スフォルの町
一行はその後、魔物との遭遇はあったが、問題なくスフォルの町に到着することができた。
スフォルは炭鉱の労働者が多い町で、ハームやコーラルの町と違い、賑やかというよりは騒がしい。いたるところで金属が鳴る音が聞こえ、煙が上がっている建物も多くある。
ハームに比べて高い位置にあるゆえか、それとも空気が汚れているからなのか、どことなく息苦しく、空気が薄い気がする。
カーンとの護衛依頼の契約は馬車屋までだったので、そこでカーンに依頼達成の書類にサインを貰い、ステラ達の臨時パーティーはギルドに来ていた。
かららん。
じろりと視線を集める7人。
『銀の花束』とジーナ、ダニー、フレアはぞろぞろとカウンターに向かう。
「護衛依頼の報告をしたい。依頼人からの書類も貰ってきている」
エルミアが男性ギルド職員に書類を提出する。
「失礼ですが、ギルドカードの確認をさせて頂いても?」
眼鏡をかけた細い男が表情を変えずに手を出す。
「ああ、もちろん。皆、ギルドカードを」
エルミアの声に、ひとりひとりギルドカードを置いていく。
ブロンズのカードが4枚。それと、銀色のカードが2枚。
フレアは冒険者登録すらまともにしていないので、カードを持っていない。
「あなた方はCランク、なのですかな?」
「うん」
「そうよ」
男はため息とともにぞんざいにカードを返し、書類に目を通す。
「ほお、あのカーン氏が、ねえ……」
そして目の前に立つステラとミリーを、細い目で睨むように見据える男。
「ああ、失礼しました。最近、カードを偽造するものが多くて警戒しとるんですわ。採掘場の中に化物が出たらしくてね。金目のものがないかと勝手に入る連中が多いんです」
男は微塵も非礼を詫びる様子もなく話す。
「では、報酬を支払います。どのような分配にしますかね?」
「人数で割ってくれ。6だ」
「かしこまりました」
書類を再度確認し、硬貨を数えている男。
「これが今回の報酬です。追加報酬がカーン殿から出ております。一人当たり、小金貨4枚です」
「ありがとう」
エルミアが『銀の花束』の配当分を、ジーナがダニーとの配当分を受け取った。
ギルド内のテーブルに、エルミアを除く6人が座るとダニーが切り出す。エルミアはギルドの職員にこの町の宿について聞き込みをしているところだ。
「しばらくは、この町にいるんだよね?」
「そのつもりなのな。ここにも『竜宮屋』があるから、作ってもらっている冒険者服の調達もしたいし、この町で流行っている料理も知りたいのな」
「僕たちもここでフレアの冒険者登録と、フレアをFランクにするためにも一つ依頼を受けるところまではいるつもり。ハームまでまた歩くのは勘弁だからお金集めないといけないからね」
「それにしても、それ、すっかり気にしなくなったのね」
ミリーがジト目でダニーを見る。フレアがダニーに寄りかかっているのに、ダニーはそれを気にするようなそぶりを見せていない。受けいれてからというもの、イチャイチャしやがって。
「その、フレアも前に比べたら、幾分マシだから……」
少し恥ずかしそうになるダニー。
「仲がいいのはいいことだろ。宿のことだが、この町には2つあるぞ。ただ、一方の宿は冒険者の宿というよりは、この町に来ている労働者の下宿と化しているらしい。そして、もう一方は割高だが空室は残っているとのことだった」
「え、本当!? お金貯めるどころの話じゃなくなってしまうじゃない」
ジーナが顔を曇らせる。
「しかし、町の外にテントを張るのは禁止していないから、そこでもいいと言っていたぞ」
ステラたちは町に入るとき、街道や町の塀に沿ってテントが立ててあったのを見ている。労働者たちのものだろう。
作業服を来たセランスロープやヒト属、稀にドワーフの姿もあった。
