25 セレナ、ハイエルフと邂逅する2
一通り建て終わると、ハイエルフの皆さんは各自割り当てられた家に分かれていく。
ハイエルフという神格化された種族の人たちに、こんな家で良かったのだろうかとか思ったが、リューリエさんによると森では木を簡単に組んだだけの家に住んでいたとのこと
さすが自然とともに生きる種族と称されるだけあるなぁ
リューリエさんによると今回村に来たのは調査も兼ねた一部のハイエルフで、少しづつ他のハイエルフも森から呼んでくるそうだ。
その後、おじじの提案でハイエルフの皆さんを王城に招くこととなった。
確かにハイポーションをあんなにもらった恩もあるので、ちゃんと歓迎したい。
さすがに馬車に全員が乗ることはできないので、歩いて向かう。
だけどみんなの気遣いによって私とティアーナちゃんは一緒に馬車に乗ることとなった。
見た目幼女同士、仲良くできるって思われてるのかな?
フェルもお世話役として同乗する。
「そ、そのありがとうございます」
馬車にのって暫くしてティアーナちゃんがそう口をひらく。
「全然大丈夫だよ?
ティアーナちゃんでよかったかな?」
「...ティアと呼んでください。お兄様とか...親しい人は私をそう呼びます。」
今にも消え入りそうな声だが、ティア呼びを許してくれたということは少しづつ心を開いてきてくれているのではないだろうか?
私自身、前世ではコミュ障を演じていたので、この手の対応はなかなか得意だったりする。
向こうのタイミングに合わせ、相手の話しやすい話題を振ってあげるのが定石だ。
「エルフの森ってどんな場所なの?」
「エルフの里はですね、精霊たちのあふれるとても豊かな森なんです。空気は綺麗で、水も透き通っています。」
そう、嬉しそうに話してくれる。
この話題を選んで正解だったみたいだ。
それにしても、ハイエルフの森かぁ
さぞかし綺麗なんだろうなぁ
「そういえばなんでティアちゃんは今回の遠征に参加したの?」
ふと気になったので聞いてみる。
今回の遠征に来たのは一部のハイエルフだけで、ティアちゃんが無理に来る必要は無かったはずだ
「私がお兄様にお願いしたんです。外の世界を見てみたいと。
これまで外のことはお兄様か本伝いでしか情報が得られなかったこともあって、ずっとこの目で見てみたいと思っていたのです。」
そうなんだ。
ティアちゃんってすごくお嬢様らしいけど、結構アグレッシブな一面もあるんだね。
そうこう話している内に、あっという間に王城についたみたいだった。
一足先に帰っていたフェルが、すでに会食の準備をしていてくれた。
みんなが気兼ねなく楽しめるように立食パーティーの形式が取られている。
私は自然とティアちゃんと二人で回ることになったのだが...
うん、リューリエさんずっと私たちのことつけてるよね?
大方初めて森の外に出た妹のことが心配なのだろうけど、柱の後ろに隠れながらとかちょっとべた過ぎない?
ティアちゃんにはばれてないみたいだけど、フェルの目がちょっと冷たい。
きっと、妹さんのことが心配なだけだからね?ほっといてあげよう、ね?
でもこの様子を見るにリューリエさん、重度のシスコンなんだろうなぁ
するとパーティーに来ていたらしいクロムが、私をに気が付いて近寄ってきた。
『セレナ!これ見てよ!』
私の前に来るなり、そう言って差し出してきたのは薄くスライスしたじゃがいもを揚げたもの
そう、ポテトチップスだ。
「え、これどうしたの?」
『ふふん、セレナがこの前話してたぽてちとかいう料理を今日一日かけて再現してみたんだ!
どう?これはジャガイモからできているし、もうお菓子じゃないでしょ?』
な、なんて馬鹿なことを今日一日かけてしていたんだ
そしてお菓子への執着が凄すぎる
「うーん、でもポテチってお菓子売り場に売ってたしなぁ...」
『そ、そんなっ!』
クロムは一瞬にして絶望的な顔つきになる。
『セレナの許可がないとフェルは一口も食べさせてくれないんだよぉ~
頼むよぉ。
だってこれジャガイモからできてるんだよ?あのじゃがいもだよ???』
そんな泣きつかれても...
隣にいるティアちゃんもドン引きしちゃうよ
『...ん?』
すると少し冷静になったのか、クロムも隣にいたティアちゃんに気づいたみたいだ
っていうか今まで気づかないなんてどれだけお菓子に執着してるのだか...
