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7 一方そのころファフニール王国では

表向きには交友を深めるため、内実にはセレナの受け入れ先としての交渉をするために隣国へ赴いていた国王は自国に戻ると絶望した。


セレナが亡くなったと知らされたからだった。


セレナは愛する第一王妃をなくした国王にとって最後の光だった。


国王は誠実な政治を心がけていたつもりだったし、実際国民からの信頼は厚かった。


自分が第一王妃に迎えた選択は間違っていなかったと思う。




何もかもが狂い始めたのは第二王妃が嫁いで来てからだった。


気づくと周りは第二王妃の息のかかったもので固められていた。


それでも第一王妃といるとすべてを耐えることができた。


セレナの出産時、あたりは混乱に包まれた。


第一王妃が亡くなった?


セレナが不貞の子?


第一王妃が亡くなった悲しみに明け暮れている内に、気づけばセレナは国王のもとから引き離された。


離れに隔離するとは言うものの実質の監禁状態。


セレナがどうしているかを案じて離れを管理する城の人間に聞こうにも、しかるべき対応を取っているとの一点張りで生死すらも確認できない。


まだ布にくるまれた赤ん坊の頃に見た笑顔はずっと脳裏に焼き付いている。


第一王妃が不貞を働くはずがない。


国王はセレナを自分の子だと微塵も疑わなかった。


本来なら、自分の隣に立っているはずだった。


様々な経験をさせてあげれるはずだった。


広い原っぱを年相応に駆け回らせて上げられるはずだった。


自分に向かって微笑んでくれているはずだった。


なのに自分の力及が及ばないせいで。


そうずっと心の中で懺悔していた。


その懺悔が届くことの無いことを理解していながら。


ーーー


その日から、国王は体調を崩し、政治は名実ともに第二王妃が握ることとなった。


第二王妃は今日も自分に賛同するものしかいないこの執務室で優雅にお茶を楽しむ。


「ふふ、以外にあっけなかったわね。」


彼女は嘲笑とともにそう呟く。


「ほんと、公爵家から嫁いだ私を第一王妃とするのが当然のことなのに、無能な国王があの忌々しい女を第一王妃にしたせいで無駄に労力を使わされる羽目になったわね。」


「おっしゃる通りです。」


側近の一人が媚びへつらうようにそう答える。


その男の目には出世することしか写っていない。


だが、それはつまりそれなりの報酬を用意すれば従順ということでもあり、第二王妃は彼を重用していた。


「病弱なあの女に子供なんてできっこないって思ってたのに妊娠したって聞いた時は驚いたけど、可愛そうにねぇ。


産まないほうが、子供にとっても、あの女にとってもよっぽど幸せだったでしょうに。」


口ではそういいつつも第二王妃の口は弧を描く。


「だけど、あの男があの女のことしか見ていない腑抜けなおかげで楽だったわね。


私のおかげで貴族連中をまとめ上げられていることを知らないのかしら?


自分はあくまでもあるべき流れに戻しただけよ。ふふ」


脳裏に浮かぶのは今年第一王女として各国の王族が集まる学園に入学する自分の娘の姿だ。


第二王妃はそれをまるで自分のことのように待ち遠しく思っていた。




するとそこに一報が入る。


「勇者一行が帰ってまいりました!」


「まぁ、ついにやったのね!どんなお宝を持って帰ってきたのかしら?」


第二王妃はまだ見ぬお宝に目を輝かせる。


「それが、、」


ドアが荒々しく開けられ、3人の男女が部屋に飛び込んでくる。


「第二王妃様、大変です!」


鎧を身にまとった男が入ってくるなりそう叫んだ。


その品のない行動に第二王妃は顔をしかめたが、彼らの様子から何か異変を悟ったのか問いかける。


「何があったのです?」


「勇者がやられました!」


予想だにしていなかったその報告に第二王妃は目を見開く。


「なっ、これまでの戦況を見るに勝利は確実だとのことではなかったのですか?...ひとまず順を追って説明しなさい。」


「はい、勇者が魔王と戦っていたところ、突然極大の光線が地面から現れ、魔王と勇者を消し飛ばしたそうです。


その直後に地下より黒竜と見られる強大な竜が現れたことから、その光線は黒竜の放ったブレスと思われます。


現れた黒竜は背に少女を乗せており、おそらくですがその少女が黒竜を操作していたようです。


私たちはそれを確認した後帰ってきた次第です。」


ど、どういうこと...?


あまりにも常識を逸する出来事に、第二王妃は唖然としてしまう。


それと同時に、彼女はなにか違和感を覚えた。


黒竜と少女...?


勇者と魔王の決戦の場においてはあまりにも異質な存在だ。


黒竜と言えば始まりのダンジョンに巣があるはず...まさか…


嫌な予感が頭を駆け巡る。そんなことはあり得ないと頭の中で否定しつつ、第二王妃は勇者パーティーに問いかける。


「その少女の特徴は?」


「少女ですか?...確か黒髪黒目の珍しい見た目をしていました。」


その報告に第二王妃は耳を疑った。


王族ありながら黒髪黒目の特徴をもつ異端の存在が頭に浮かぶ。


まさか、あり得ない。


セレナはもう数日前に自分が依頼した冒険者パーティーによって存在が消されているはずだった。


あのパーティーの男たちからは始末したとの報告を受けたはず。


まさか、とどめを刺さなかったってこと?


あのような下賤な輩であってもセレナを遠ざけるためだと思って依頼してやったのに。


莫大な報酬も用意してやった。


今奴らはその報酬でのこのこと贅沢を楽しんでいるのかしら?


第二王妃はそう考えては腸を煮え繰り返す。


「早急に先日依頼した彼らを呼び戻しなさい。」


そう側近に耳打ちする。




彼女はまだ背後に迫る転落の足音に気づく由もなかった。

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