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報告と聴取

 諸般の報告をするためにシンシアを連れてステラ達が冒険者ギルドに来ると、ギルドの中には冒険者の姿は一切なく、その代わりにギルド職員が慌ただしく書類や地図を拡げ奔走していた。


「何の騒ぎなのな?」 

 事情をあまり知らないスズが、ぽかんとした顔でギルドを見回す。未だにエルミアの腕の中でお姫様抱っこされている。恥ずかしいからいい加減降ろしてくれと言っているのに、エルミアがなかなか降ろしてくれない。

「おそらくスズとシンシア嬢の件だろう。2人がいなくなったのことは事件として扱われているからな」

 アズキとステラで分担して運んできた奴隷商人3人は、適当にギルドの入り口付近に簀巻きにして転がしてある。アズキはスズの腕の中で気持ちよさそうにゴロゴロしている。エルミアがスズを、スズがアズキを抱いている構図になっている。


 ステラは報告しようと、比較的暇そうな職員を捕まえようと声を掛ける。

「ちょっと、いい?」

「悪いな。今、手が離せないんだ」

「この人たち、捕まえ……」

「なんだ、ここは子供の来るところじゃないぞ」

「捕まえたから、処理を……」

「フェスタに来て迷子にでもなったのか? 他のやつに頼んでくれ!」

 声を掛けても誰もまともに取り合ってくれない。

「ちょっと! 誰でもいいから、この奴隷商人の奴らをどうにかしてよ!」

 ステラと無視する職人にイラッとしたミリーの、一際い大きい声がギルドに響き渡った。


「奴隷商人だって?」

「おい、あの子。栗色の髪に桃色のワンピースだ。報告にあった令嬢の特徴と一致するぞ」

「え、じゃあ、あの子達が? 嘘だろ」

「なんだお前、知らないのか? 噂の『銀の花束』の4人じゃないか。きっと奴隷商人をとっちめたんだ」


「だから、さっきからそう言おうとしているじゃない! 奴隷商人を捕まえて、シンシアとスズを解放したわ!」

 ギルド職員全員が動きを止めて、ミリー達のほうを見る。

「ぼーっとしないでよ。ほら、そこのあなた」

 指を刺された女性職員が慌てて、ミリー達のもとへ走る。

「は、はい! 奴隷商人を捕まえたのですね。ゼノ先輩、犯人達の収容をお願いします。私は彼女達から話を聞きます」

 職員歴が短いのかもしれない若い女性職員は、手順をひとつひとつ確認するように頷きながら、自分のカウンターへとステラ達を招く。カウンターへ向かう途中、ゼノと呼ばれた男性職員が、他の職員の力を借りて奴隷商人のセランスロープ3人を担いでいくのが見えた。


「えっと、本人確認っと。まず『銀の花束』の4人と、シンシア・シャロン様でよろしいですね?」

「間違いない」

 代表してエルミアが答える。

「では、調書にまとめますので、今回の顛末について話してください」

 女性職員にシンシアをどのようにして救出したのかについて話した。エルミアが主に説明し、ステラやミリーがそれを補完すると言う形で進めていく。ギルド職員はその内容に何度か頷きながら調書を取っている。


 ギルド職員に中には、楽しそうに報告を聞くだけの人とか、興味なさそうに聞く人とか、魔法具に録音させる職員もいれば、質問をたくさんしてくる職員もいる。

 目の前の女性職員は真剣な表情で調書を取っている。まじめな性格のなのだろう。


「あの、……フレアさんはどこに?」

 エルミア達が一通り話し終えたあたりで、女性職員は調書とは別の書類に目を通して質問した。

「「「え」」」

 ステラ、ミリー、エルミアの声が重なる。

 すっかり忘れていた。


「え、フレアがどうかしたのにゃ?」

「ミリー、フレアは?」

「私だって知らないわ。私が奴隷商人の気配に気付いた時には、いなかったわね」

「ミリーが起きた時にはフレアはもう居なかった。ということか?」


「それでは、まだフレアさんの行方は分かっていないのですね! ゼノ先輩! フレアさんはまだ見つかってません!」

 女性職員は声を張り上げて、遠くにいる男性職員に報告する。そちらの方から「何でいつも俺なんだ。俺じゃないやつに頼め」という声が返ってくる。


 ステラにとってフレアは、フェスタに向けて共に踊りの練習をした仲で、ミリー以外に剣術の話が出来る友人のような存在になっていた。気さくなその性格を羨ましいとも思っている。

