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フェスタ当日 ステラ視点1

朝、ベッドから身を起こすと、部屋にはベッドの上で横になりながらボーっとしているミリーと、まだ気持ちよさそうに寝ているスズの姿があった。

 エルはもう起きて朝ご飯を食べているのだろうか。

 私はひとつ大きなあくびをして、髪を手櫛で整える。

「ミリー」

 声を掛けると、ミリーはボーっとした表情でこちらを見る。ゾンビみたいだ。思わず私は、ミリーのそんな姿に微笑んでしまう。まだ寝ていた行けど、どうしても起きなくちゃいけない、そんな感じなのだろう。

「私、ご飯食べるよ。どうする?」

「うーん、起きて一緒に食べるぅ……」

 私は町娘の服に袖を通し、服の内側に入ってしまった銀色の髪の毛をザッとかきあげて背中に回す。

 ミリーもまだ寝ぼけているようだが、もそもそと着替えをしている。

「まだ寝ててもいいよ」

「起きるぅ……」

 ミリーは大きく背伸びをした。


 着替えをして、1階に降りるとエルが朝ご飯を食べ終えて店を出て行こうとしているところだった。

「あら、もう食べちゃったの?」

「おはよ。エル」

 ミリーはまだ眠そうにしていて、まだ小さくあくびしたみたいだ。

「おはよう。すまないが、私はもう行くよ。では、あとでな」

 後ろ手でそれだけ言ったエルが宿から出て行くと、宿のおじさんがいつも通りの笑顔で私達のところへやってきた。

「おはよう。今日はいよいよフェスタ当日だねえ」

「おはよう。いつもの朝ご飯セットお願いするわ」

「うん、私もいつものでいい」

「あいよ!」

 宿のおじさんに注文をして、私達は窓際のテーブルについた。


「ミリー、緊張してる?」

「してるわよ。ステラはいいわよね。真ん中で踊ることがないんだから」

 ミリーはむすっとして頬杖をつく。

「自業自得だよ。3回あるんだから、1人1回ずつって私言ったのに」

「だって、一回も真ん中に立たなくて良いんだったら、そっちの方がいいじゃない!」


 私達の舞台上での演舞は全部で3回やることになっている。

 正午に最初の公演をして、それから3時間おきに鳴る鐘に合わせてあと2回、合計で3回踊ることになっている。

 私は1人1回で良いと言ったのだけど、ミリーはそれが嫌だったみたいで、コイントスをして決めることにした。

 その結果、最初はフレア、後の2回はミリーが真ん中で踊ることになった。


「はい、お待ち。俺も時間があれば見に行きたいもんだね」

「うう、有難いような。来て欲しくないような。別に来なくてもいいんだから……」

 ミリーは複雑そうな表情を浮かべている。

「オススメは、黄と橙の鐘の刻(3時と6時)」

 私はパンを頬張る。むう……このパン、不味くはないんだけど堅い。

「それ、私が真ん中で踊る時じゃん? おじさん、来るなら正午に来てね。絶対」

 おじさんは苦笑いをして、あとからやってきた他の客の朝ご飯の準備をするために宿の奥に戻っていった。


「2人ともおはようなのな! じゃあね!」

 朝ご飯を食べ終わるころにスズが二階から降りてきて、そのまま宿の外まで走っていった。

「頑張ってねー!!」

 ミリーはタイミング良くスズに声を掛けられたけど、私は丁度口の中に堅いパンが入っていたから、手を振ることしかできなかった。

 スズにもしっかり挨拶したかったのに、せわしないんだから。

「みんな忙しそう」

「そうね、私達も衣装の受け取りとかしなきゃだから、そうそうゆっくりしていられないわよ」

「うん」

 とはいえ、そこまで多くはないこの宿の朝ご飯を流し込むのはキツイ。これならきっと私のほうが美味しい朝ご飯を作れる。銀の森では私がご飯の当番をすることが多かったんだから、多少は自信ある。


 そこから一度部屋に戻って簡単に身なりを整え、まずは冒険者ギルドに立ち寄ることにした。

 目的は、踊り子のスキルを選択しなおすためだ。

 フェスタには沢山の町の人が参加するだろうから、その警備の一環として冒険者があたることになっている。だから、というわけではないけど魔物のが住んでいる町の外に比べると安全だろう。今日一日は戦闘の得意なジョブじゃなくて、踊り子にしてもいいだろうとミリーと相談していた。

「魅了」と「舞踊効果」、「演出」の踊り子の専門スキルは、今回の舞台で演舞を行うにはもってこいのスキルだった。


「他には『集中』と、『跳躍』くらいかな」

 ミリーが石板と睨めっこをしている。。

 結局のところ、私たち2人だけが踊りに特化したスキルを選択しても、3人一緒に踊る舞台では意味がなくなってしまう。一緒に踊るフレアを置いていく、というかフェアじゃないような気がする。

「でも、こうしたら?」

 私は余ったスキルポイントの多くを、ステータス値の底上げに使用する提案をした。

「敏捷性、魅力、魔力操作かな。あとは筋力とか?」

 私の提案をもとに、ミリーが魅力にポイントを振った。

「魅力にそんなに振るの?」

「目立つなら可愛い方がいいでしょう?」


 私は自分のスキルの見直しと能力値の上昇をした。

 能力値の上昇は、基本的にはスキルを取得するより多くのポイントを必要とする。依頼を達成した時に貰える功績ポイントとか、魔物の討伐数とか、自力の経験がそのままスキルポイントになっていくみたいだ。

