お静かに
「それで、薬草はどこにあったのにゃ?」
「その前に、スズがどうやって戦ったのか、詳しく知りたいんだけど
「う……」
ダニーがスズを探るように覗き込んでいる。他の2人も同じことを考えているらしい。
「えっと、飛んで跳ねてナイフをシュッと投げたのな」
「そのナイフを投げたの?」
ジーナがスズの持っているナイフを指差す。
「そうなのにゃ、投げたら、……戻ってくるのな」
自分の言っていることがおかしいことは十分に承知している。スズは視線を3人に合わせない様に、顔を逸らす。
「普通は戻っては来ないだろう。曲芸用のナイフならともかくとして」
エルミアがスズからナイフを受け取って観察する。
「刀身は少し黒くて、わずかに湾曲しているようだが、普通のナイフようだな。特段変わったところはないみたいだ」
「やって見せて欲しいな」
ダニーが純粋な興味を目に宿している。
「ええー」
「やってみてくれないと、信じられないわ。私達同じ班でしょう? 隠し事はしてほしくないわね」
「……わかったのな」
スズはエルミアからナイフを返してもらって、立ち上がる。
「じゃあ、適当にあそこの木に投げるのな」
スズが指差した木は30メートル程離れている。
「き、緊張するのな」
3人の視線が気になる。
「思い切りやっていいぞ」
エルミアがスズに向かって頷く。
深呼吸をしたスズは、大きく振り被って右手のナイフを思い切り木に向かって投擲した。
ブン……ザスッ!
左手のナイフも同様に投擲をした。
ブン……ザスッ!
同じような音を立てて、ナイフは同じ木へと刺さった。
「ふう、良かった。刺さったのな」
ふうと息を漏らすスズ。
「こ、こんな感じなのな」
「それで、どうやってナイフが手元に戻ってくるんだ?」
「ただ呼ぶだけなのな。戻ってこーい」
呼びかけに答えるように、深々と刺さっていたナイフがスズの手元に飛んで帰ってくる。
「おかえりなのな」
「すごいわね。そんなことが出来るなんて」
ジーナが感心したように手を叩く。
「どうして黙っていたんだよ」
ダニーもジーナと同じように拍手をする。
「黙っていたというか、ついさっき出来るようになったのな」
「「え」」
「だから、さっきこの魔物と戦っているときに出来るようになったのな。ホントは、こういう風にナイフから刃が出てくれるのが、良かったんだけど無理だったのな」
「ナイフが戻ってくる方がすごいと思うぞ。剣から風の魔術で刃を飛ばす人物は何人か見たことはあるが、さすがにナイフを呼ぶというのは聞いたことがない」
エルミアが腕を組んでスズを見つめる。
「スズ、すごいな」
「そんなことないのな、あたし皆みたいに戦える力なかったからこれでやっとみんなと同じなのな」
スズは安心したように微笑んで見せる。実際、戦闘は今まで碌にしてこなかったから、戦いが経験できてうれしくて、それなりに興奮もしている。
「とにかく、野営地に戻りながら薬草の採集をしていきましょ?」
「うむ、夕飯のためのお肉も欲しいのな。でも……」
「どうした?」
ダニーが薪を消しながらスズを見る。
「戦闘のせいで力を使い過ぎたのか、めちゃくちゃ眠いから、アズキの上で寝ていいかにゃ?」
それからスズはなんとか滝の近くの紫の薬草の採集地までは確認できたのだが、それ以降の記憶はない。
「スズって本当、猫みたいね」
ジーンがアズキの上で寝ているスズの頭を撫でる。
「そうだね、かわいいよね」
ダニーもスズをちらと見る。
自分の姉以外の年の女の子の寝顔を見るだけでも十分に恥ずかしいし、何かの拍子でスズが起きてしまい、寝起きのスズと目が合ったらと思うと、ドキドキしてしまう。
それに、あんなに明るくて料理もできてコロコロとしていて本当にかわいい。
「どうしたんだ、ダニー? そんなに顔を赤くして。疲れてしまったか?」
「なんでもないって」
「そうか。疲れたら言ってくれ。スズのせいで荷物をダニーに持ってもらっているからな」
「大丈夫だよ。これくらい」
スズの寝る場所、アズキの背中の上にスペースを確保するために、アズキの背中にあった荷物をダニーに持ってもらっている。拠点に大きい荷物を置いてきたものの、それでも持ち運ぶ荷物は多い。
「ん? あれは!!」
エルミアは一呼吸の内に矢を番え、草むらに矢を放つ。
「角ウサギ? 私には見えなかったけど」
「いや違うな。あれはきっとシェルピッグの子供だった」
「なら、ここら辺に親もいるかもね。どうする?」
シェルピッグは、甲羅を持っている、豚によく似た魔物だ。
甲羅の成分の殆どは、岩から摂取したミネラルを固めているので、堅く頑丈だが、その中身はとても上質な肉が詰まっている。
背中に甲羅という頑丈な盾を持っているこの豚は好戦的で、運が悪ければ甲羅を武器にした突進で、骨折してしまうこともある。
「ジーナは仕留められそうな魔術は持っているか?」
「火の魔術はあるけど、肉が焼けたら勿体ないし、森だから論外でしょ。少しの岩魔術なら使えるけどあまり期待はしないほうがいいわよ」
「なら、もし運よくまた遭遇したら試しに狩ってみようか。無理なら撤退すればいいだろう」
「それでいいわ」
エルミアの言葉に、アズキは上質な肉にありつけるという期待をこめて嬉しそうに鳴く。
まだ眠ったままのスズを背中に乗せた一匹と3人は、警戒をしつつ目標を探す。
「いないね。単純に逃げてしまったのかもしれないよ」
ダニーがしびれを切らして声を出す。
「そうだな。こちらから攻撃したから、何か反応があると思っていたが、なにもないようだ」
エルミアは、心底残念そうに肩を竦める。
(くそ、スズが喜ぶ&スズの自慢の料理を食べるチャンスが!!)