「テント、ね。ステラたちのテントならまだしも、私たちのテントじゃとてもじゃないけど長期間の滞在は無理ね……。それに、私たちはダニーがいるから2部屋確保しないといけないから高くつくのよね」
「何っているの? ジーナが邪魔なのよ。ダニーと私は一緒でいいから」
「あんたが、いるから色々とややこしくなっているんでしょうが!」
このようなやり取りをダニーは、まるで自分は関係ない人間だというように我関せずの姿勢を貫いている。
「一番安く済ませるならダニーが安宿、ジーナとフレアがテントじゃない? 私達と一緒にテントを使えば安全」
「うげ、僕だけハズレな気が……」
「「本当に!!?」」
ダニーの呻きは、ジーナとフレアの歓声にかき消された。あのテントなら、そこらの宿よりも清潔で豪華なのだ。
「「「ということは!!」」」
ミリー、スズ、エルミアが何かが閃いたようだ。
テントの中にはベッドは4つしかない。その中の2つをジーナとフレアに貸すということは、残る2つのベッドに4人が寝ないといけなくなる。
つまり、4人は必ず誰かと一緒に寝ることになる。
「そうベッドが足りない。けど、大丈夫。スズがもともと持っていたテントもあるし、ジーナ達のテントもある」
「ということは、2人はテントの恩恵をうけられないってことなのな」
スズは誰が小さいテントに入るのか気になっているようだ。
「はっ! むしろ……」
スズが打って変わって、にやにや顔を浮かべる。その様子を見ていた二人も、何かに気づいたようだ。
(((では、テントの中は、二人きりの空間では)))
「だからそのテントを持って、2人一組で討伐依頼にいって、お金と経験を稼ぐ。この町のダンジョンである、炭鉱に潜るのもいいし、レベルアップにも繋がる」
「え……うん」
スズがきょとんとしている。それは苛酷になるのではないだろうか。
ステラが立ち上がり、まるで宣誓をするように手を伸ばす。
「ペアは私が決める。明日は休み。今からの予定は、ミリーは私と一緒にテントの設営、スズとエルミアは町を散策して情報収集。ジーナたちは後で呼びに行くから自由にして」
「というか、ジーナは行かなきゃいけないところあったんじゃないの? それはどうなったのかしら」
ハームの町で依頼の話し合いの時にも話題に上がったが、ジーナとダニーはこの町になにやら用事があると言っていた。
「あ」
視線を集めるジーナ。
「あはは、は…...、そうだった。親戚のお家があるんだった。だからそもそも宿は必要ないんでした。あはは......」
ジーナてへぺろ。
「もう、ジーナったら、そういう大事なことは早く思い出して欲しいのな」
「それなら、テントの件はなしっていうわけね。少し残念な気はするけどね」
「しかし、まあ、そうなると宿にするのか、テントにするのか決めないとな」
「あれ? どうかしたの、ステラ?」
ステラが顔を両手で覆い、小さく震えているのに気づいたミリーが声をかける。
「だ、だって、わたし……、私、あんなに仕切っていたのに……、恥ずかしい。皆に厳しいこと言ってたのに」
最後の方は消え入るように、小さくなっていく。
「おう、ステラ、大丈夫なのな!? スズがいるにゃよ。」
スズがステラの前にさっと立ち、両手を拡げる。
「うう……、ミリー」
しかし、ステラは両手を覆ったまま、ミリーの胸に飛び込む。
「ステラ……」
ミリーは頭を撫でつつ、スズに不敵な笑みを向ける。
(残念だったわね、スズ)
(ミリーの薄い胸の方が安定するだけにゃ)
「とにかく、いったん解散しましょ。2人は一応宿を確認してくれない? テントで泊まることが許されているなら、テントに泊まった方が得だけど、労働者の近くで寝るのはやっぱり不安だから」
「……わかったのにゃ」
「スズ、寂しそうな顔するな。屋台で何か食べ合いっこしよう」
ダニーはそこにいる女性達を見遣る。
(女って生き物は、こんな変な奴ばかりだったのか。ってことは、フレアもそんなに変じゃないのかな?)