 まあ、ダニーに対する変態気質な恋愛感情は理解できないけど。


「探しに行かなきゃ!!」

 ステラが立ち上がると、ギルドの鐘が鳴る。



「あーーーー! やっとステラとミリー見つけた! 何やってたのよ!」


 ギルドの入り口には尊大な態度の、仁王立ちのフレアがいた。

 その隣にはリューゼと、初めて見る黒髪の少女が立っている。

 

 フレアの呑気さにも驚かされたが、何よりもその隣に立つ黒髪の少女の纏っている気配にステラは慄いた。黒い魔力がはっきりとした輪郭を伴って少女の周囲に蠢いているのが感じ取れる。

(空から降ってきた黒い槍と似ている?)

 ステラは少女のただならぬ雰囲気に顔を顰めてしまう。


「待て」

 リューゼの低い声が響く。

 

「ステラ。お前にランゼがどう見えているのかは分からんが、ランゼは私の妻だ。以前話しただろう? 彼女は魔人属だ」

 眼鏡の位置を直しながらリューゼが言う。

「少々込み入った話もある。ギルドマスターの部屋で話をしよう。ユノ、悪いが、フレアとシンシア様を頼む」

「はい! わかりました!」

 リューゼは、ステラたちの対応をしていた女性職員に告げると、ランゼと呼ばれた黒髪の少女ともに2階に昇っていく。

「では、行こうか」

「え、ちょっと待ってよ! 私、ステラとミリーに言わなきゃいけないことがあるのに!」

 フレアが両手を広げ、階段に登ろうとするステラの前に立ちはだかる。

「フレア。どうしたの?」


「それがね、――」

 ステラに促されてフレアは説明してくれた。

「「え、本当?」」

 ステラとミリーが、驚きのあまり同時に声をあげる。

「うん、多分詳しくは本人から話があると思うけど、だから私それの調整に行かなきゃいけないんだけど……」

 と、フレアはステラ越しに、ユノにもその旨を告げる。

「その件に関してはこちらで人を派遣して調整させます。フレアさんにも話を聞かないといけないので、ここにいてくださいませんか」

 ユノは手を合わせてフレアにお願いする。

「うん。ギルド職員の要請を無視することはできないもん。ありがとう。じゃあ、そういうことだからステラ、ミリー、時間通りにちゃんと戻ってきてね。……あの子、怖いんだから」

 フレアは笑顔でヒラヒラと手を振るが、言葉には妙な重みがあった。

「ではフレアさん、シンシア様こちらに座ってください」

「はいはい。えーと、シンシアちゃん? よろしくねー」

 ユノの言葉に続いた、フレアの伯爵令嬢シンシアへの馴れ馴れしい発言に、恐怖も覚えた。




 ギルドマスターの部屋に、『銀の花束』の4人とリューゼとランゼ、ギルドマスターであるリンの姿があった。

「いやはや、汚くて狭い部屋でも申し訳ない。こんなに大勢が入るなんて想定していなかったからな」

「だから言ってるでしょう。普段から片付けろ、と」

 机に座るリンを、リューゼが冷めた目で見下ろす。

 ミリー、スズ、エルミアの3人が大きめのソファに並んで座り、ランゼとステラの2人が同じソファに座っている。リューゼは立ったまま。


「それはそうとして、ランゼ。助かったのは確かだけど、やりすぎというか結構楽しんでいたみたいだね」

「ふん。フレアというヒトの子を匿ったのじゃ。文句は言われたくはないがの。多少は目を瞑らんか、ギルドマスター」

 ランゼは見た目通りの可愛らしい声で話すが、その言葉遣いには老獪なものを感じさせる。

「そこまでの事情を知っておるなら、我らに時間がないことも知っておろう? そこの金髪の娘と銀髪の娘とこの我、我々3人にはやることがあるのじゃ」

 ランゼが胸を張って主張するが、リンはため息をつく。

「そんなに焦ることはない。調書はとっているみたいだから、私からは幾つか質問するだけさ。まず、スズとシンシア様が奴隷商人に連れていかれたことに、なぜいち早くミリーが気付いたのか、という点だが」