「残念だけど、そろそろ野営地に戻らないといけないから、諦めましょ」
「……ああ、そうだな」
エルミアは右手に持っていた矢を、腰に差した矢筒に戻そうと視線を移動させた先で止まる。
「これ、もしかして糞じゃないか」
2人に見えるようにエルミアは草をかき分ける。
「確かにこれは糞だね。見たところ新しいようだけど」
ダニーが糞をまじまじと観察する。
「まだ温かいみたいだね。近くにいるかもしれない。豚ちゃんが」
3人は周囲を改めて警戒する。
膝ほどの高さの雑草、まばらに生えている木、土壌から露出している岩。
時々聞こえる鳥の鳴き声や、草が風で鳴く音。
何かに気づいたエルミアは矢を番える。
エルミアの様子に気づいたジーナとダニーはエルミアの視線の先、矢の先にある『岩』を凝視する。
矢を番え、狙いをつけたままのエルミアは『岩』を中心に弧を描くようにゆっくり慎重に足を前に出す。
ジーナとダニーは、いつでも攻撃が出来るようにと武器を構える。ジーナは杖を両手で構え、ダニーは正眼に構えている。
エルミアは狙いを定めて、一気に矢を放つ。
『ピギィィィィイイイ!!』
断末魔の叫びが『岩』から聞こえると、散在していた岩のいくつかが身じろぎをした。
「ダニー、ジーナ! 来るぞ!」
「了解! 出番だね」
岩に擬態していたシェルピッグが一斉に走りだす。何体かはその場から逃げていくようだが、殆どが3人に突進してきた。
「火よ火、我の力となりて守りたまえ、ファイアー・ウォール」
ジーナは延焼を引き起こさないように、かなり加減をした火の壁を生み出した。
「逃げてくれたら楽だったのだがなっ!」
『ピギィィィ!!』
エルミアは、続けざまに矢を放つ。
矢のストックは多めに持ってきているが、限りがあるから無駄撃ちは出来ない。対象は動いている敵だ。確実に仕留められると判断したときのみ矢を放つ。
「動きはそこまで早くないし、単調だからいいけど、こいつら諦めが悪い!
」
ダニーもシェルピッグの突進を避けつつ、隙を見て攻撃しているが、その一撃は致命傷には至らず、突進してくる敵に苦戦しているようだ。
「岩よ岩、我の力となりて敵を粉砕せよ。ロック・ショット!」
『ピギィィィ!!!』
ジーナも魔術詠唱に集中する必要があるのか、発動は遅いが着実にシェルピッグを昏倒させていく。
「俺、こいつらを倒したらスズに旨い飯作ってもらうんだ!」
『ピギィィィ!!』
ダニーが剣をシェルピッグに突き刺しつつ叫ぶ。
この場にステラかミリーか、セーラムがいれば「それは言っちゃダメ!」と突っ込みが入るところだが、残念ながら不在である。せっかくのお約束なのに。
『ピギィィィ!!』
「あと一匹だぞ!」
仕留めたシェルピッグから矢を抜きながら、2人を鼓舞する。
その時アズキの背中の上でもぞもぞする影があった。
「ピギィ、ピギィ、うっせえ!!!」
寝ぼけたままのスズから、ナイフが投擲される。
『ピギィィィ!!』
より一層大きな断末魔が響く。
「黙れ!!!」
「「「……」」」
「すぴー、すぴー」
「スズの周りでは静かにしよう」
エルミアはナイフを拾い、スズの道具袋に入れる。
ジーナとダニーは、エルミアの提案に真顔でコクコクと頷いた。