クロムは一連の出来事が無かったかのように、服を正してティアに向き合う。
『おっほん。
初めまして、僕はクロムと言います。
その綺麗な顔立ちと耳はハイエルフかな?』
ちゃんと挨拶できる竜、クロム。
...いや、もう第一印象を持ち返すのは無理でしょ。
そして何そのキザキャラ
そんなんじゃティアちゃんも...
「は、はいっ。そうです。
ティアと申します。よろしくお願いします!」
あれ...?
なんかうまいこといってない?
少し顔を赤らめる様子はまさに恋する乙女といった様子だ。
え、信じられない
あのポテチをご飯判定してと泣きつくような竜だよ?
も、もしかしてあまり男の人と会ったことがない?
はっ、そういえば馬車の中で今回森の外に出るのが初めてとかいってた
確かに人型のクロムははたから見れば顔立ちも悪くはないけど...
...いやいや。
まだそうと決まった訳ではない。
早とちりしすぎてしまったな。
そんなことを考えている内にクロムは
『じゃあご飯判定してくれたってことで!』
そう駆けていってしまった。
ふぅ
「あの、ティアちゃん?」
「ク、クロム様...」
あ、手遅れだこれ
ごめん、リューリエさん
ーーー
「クロム様はどのような方なのでしょうか?
なんだか、あの方を見ていると胸が苦しくて...
これが恋...とかいうものですか?」
おっとストップ、ストップ!
そのピュアさに浄化されそうだ。
そして後ろからはドンガラガッシャーンと何かが転ぶような音がした。
「その...クロムは強いんだけど、どこか子供っぽくて、ポテチをご飯判定してと泣きつくような馬鹿で、調子乗りで...うん。そんな人だよ。」
「そうなんですね...
ボソッ...それも素敵かも。」
その後もティアはクロムのことを目で追ってばかりだ。
「お兄様に確かこのような場合に婚約を申し込むと聞いたような...」
「ちょ、ちょっと待ってて」
私は急いでそれを静止し、一度クロムの場所へ急ぐ。
クロムは部屋の隅っこでポテチを貪っていた。
『セレナぁ、さっきからなんか凄い視線を感じるんだけど。
これじゃあせっかく作ったぽてちの味に集中できないんだけど』
「いや、その実はティアちゃんがクロムに一目ぼれしたらしくて...」
『僕に一目ぼれ?
まぁ、この最強である僕に一目ぼれするのは仕方のないことだけどね?』
...
「実際クロムはどうなの?
ティアに向かってかっこつけてたみたいだけど」
『うーん、彼女あの感じだとまだ数百歳でしょ?
ちょっと若すぎるよぉ』
数百歳で若いって...まぁ数百万歳のクロムからすればそうなんだろうさぁ
「それならクロム何とかしてよ。」
『そういえば、彼女まだ僕の正体知らないんでしょ?
僕の本当の姿を見たら熱も冷めちゃうんじゃないかな?』
ーーー
「ここは、闘技場?」
私はティアちゃんを連れて闘技場に来ていた。
さすがにお城の中でクロムが竜の姿になると、建物が崩壊してしまう。
私とティアちゃんが闘技場に入ったところで、クロムが変身する。
そういった手はずだ。
「クロム様はどこでしょうか?」
ティアちゃんは今もそう呟いている。
今、お姉さんが悪い夢から覚ましてあげるからね!
私とティアちゃんが闘技場の観客席に入る。
するとフィールドにいたクロムが声を上げる。
『おーい、二人とも!
こっち、こっちー』
「クロム様っ!」
ティアちゃんが素早く反応する。
『それじゃあ、いくよぉー
「変身!」』
クロムはその正体を見せる。
ごぉぉぉぉぉぉぉ
そしてその咆哮は辺りに暴風を巻き起こした。
私はその風の中、ティアちゃんの様子を確認する。
するとティアちゃんは驚きから目を見開いてまっすぐに見つめていた。
よく見ると彼女の体は小刻みに震えている。
「大丈夫?」
思わず心配になってティアちゃんに声を掛ける。
言葉をかけつつティアちゃんに近づくと彼女が小さく何かをつぶやく声が聞こえた。
「こ、この胸の高鳴りは...やっぱり」
あ...これはまずい
そこに人間の姿に戻ったクロムが帰ってきた。
すると
「クロム様!私と婚約してくださいませ!」
そうクロムが合流するなり、ティアちゃんがクロムに突撃する
...がクロムにひょいと躱される
『え...これはどういうこと?』
クロムは面をくらったような表情をして、私に答えを求める
本来の姿を見せるのは逆効果みたいだったね。
多分だけど吊橋効果か何かで恐怖のドキドキを恋だと誤解してるっぽい。
クロム、ラノベの男主人公みたいなことになってんな…
その後も定期的に行われる求婚と突撃に頭を悩ませることになるクロムであった。