「それは私が奴隷商人のことを憎んでいるから。奴隷商人のやり口と、よく使われる魔法具のことは良く知っている。……それ以上のことは、話すことはできないわ」

 冒険者はギルドに嘘をつくことは許されていないが、冒険者自身の能力に関して秘匿することは許されている。ましてや、ここには部外者であるランゼがいる。冒険者の能力を開示することは、冒険者自身の危険につながる可能性がある。


「うむ。それで結構だ。では、スズの居場所も特定できたのも同じ理由か?」

「そうよ。とは言っても正直、奴隷商人が身を隠しそうな場所を虱潰しに探しただけだけどね」

 ミリーは肩を竦める。


「ふむ、あとはどうしてステラたちがその場所まで行けたかということだな」

「それは、私がスズの……」

 スズに召喚獣がいるということは、言っても良いだろうか。

 ステラがスズのほうを見ると、スズは構わないという様に頷く。

「スズの召喚獣が私に場所を教えてくれた。奴隷商人の魔法具の影響のせいで、はっきりと教えてもらうことは出来なかったけど、エルにそのことを話したら、エルがその場所に気付いたみたい」

「私はステラと会う前から、町の中を一通り探し回ったからな。あとは勘だ」


「そう、なるほど。私から聞きたいことはそれくらいね」

 リンは真剣な話のせいで、肩が凝ったのか首をぐるりと回す。

「私からも2つ聞きたいことがあるのだが、いいか」

 エルミアが手をあげる。

「どうぞ」

「まず、なぜスズとシンシア嬢が連れていかれたのか、だ。目的が分からない。セランスロープと伯爵令嬢だとその繋がりが感じられないのだが」

 エルミアは言葉を濁していう。

 黒猫のセランスロープ(獣人)とヒト属の伯爵令嬢は、立場も扱いも変わってくる。

「今回の奴隷商人はアナグマ系のセランスロープだった。彼らは嗅覚でシンシア様の匂いを辿っていたようだ。シンシア様も、スズもその匂いがしたと言っていたな」

 その言葉にエルミアははっとする。

「もしや、私がスズにつけたあのコサージュか!」

「ふむ? コサージュってこれのことなのな?」

 スズが腰についているコサージュを、皆に見えるように立ち上がる。

「それはシンシア嬢に貰ったものなんだ。スズに似合うからと思ってつけたのだが……、それのせいでスズを巻き込んでしまったのか」

「いやしかし、結果としてはそれが功を成したわけだ。拐われたのがシンシア様だけだったら、ここまで早く解決はすることは出来なかっただろう」

「うん、エル。そんなに気にしないで欲しいのな」


「クロード殿……シンシア嬢の付き人はどこに?」

「ああ、そのことね。あいつはまだ領主の館にいるわ。既に無力化しているから大丈夫よ」

「……無力化?」

 

 リンは椅子に座りなおし、手を顔の前で組む。

「今回の黒幕は、クロードさ。そもそもおかしいだろう? 伯爵令嬢がろくに護衛もつけずに付き人だけ連れて来るなんて。私もそれに気づいて使い魔を飛ばして偵察していたんだが、魔法具の影響かシンシア様の方は途中で追えなくてな。幸い、クロードは問題なく追えたから、その行動を追っていたのだが不審な点が多くてな。領主に頼んで早めに確保してもらったという訳さ」

 リンは悔しそうに唇を噛む。

「私はテイマーなんだ。使い魔とか魔物を自分の従者として従わせることが出来る。だが、さきの採掘場の調査の時に、地下探索が得意な魔物を失ってしまっていてな。それさえいれば、もっと早く救出が出来たのだがな」

「話が長いぞ、ギルドマスター。我々はもう行かねばならぬのだが」

 悔し気なリンを無視して、ランゼがため息交じりに言った。


「君たち『銀の花束』には本当に感謝している。もちろんランゼ、君にも。残り少ないフェスタだが、全力で楽しむと良い」

 その言葉を合図に6人は部屋を後にした。


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