6 セレナ、魔王になる
そんなこんなで私は魔王になるみたいだ。
他の階にいた魔族の人たちも続々と集まってくる。
悪魔、ドワーフ、獣人、ドレイク
ぱっと見ただけでも沢山の種族がいる。
思っていたよりも人数が大きくて、いまさらながらに気が引ける。
すると臣下筆頭であるセバスが声を上げる。
「前魔王様が勇者との戦いの最中お亡くなりになられた。
よって偉大なる黒竜様の契約者、セレナ・ファフニール様を次期魔王とすることをここに宣言する。」
その言葉と共に魔族たちがざっと跪く。
「我らの命は御身とともに」
お、重い...
こんなにもサラっと魔王になってしまったけど大丈夫なのか?
支持率とか。
「その件に関しては大丈夫です。これが魔王領の文化なので。
黒竜様と契約をなされたこともあって、セレナ様の強さは圧倒的です。それに異論を唱えるものはいないでしょう。」
またサラっと心を読まれた。
そんなに顔に出やすいかなぁ
でもそうか。
これがおかしいと思うのは私が日本から来たからであって、生まれたときからこの風潮の元で育ったのであればこれを当然と思うのが普通なのかもしれない。
しかも、よくよく考えると実力主義もなかなか合理的だ。
人間の国と違って沢山の種族、もとい考え方が存在する魔王領では強さという国を守るうえで大切になってくる一つの基準をもとにトップを決める方が混乱も少ないのかも
そう納得する。
ーーー
《セバス、上級魔族、Lv.85》
うん、なんか表示されている。
さっきからむっちゃ気になるんだけど。
魔王就任が宣言された前後で唯一の変化と言えばこれだ。
なんだこれ
ー魔王ナビゲーションシステム
無機質な声が脳裏に響く。
ー《名前、種族、レベル(max 100)》が表示されます
ーレベル:筋力、魔力などをもとに割り出される数字(一般的な人間の兵士の平均値がLv. 5)
手厚いっ
すごい、魔王になるとこんな機能が追加されるんだ。
他にはどんな機能があるんだろう。
っていうかセバス強い。
私の強さっていくつだ?
《セレナ・ファフニール、人間、測定不可》
ん?なんか見れないんだけど
自分の実力は自分が一番わかってないとか精神論を唱えられるわけじゃないよね?
黒竜も見てみる。
《黒竜、竜、測定不可》
はーん、そういうことか
規格外の存在である黒竜はもちろん、その黒竜と魔力が繋がっている私のレベルは測り切れないってことね。
でもそれがずっと視野の中にあると地味に邪魔だなぁ
日常生活ではそこまで必要ないしね。
人の名前を忘れてしまったときには便利そうだけど。
そんなことを思っていると
ー能力検知機能を非表示にしますか?
いぇす!
こう心の中で念じるとバーが消えた。
すごい、この機能便利すぎる。
ーーー
魔王機能であそんでいた私だけど、もうそろそろ現実を見ないといけない。
まずはこの穴をどうにかしなければ
でも自分は建築関係の知識が全くない。
こういう時は躊躇なくセバスを頼る。いかにも有能って感じだし。
「セバス、この穴直せる方法知ってる?」
「ええ、魔王軍ではこのような場合ゴーレムを使用します。体力の必要な土木作業において彼らに敵うものはいません。彼らに作業を任せてはいかがでしょうか?」
おぉ、建設的な案が一瞬で出てきた。さすがセバスさんである。
と、それもそうだがゴーレムという言葉に思わず心が躍る。
ゴーレム!
いかにもファンタジーって感じのロマンあふれる響き。
今まではほぼ監禁生活だったしファンタジー世界なのにファンタジーって感じがあんまりなかったんだ。そのせいか今の私はそういうモノに飢えていた。
この世界のゴーレムはどんな見た目なのだろうか?
埴輪?はたまたもっと時代を遡った土偶みたいな見た目だったりして
「じゃあ、それで!」
「かしこまりました。」
溢れる衝動のままセバスに丸投げした。いや、ワタシ、ゴーレム、ヨクワカラナイ
魔法使用歴何時間かの私に分かる事じゃないだろうし、分かる人にやってもらうのが一番だろう。トップとしては正しいことなんだろうけど元庶民としてはちょっと罪悪感を感じてしまう。
そんな私の指示を聞いてセバスが流れるように一礼をする。
彼が何か呟いたかと思うと魔法陣が広がり、瓦礫が集まっていく。
瞬く間にそこには数体の立派なゴーレムが完成していた
それらのゴーレムは体の中心に緑色に光る核を持ち、曲線を多用したデザインとなっていた。
中でも目立つのはその大きな手と、足のない代わりに浮遊している足元だろうか?
うーむ、なかなかスタイリッシュ。
そのゴーレムは驚くような速さで復旧作業を進めていく。
す、すごい
ゴーレムってなんかのろそうな感じのイメージあったけどこんなにサクサク動くんだ。
驚く私を見てセバスは説明する。
「これは素早さと行動の精密性に特化したゴーレムで、主にこういった建設業務を担当させています。用途によって能力値を振り分けているのです。」
ほぇー、そんなことができるのか
徐々に魔王軍のことも勉強していかないといけないなぁ、とか思うセレナであった。