1話 旅立ちの日
「いつもよりカッコいいぞ、王子様」
友人のひやかしが鮮明に聞こえてきた。それも仕方ない。
普段の地味な俺サクマ・ユウトを知っている人からしたら、18歳の誕生日にパレードを組んで祭り上げられている俺の姿は、さぞかし笑えるのだろう。
こんなことになっているのも、親父である国王が息子の誕生日に合わせてはた迷惑なパレードを毎年開催しているせいだ。
この国では成人年齢が18歳に定められており、それも影響してか今年のパレードは過去最大級のにぎわいになっている。多くの見物人が出し物を見ていたり、屋台の食べ物をほおばっているなか、俺は一人むなしく可愛らしいフロート車に乗って見物人に作り笑顔を見せながら手を振っている。
(いつまでこんなことやってればいいんだ……)
この国はそもそもおかしい。
かなり昔に親父から聞いた話だが、親父は日本という国で電車にひかれて亡くなったらしい。その後謎の白い空間で神と自称する存在から「異世界で国王をやってみないか?」と提案され、その誘いにのってこの国の王に生まれ変わったらしい。
転生後、親父は神から与えられた「自分が想像したものを生成することが出来るスキル――オールクリエーション」をつかって、『肉じゃが』いう名前のおいしい料理や『スマホ』と呼ばれるどんなことでも調べられる魔道具などの日本にあった様々なものを自分の欲を満たすために作り出した。
のちにそれらを大量に生産し国中に布教したところ、親父は国民から神のような尊い存在としてあがめられるようになった。今では息子の俺でさえも国中の人間から愛され誕生日をお祝いしてもらっている。
「ホントに勘弁してくれ……」
頭を抱えながらボソッとつぶやいた。
パレードを終え、いろんな人にお祝いされた後に俺は国王に『あるお願い』をするために宮殿の一室を訪ねた。
「国王陛下、本日は私の誕生日祝いパレードを開催していただきありがとうございました」
「ああ、うん。別にいいぞ。お前もさぞたのしかっただろう」
「はい。本当に……」
正直まったく楽しくなかった。
「それで、わざわざお礼を言うためにここに来たのか?」
「いえ、実は1つお願いしたいことがありまして……」
「なんだ?言ってみろ。そういえば誕生日プレゼントと成人祝いをあげてなかったし、何でも好きな願いや欲しいものを言ってもらって構わないぞ。今日は気分がいいから用意してやる」
「ありがとうございます。実は……」
「一人暮らしというものをしてみたいと思っています」
「ひ、ひとりぐらし、え、なんで?」
うーん。やっぱり理由は聞いてくるか。ホンネを言うと毎日誰かに気を遣われながら生活するのが嫌だからなんだが、それじゃあ許してくれないだろうな。
「私には子供の時から冒険者になるという夢がありました。冒険者になっていままで練習してきた剣術や魔法がどれほど外の世界で通用するのか試してみたいと思っています。なので今回このようなお願いをさせてもらいました」
「うーん。冒険者になるのはいいけどわざわざ一人暮らしをしなくても……」
「いいんじゃないかしら。あなたも一人で自由に暮らしてみたいのでしょう?」
「私も王妃のおっしゃるように、一人暮らしをさせてもいいかと思います。王子の成長にもつながるかと。」
親父が俺の要求に不満を見せ始めたとき、母さんと親父の親友でもある大臣が援護してくれた。何ともありがたい。
「え?まあ、そうかもしれないけど……」
「それに国王陛下もかつては私と一緒に冒険者をやっていたではありませんか。国王という身でありながら」
「うっ……、確かにそうだけど」
しばらく考えたあとに、親父はあきらめたように言った。
「あー、分かった分かった。認めるよ」
「あ、ありがとうございます!」
「ただし、お前が必要になったときにはすぐに呼び戻させるからそのつもりでいろよ」
「うっ、わ、分かりました……」
今日のパレードでの疲れに加え、一人暮らしの許可をえられた達成感からかこの日の夜はぐっすり寝ることが出来た。
翌日から俺は引っ越しの準備を開始し、2週間が経過、ようやく今日が引っ越し当日。
引っ越しの準備を完了させて出かけようとした瞬間に母さんと鉢合わせした。
「あら、もう出発するのですか?」
「うん、ようやく1人で生活できるし……、って、あの、誤解しないでほしいんだけど、別に母さんと一緒に過ごすのが嫌とかで出ていくわけじゃなくて……」
「ふふふ、分かっていますよ。何も縛られずに自由に暮らしたいってことでしょ?」
「う、うん」
「ぜひ新たな生活を楽しんできてください」
「は、はい!」
俺が勢いよく返事をした瞬間、母さんの顔が少し歪んだようにみえた。
「か、母さん? どうかされしたか?」
「実は、あなたに謝らなければならないことが……」
「え?な、なんでしょう?」
「私も反対したのですけど、国王の指示ですので止めることが出来なくて……」
「えーと、そんなに言いづらいことなんですか?」
「……あのですね」
母さんが何かを話そうとしたタイミングで親父が廊下を歩きながら俺に話しかけてきた。
「今日がお前の引っ越しの日だったな。そうだ、お前にいい知らせがあるぞ。お前が一人で生活しやすいように私が魅力的なメイドを3人雇っておいたから、その子たちと一緒に生活しなさい」
……は?
※次は19時ごろに第2話を投稿します。
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