24 セレナ、ハイエルフと邂逅する1
農村地ではすくすく野菜が育っていた。
まだ数週間しかたっていないのにも関わらず、もう実をつけそうなものまである。
恐るべしチートスキル。
「は、ハイエルフの方々が来られています!」
今日の朝、私はそんな報告を村長から受け農村地まで赴いていた。
クロムは前回のお菓子抜き宣言を受けて、なにやらギリギリお菓子判定にならない食べ物を作るのに忙しそうだったので置いてきた。
ということで今日はコクリュウブラックの馬車を使用。
おじじによるとハイエルフはその端麗な容姿と他種族を受け入れないことで有名らしく、西にある秘境に暮らしているという。
そんな人たちが村に何の用だろうか?
村に行ってみると5-6人の旅人らしき集団があり、先に村へ戻っていた村長が対応していた。
村長も変わったなぁ
一生懸命に対応している様子を見てつくづく思う
最近ではセバスやフェルからも高評価を受けるようになった。
「あ、魔王様こちらです。」
そう村長に呼ばれて、その集団に近づくと一人の女性?が前に出てしゃがみ込む。
まず目に入ったのはその整った顔立ちだ。
その特徴的な長い耳も魅惑的な印象を与えている。
...き、綺麗だ
「初めまして。私はハイエルフのリューリエと申します。族長の息子という立場からこの団のリーダーを仰せつかっています。以後お見知りおきを。」
そういって私の手をとり、口づけをする。
...え?
「セレナ様?」
...はっ
そんなフェルの呼びかけで目が覚めた。
私は慌てて挨拶を返す。
「今代の魔王に就任しました、セレナ・ファフニールですわ。」
私はちょこんとスカートの裾を持ち上げる。
これはおじじの奥様によって叩き込まれた所作の一つだ。
私が前世での感覚のままにドレスを翻して廊下を歩いていると、ちょうど通りかかったらしいおじじの奥様にドン引きされたのだ。
そんなにドン引きしなくても...とか思わないでも無かったが
その時はおじじの奥様だと知らないまま歩き方の指導を受けていたのだが、後におじじが合流したことでその事実が明らかとなった。
彼女はおじじと同じ悪魔族らしいが、角などはないため外見は人間とほぼ違いはない。
白髪を綺麗にお団子にまとめ、シックで上品なドレスに身を包んでいる。
背筋はシャキッと伸びていて、まさに貴婦人と言った言葉を体現したような女性だ
確かに厳格な雰囲気と言いおじじに似ている。
おじじの奥様ということで、おばば様なんつってー
...あ、冗談です。はい。
名前はジスレーヌとの事でしたので、親しみを込めてジス様と呼ばせていただいてます
でも、こんな歳の取り方をしたいなーってつくづく思う。
そんなこんなで、その日からジス様による熟女教育が始まった。
その教育は歩き方からテーブルマナーまで多岐にわたった。
その教育方針はなかなかのスパルタで途中フェルに目線で助けを求めたが、申し訳なさそうに目線を外された
あとで話を聞くと、フェルも王城に召された際にお世話になったらしく、口を出せないとのことだった。
そして今日はその練習の成果を披露する初めての機会だったのだが...
動揺してぎこちなくなってしまった。
いや、これはしょうが無いと思う
あんな綺麗な人にいきなり手にキスされたら誰だって戸惑うでしょ
...ん?リューリエさんって女性であってるよね?
でも手の甲に口づけをするって確か女性への敬愛の印とかじゃなかったっけ...?
「あの、つかぬことをお聞きしますが、リューリエさんって女性...であってますか?」
「え?」
その質問に対しリューリエさんは困惑したような表情を浮かべた。
辺りに沈黙が流れる。
や、やばいどうしよう
ここにきて、沈黙を過剰に怖がる陰キャの特性が発動。
それを救ってくれたのは、幼い声だった。
「...お兄様?
お兄様は女性に間違えられやすい外見をしているのですから、ちゃんと自己紹介して差し上げては?」
え...?
その女の子はみんなの視線に気が付いたのか、恥ずかしそうにリューリエさんの後ろに隠れる。
「はは、これは失礼しました。私は男ですよ。よく間違えられるんです。
そして彼女は妹のティアーナ。ハイエルフの中ではセレナ様と同じぐらいの年頃です。
ほら挨拶して?」
「ティ、ティアーナです。
...よ、よろしくお願いします」
さっきの言葉遣いからして、人見知りといったところだろうか?
ハイエルフというだけあって人形のような見た目をしている。
目は青色で、髪はピンク色だ。
日本ではまずない色合いだが、この世界にきて慣れてしまった。
「よろしくね」
もしかしたら生きている年数的には彼女のほうが上かもしれないが、見た目的には私のほうが年上なのでお姉ちゃんムーブをかまさせてもらう。
っていうかリューリエさん男性だったんだ...
ーーー
「ところで今日はどうしてここに?」
ひと段落したところで、私はそう本題を切り出す。
するとリューリエさんが困ったように答えた。
「実は私達、普段は森の中で薬草などを育てて暮らしているのですが、近頃なぜか不作が続いているのです。
そしてどうしたものかと頭を悩ませていると、精霊たちがこっちに良い畑があると教えてくれまして...」
「え、精霊?」
「はい。ハイエルフは精霊と共に生きる種族でして。
精霊は自然の豊かな場所を好みます。
この辺りの畑には精霊があふれていて、一目で良い畑だと分かりました。
聞いたところによるとセレナ様が畑を整備されたとか」
ふむ、良い畑を求めてここまで来たと。
全然住んででくれる分には構わないんだけど...
MPには余裕があるから畑の増設も可能だ。
「勿論、私達からも住まわせていただくにあたってハイポーションなどを提供させていただきます。
私たちハイエルフは薬草からハイポーションを作るのを得意としているのですよ。」
「ハイポーション?」
そんな私の問いかけに対しおじじが補足してくれる。
「ハイポーションは飲んだりかけたりするだけで治癒などの効果が得られる液体の事です。
光の魔法を使えるものが少ないこの魔王領では、とても貴重なものなのとされています。
ですが市場に出回ることはほとんどなく、その存在自体が伝説とされているのですが、まさかハイエルフが作っていただなんて...」
ふむ、相当高価なものだということは分かった。
すると
「これはほんの気持ちです。受け取ってください。」
そう言って二つの大きな木箱が渡される。
蓋を開けると中には瓶に詰められたハイポーションなるものがぎっしりと詰まっていた。
おじじの話からするにこれはとてつもない状態なのではないだろうか?
私の疑問を肯定するように、隣でおじじは見たこともないほど目を丸くしていた。
よし、これでやることは決まったみたいだ。
私は家と畑を量産する。
どんどん畑や家ができていく様子は、ハイエルフの皆さんにも新鮮に映ったようで口をあんぐりさせて見ていた。




