「承知しました! お気遣いありがとうございます!」
そういって俺が立ち去ろうとした瞬間、
「そうだ。まだ言ってないことがありました」
「何でしょう?」
「国王に代わって私からお礼を言わせていただきます。ユウト王子、ケルベロスを討伐していたいただきありがとうございました。あなたのおかげで街の平和は保たれました。本来はギルドから報酬が出るでしょうが、今回はちょっと『アレ』なので、代わりに王妃の私から報酬を後日お送りします。楽しみにしていてくださいね♪」
……この国はなんで親父なんかが国王をやっているだ? 母さんがやった方がもっといい国になるだろうに。
そんなことを思いつつ、俺は宮殿を後にした。
屋敷に戻ると、みんなぐったりとした様子で家にあるソファーに寝そべっていた。
「あ、ユウくん、おかえりー」
「おかえりなさい……」
「ユ、ユウト様! お、おかえりなさいませ」
メイド3人に加えて、アンリとエルフの子もこの屋敷で俺の帰りを待っていてくれたようだ。
「あ、ユウト! やっと帰ってきた。ずっと心配してたんだよ」
「あの、お邪魔しています。私はランディアといいます。あの魔獣から助けていただきありがとうございました」
「ああ、無事に助かって良かったよ。けがとは大丈夫?」
「はい、おかげさまでけがもそこまでひどくありませんし、心配なさらなくても大丈夫です」
「それはよかった。色々話したいことはあるけど、まずは食事にしよう」
「うっ、これから料理作るのめんどくさいな……」
「それなら私が何か買ってきます。流石に私も今日は料理できるほどの体力は残っていませんし。ユウト様には申し訳ありませんがそれでもよろしいですか?」
「いや、料理のことなんだが……。たぶんみんな疲れて料理を作れてないと思ったから、帰る途中でいろいろ買ってきた。俺も腹が減ったし、さっさと食うぞ」
「さっすがユウ君!!!ちょーサイコー―!!!」
「お心遣いありがとうございます。ユウト様」
俺たちはテーブルに移動して、さっそく食事を始めた。みんなよほど腹が減っていたのか、全員獣のように飯を食らっていた。
食事が終わり俺はランディアと話をしようと思ったが、……どうやら眠ってしまったようだ。
まあ、あんな魔獣に襲われたから身体的にも精神的にもだいぶつらい思いをしたんだろう。しばらくはゆっくりさせてあげたほうがいいのかもしれないな。
ほかのみんなも同様に眠ってしまっていた。
「えへへー。もう食べられません……」
さっき飯を食べたばっかりだっていうのに、あまねちゃんは夢の中でも飯を食っているのか……
それにしても、みんな椅子にもたれかかりながら不安定な体勢でねむっていた。
「はぁ……。これじゃあ体を痛めるぞ」
ミーロンに至っては服がはだけてしまっていて、非常にだらしない恰好になっている。
「まったく、これじゃあどっちがメイドなんだかわからないな」
みんなをベッドに移動させて毛布を掛けてあげた後、俺もゆっくり眠りについた。
※次は明日の18時20分ごろに第10話を投稿します。
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