29 収穫
ついに収穫時期だ。
一般的な野菜に比べて、この畑でとれる野菜の成長はなぜかとてつもなく速い。今回はその野菜の出来を確認することを目的に、収穫をて手伝わせてもらっている。
一つきゅうりを食べてみると、ぱきゃっというみずみずしい音をたてて割れる。
うん、美味しい。
これも村の人たちが大事におだててくれたおかげだ。
定期的な購入によって安定した生産を維持することを目的に、作物は一度国がすべて買い取ることにした。そしてそれを各地のお店に売る形だ。次回以降は、今回の作物から種を取ることで育てていく形になる。
そしてお待ちかねのサツマイモ。
掘り出してみると立派なサツマイモがゴロゴロと出てきた。
わぁ
その出来に思わず目が輝く。
「フェル、スイートポテトって作ってもらうことできる?」
そう隣で収穫を手伝ってくれていたフェルに問いかける。
「どうやって作るのでしょうか?」
フェルは興味を持ってくれたみたいだ。
ふふん、みんな私が料理できないとか思ってるでしょー
…ご名答!
うん、女子力とは無縁だからね。
なんだか自分で言ってて悲しくなってきた...
でも、スイートポテトだけは自分でも作れたのでしたー
このおかげで異世界でもスイートポテトが食べられるんだから、何が為になるか人生わからないものだね
「サツマイモを蒸して潰したものに、砂糖(はちみつ?)と牛乳を加えて焼くんだよ。
私の一番の好物なんだぁ」
私はそう答える
「それなら可能だと思いますよ。城に戻ったら作ってみますね」
「本当に!?」
収穫を手伝う私の手にも自然と力が入る。
ーーー
王城に戻って暫くすると辺りに甘い匂いが立ち込め始めた。
こ、この匂いは!
私はすぐさまキッチンへ直行する。
するとそこではフェルがせかせかとスイートポテトを焼き上げていた。驚くべきはその量だ。スイートポテトがお城の巨大なダイニングテーブルを埋め尽くしている。
「ど、どうしたのこの量?」
「今年収穫されたサツマイモをすべて使いました。セレナ様の好物だということで張り切って作りましたよ!お好きなだけお食べください!」
「あ、ありがとう!凄い嬉しいよ!」
...とは言ったもののさすがにこの量は食べきれないかも
どうしよう、冷凍するのも手だけど
...そうだ。収穫祭と称して城下町で配ったらどうだろうか?
ぱっと見城下町の人全員に配れるぐらいの量はある。
もしそれでスイートポテトが気に入られて、流行にでもなったら沢山のスイートポテト専門店が城下町にできるはずだ。そしたらスイートポテト食べ比べなんかも夢じゃないのかもしれない。
うはうはだぁ
我ながらナイスアイデア。
それをフェルに話すと
「もちろんですとも。自分の好物を他人に分け与えるなんてほんとセレナ様はお優しいのですね。」
そう快く了承してくれた。
うん、海老で鯛を釣る方式でスイートポテトパラダイスを目指してるなんて言えるはずもない。
フェルの了承を得れたなら早速自分の分は残しておいて、その他のスイートポテトを籠に詰める。
できるならアツアツの状態で食べさせてあげたいしね。
そうして私は外に出て、メイドたちと手分けして配る。
町の人たちの反応は上々のようだ。
自分の好物が受け入れられていく様子はなかなかに心地良い。
ーーー
ふぅ、一時間ほどかけてようやく配り終えた。
それではお待ちかねのスイートポテトタイムだ!
そう心を躍らせながら私はキッチンに戻る。
...あれ?テーブルの上に置いてあったスイートポテトが無い。
うん、なんだかこの後の流れがすでに読めてる自分がいる。
ま、まあまだ彼が犯人だとは決まったわけじゃないしね?
偶然近くにいたクロムに聞いてみる。
「ねぇ、ここにスイートポテト置いてなかった?」
『あぁ、あの黄金色のお菓子?美味しかったよぉ
あの自然な甘さがまた溜まらなくてさぁ』
うん、彼を信じた私が馬鹿だった。
なにやってくれとんじゃぁぁい
私、すごい楽しみにしてたのに!
もう今回の収穫分のサツマイモはフェルが全部使ってしまった。
食べ物の恨みは怖いんだぞ
「暫くフェルに言いつけてお菓子なしにしてもらうからね」
『そんなっ!この前のお菓子禁止令がやっと解除されたばっかなのにぃ~』
次の日
「女の子って怖いね...」と言いながら、少し形が歪んだスイートポテトもどき(ジャガイモ製/自作)を少女に差し出す黒竜が居たとか居なかったとか...