 まあ、今のところポイントが足りなくて困ったことはないのだけど。

「リューゼは休みなのかな」

 私は改めてギルドの中を見回した。

 今朝のギルドの職員は、いつもより少ない。

 きっと今日はこのギルドに立ち寄る人間はそうそういないんだろう。

「私はリューゼに、会いたいとは思わないけどね」

 そう笑うミリーの口から出た言葉が、本心なのか天邪鬼なのかわからない。


 次に、服飾屋兼防具屋の『竜宮屋』に向かった。フレアとは『竜宮屋』で合流することになっている。

「いらっしゃ……きゃー! ステラちゃん、ミリーちゃんだーー!!」

 店に入るなり、女の店員に腕を掴まれた。

「衣装を……」

「着て欲しいものがあるの!」

 私の言葉が店員に届くことはなかった。助けを求めようとミリーを見るが、既にミリーは他の店員に連れられて試着室へ入っていくところだった。

「……フレアが来るまで、だからね?」

「はいはーい。わかってますよー」

 完全に着せ替え人形になった私の顔以外の部分、首より下は店員の言いなりになっている。


 しかし、竜宮屋の店員はみんなこんな感じなのだろうか。小さい頃よくママがコニーに着せ替え人形になっているのを見たことがあるけど。

「どうこのドレス、可愛いでしょう? よく似合っていますよ」

「うん、可愛いと思う」

 店員が着せてくれたのは、パーティ用のドレスだった。こんな機会でもなければ着ることもないような服だ。

「じゃあ、今度はこっちですね」

 店員は私の好みを知っているのか、それともハームの町やいろんな街で購入した服の履歴を知っているか、着せてくれたものの大半は買ってしまいたくなるようなものが多かった。

それに店員が「かわいいですよ」「お似合いですよ」と褒めてくるから、ついつい買ってしまいたくなる。

(ミリーは断ってるのかな)

 自然と気になってしまう。少し考え事をしているうちに、「これはどうですか?」という声がして鏡に視線を戻す。


「!! え、こ、れは?」

「若いって良いですね。スタイルがいいから似合ってますよ」

「ほとんど……裸」

「あら、初めてでしたか? これは水着って言うんですよ。他国で流行っているものらしいんです。海や湖で濡れてもいいように布が少ないんです」


 胸と下腹部が隠れているだけ。下着と違うのは布地がしっかりとしていることと、胸の真ん中には大きめのリボンが着いていることくらい。

「恥ずかしい」

 その異国の人はよくこんな格好をして恥ずかしくないのかな。

「そうですね……、下にスカートを履く。という着方もありますよ」

「確かにこれにスカートなら、少しは安心できるかも」

「はい。じゃあ、こんな感じですかね。こうして、っと。どうですか?」

「でも、やっぱり胸が……」

「えー、可愛らいしくていい胸なのにもったいないです! 隠しちゃうんですか? そんなに気にすることはないですよ」

 少し店員の熱意が怖い。

「そう、なの?」

「そうです! お似合いです! せっかくステラさんのためにデザインしたんですよ」

「え?」

「ステラさんがこの町に3週間いるってわかってからデザインしたんです。この水着も、この服もこの服も!」

「……」

 笑う店員の目の下には、クマがついている。

 ……どうしてそこまでして。


「買うよ」

「え? なんと?」

「その服も、この水着も、あなたがデザインして作ってくれたもの全部買う。可愛かったし」

「え、ええーー、うれしいでふ! しょんなこといってくれうなんて」

「な、泣かないで。無理もしないで」



 ミリーに大量購入したことがバレないように、収納空間に服を入れた。ついでに魔法で店員のクマも治してあげた。私のために疲労を抱えているなんて、放って置けない。

 店員から呼ばれて試着室から、店の売り場に行くとフレアが来ていた。

 ミリーは……多分、気に入った服があったのだろう。とてもいい顔をしている。次の休日には早速、新しい服を着るに違いない。

(本当にミリーは、子犬みたいだ)

 ミリーがセランスロープだったら、尻尾を嬉しそうに振っているだろう。


「おはよ。フレア」

「おっはよ、ステラ。少し遅くなちゃったかしら?」

「おはよう、フレア。大丈夫よ。少し店員のおもちゃにされたけど」

「ミリー何か嬉しそうじゃない。何かいい買い物でもした?」

 フレアはニヤニヤしながら、ミリーの返事を探っている。

「そ、そんなことあるわけないじゃない。これは、その……フレアに会えたからよ!!」

「「え」」

 それはいくらなんでも無理がある言い訳だ。たまたま偶然ここであったのなら、まだわかる。けど、私達は会う約束をしていたのだし、昨日だって一緒に踊りの練習をしていた。

「そ、そうだったの?」

(え、フレア信じるの?)

「そうよ! 今日初めて衣装を着るんだもの。フレアがいなくちゃ始まらないわ」

「……そんなに私の踊り子の衣装が見たかったのね」

 フレアはもじもじしている。ダニーを目の前にした時みたいに。


 なんなのだろう。

 私の周囲の女の子はなんなのだろう。


「とりあえず衣装、見せて」

 私は耐え切れずに店員にそうお願いをした。



毎回読んでくださってありがとうございます。

誤字報告、ブクマ本当に嬉しいです。そろそろ100話になってしまう勢いになっていて驚いています。きっと一話ごとの文字数が少ないのも原因なのかと。

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