19 セレナ、娯楽施設を建設する1
魔王領には娯楽施設がない。
戦いを第一とする風潮の上では仕方がないのかもしれないが、日本出身の私からすればいかんせん物足りない。
でも、私が今実現可能なものは限られている。
何かないかなぁー
そんなことを考えていると、おじじが声をかけてくれる。
「なにかお悩みですか?」
「うん、何かみんなが楽しめる施設とかイベントとかないかなぁーって」
おじじは少し悩むようなそぶりを見せるが、すぐに何か心当たりがあったのか
「参考程度にですが、確か南にあるケンタウロスの集落ではその走る速さを競うイベントのようなものがあったと聞きいたことがあります。」
そう教えてくれる。
競馬か!
ん?なんかちょっと語弊があるような気もするけど、競馬か。
確かにそれだと道を整備するだけでいける。
ケンタウロスが全力で走っている姿はさぞかし迫力があることだろう。
あれ、でもこれを賭け事にするとなると話が変わってくる。
賭け事において重要なのは公平性だ。
ケンタウロスだと、忖度などが行われてしまう可能性もある。
うん、普通に馬でやることにする。
それにお祭りってことにすると出店とかで賑わうかもしれない。
賭け事に関する説明をセバスに。
自分もよく分かっていないので表面的なことしか説明できなかったが、セバスは理解してくれたようだった。
コースは外壁に沿うように整備された道を一周。
一週間に一回行う予定だ。
私は早速建設予定地に赴き、掛けや払い戻しなどを行う家(大)を設置する。
それに馬用の家も用意する。
荒事なども少なからず発生するかもしれないので、この施設はしっかりとそこらへんも管理してくれる人に任せたい。
そんなことを考えているとおじじがある人物を連れてきてくれる。
「彼に任せてはいかがでしょうか?」
仕事が早い。
「初めまして。ダークエルフのグッチと申します。」
華麗にに一礼をきめる。
ダークエルフというだけあって、やはり一番最初に目に留まるのはその長い耳と褐色の肌だ。
体は引き締まっていて、スーツに身を包んでいる。
いかにも支配人っていう感じ。
サングラスを掛けさせたい。
私の中ではすでに彼の支配人としてのイメージが固まってしまったが、セバスが推薦してくれたっていうことはきっと其の他の面においても優れているのだろう。
私は素直に彼に任せることにする。
さて、これから馬選びに入っていきたいと思う。
馬は魔王領でも運送などによく使われる。
そんなこともあり、自分の自慢の馬を持っている人も多い。
なので、出場者を募る。
一応各レースの優勝者などには賞金などを考え中だ。
そのこともあってか、すぐに沢山の出場者が集まった。
登録に皆自分の馬を連れてきているが、どれも愛情をこめて育てられているのがわかる。
うーん、考えてみると日本にいたときもこれほど近くで馬を見たことは無いなぁ。
なかなか可愛い見た目をしている。
なんだか自分も自分の馬を持ってみたくなってしまった。
「どうされましたか?」
おじじが私の異変に気付いてかすぐに声をかけてくれる。
「いや、私も自分の馬を持ってみたいなぁとか思って。」
「それでしたら、王城に何頭かいますよ。
見に行かれますか?」
私はその言葉に目を輝かせ、即答する
「行きたい!」
魔王城の裏に獣舎があって、そこでは丁寧に手入れをされた馬が数頭生活していた。
がたいが良かったり、真っ白な色をしていたりと色んな馬がいる。
それらの馬が獣舎に隣接された放牧地の中を走り回っていた。
のどかだなぁ
魔王城の裏にこんな場所があっただなんて
ぼんやりと放牧場を見渡していると、ふと私は一頭気になる馬を見つけた。
真っ黒な馬だ。
毛並みは整っていて、シュッとした顔立ちをしている。
優雅にかけるその姿に私の目は自然と引き付けられた。
すると馬の世話をしてくれているというおじさんが声を掛けてくれる。
「あの黒い馬が気になるのですか?」
「うん」
「なかなかお目が高いですなぁ。あの馬は足の速いことで有名な種類ですよ。ぜひ、その子と新しく始まるというイベントに参加なされてはいかがかな?」
「い、いいんですか?」
「いいもなにも、ここにいるのは嬢ちゃんたちの馬だろうに。俺は世話をまかされているだけに過ぎないよ。」
そういうことなら、お言葉に甘えさせてもらおうかな?
レースに出場するとなると、乗馬の練習とか登録とかいろいろやらないといけないこともあるだろうけど、そういうことはいったん頭の片隅に放っておく。
まず決めるべきは名前
うん、やっぱりレースに出るにはかっこいい名前が必要だよね?
名前を付けることで愛着も沸くだろうし。
うーん
確か競走馬の名前ってカタカナだったよね?
やっぱりこの馬の特徴と言えば黒の毛並みで...
...はっ
コクリュウブラックとかどうだろう?
我ながら良いセンスをしていると思うのだが。
なんだか隣で「これがこくりゅう?」とか言いながらクロムが苦い顔をしているけど。
よし、これで私も馬主でびゅーだ!