ダニーが横のフレアを見ると、フレアは笑顔で首を傾げる。
「どうしたの?」
「あ、いや、なんでもない」
「ダニー、私たちも行きましょう。屋台で食べ合いっこしよー?」
「あ、ああ」
「『ああ』じゃないわよ! 少しは拒否しなさいよ。っていうか、私をいないものとして扱ってない? ダニーは私の弟なのよ!!」
ジーナおこ。
「しかし、これでジーナたちとお別れになってしまうかもしれないのか」
「そうね。でも4人は目立つからきっと会える気がするわ。それにこの町にいる間には会えるでしょうからね」
別れの挨拶もそこそこに、ジーナ達はギルドを出ていく。その後に、スズとエルミアが宿の確認と町の観光に向かった。
「......ね、皆いなくなった?」
ステラがようやく顔をあげる。
「いなくなったわよ。変なところで恥ずかしがり屋の泣き虫なんだから」
「む......う」
「ハームの広場で、踊っていた時は堂々としていたじゃない」
「あの時は、人がいること忘れてたから」
「銀の森を出たとき、最初は2人だったのに、急に増えて賑やかになったね」
「うん、びっくり。だから、またミリーと2人で討伐依頼に行けるかなと思ったのに」
ミリーは一生懸命に口を一文字に閉じている。そうでもしないとニヤケてしまう。
「テントを分けるのは、そういう思惑だったのね。でも、ハームの町でも一緒に依頼に行ったじゃないの。数日前のことよ」
「駄目なの?」
目に涙を浮かべて、懇願するようにステラが言う。
「だ、駄目じゃないわよ。ほら、私たちも行きましょう。この町には労働者向けの屋台が多いらしいから、きっと新鮮で楽しいわよ」
「うん。アンナが言ってたけど、この町の装飾品屋をぜひ見たらいいって」
「いいじゃない。そこを探しましょ」
2人は町を歩いている。
食事をとるために訪れた、屋台が多く並ぶ通りでは、楽しそうにスズとエルミアが屋台を見て回っているのが見えた。スズ達はスズ達で、楽しそうにしていたから、邪魔しないよう声をかけずに見送ることにした。
「がっつりしたものが多かった。おなかいっぱい」
「そうね。こんなの毎日食べてたら、大変なことになりそうだわ」
ミリーは笑う。
「冒険者とか炭鉱の労働者じゃないと、ぶくぶく太ってしまいそう」
「ふふ。そうね。おいしいのは確かなんだけど、量が、ね。あ! アンナが言ってた店、あそこじゃない?」
ミリーが一つの店を指差す。
「ん、そうかも」
その店の看板には『フェルディア』と書かれていて、牡牛の意匠が施されている。建物全体に蔓植物が生い茂っていて、年代を感じさせる。
りん、りん……。
「こんにちは」
ドアベルが鳴るのに合わせて、ミリーが挨拶をする。
店内は光魔法具のお陰で程よく明るく、店内の商品は丁寧に飾られている。耳飾りや腕輪などの冒険者向けの装備品もあるが、ネックレス、アンクレットもあり、中には宝石をあしらったものや細かい細工を施しているものもある。
「いらっしゃい」
ステラたちを出迎えてくれたのは、小柄の褐色の肌の少女だった。
「手に取って見て構わないからね。ゆっくり見ていっておくれ」
少女の声は幼さが残っているものの、話し方が妙に大人びている。
「ありがと」
ステラはそう言うと、目についた羽の髪飾りを手に取り眺める。
町の通りに出ていた出店でも、鳥の羽の髪飾りは多く並んでいた。出店のそれらは、比重の重い金属を使用しているか、細工技術が未熟ゆえに金属を多く使用しているために髪につけるには重たいものや、羽であることは間違いないのだが、実際に着けようとは到底思えないデザインのものが大半だった。
「でも、これは本物みたい」
ステラが手に取った髪飾りは精巧に出来ているうえ、小さな宝石が幾つか散りばめられている。重い宝石が乗っているのにもかかわらず、とても軽い。
「あら、本当ね。髪飾りでも探しているの?」
「戦闘の時に、やっぱり髪が邪魔なんだ。簡単にこういう風に、直ぐにあげられるものないかな」
ステラは自分の手でポニーテールを作てみせる。
「ステラに似合うの、あるかな。ステラは髪の毛伸びちゃうもんね、修行してた時みたいにまた切ってみたら?」
銀の森で魔女の修行していた時、ステラは毎朝自分で髪の毛をざっくりと切っていた。
「あの時は、ミリーとママしかいなかったから良かったけど、今は無理。恥ずかしい」
「何かお探しかい?」
「戦ってるときに髪をまとめるものが欲しい」
「なら、その髪飾りは駄目だね。激しい動きには向かないよ。簡単にとれちまう」
「そっか、残念」
「そうさねえ、リボンもあるよ。見てみるかい?」
「うん、見てみる」




