17 セレナ、プレゼントを買いに行く2
目指すは鍛冶屋の多いエリアだ。
エリア別に期間が集中したりしていて、それにあった街道の名前が浸透していたりする。
ちなみに、城の正面にまっすぐ続くこの道は聖女街道とかいうよくわからない名前がついている。
魔王領にも聖女なる人が存在したのだろうか?
そんなことを考えながら鍛冶屋に向かって歩いていると
「おう、みつけたぜ」
不意に人が前に進み出てくる。
ん?誰だ?
盗賊のような恰好をした男3人組
なんか見たことがあるような気が...
「本当に魔王になっていたとは驚きだ。
あの後どうやって生き延びたんだ?
でも、そのせいで俺らはまた駆り出される始末。
おとなしくこっちに来な。」
リーダー格の男はそんなことを話し出す。
...あ、思い出した。
こいつら、私を誘拐した奴らか!
道理で見覚えがあると思った。
「セレナ様、お知り合いですか?」
そうおじじが確認してくる。
「ううん、人間の国にいた時に私を誘拐した人たちだよ」
「誘拐した...?」
おじじがそう呟きながら怪訝な顔をする。
『セバス、僕がやってもいいかな?』
状況を把握したのか、後ろで物騒な話が聞こえる。
「いや、クロム様が戦いになられるとセレナ様が一生懸命に整備したこの街が半壊しかねない。
彼等程度、私一人で十分です。」
そんな会話がなされたかと思うとおじじが前に出る。
強者感が半端ない。
なんかゴゴゴゴって感じのオーラを背負ってそう。
「やるのか?
言っとくけど、俺らはファフニール王国でも指折りの高ランクパーティーなんだぜ?
テメェみたいな年寄りに俺の相手が務まるのか?」
男はそう挑発する。
「なめられたものですな。」
そう聞こえたかと思うと、おじじの姿が消えた。
そんでもって目の前にいた男が殴り飛ばされる。
...え?
は、早すぎない?
一応私のステータスはクロムと契約したおかげで底上げされているはずだけど、それでも追いきれない。
私が感嘆しているのもつかの間、残りの二人も突き飛ばされていた。
セバスが残像とともに私の前に戻ってくる。
「ふぅ、お目汚し失礼いたしました。」
「う、うん、大丈夫だよー。助けてくれてありがとう」
私は苦笑いを浮かべたまま、セバスにそう礼を言った。
おじじが敵じゃなくて良かったとつくづく思う。
そうこうしているうちに私たちは鍛冶屋につく。
「おう、どうしたんでい?」
そうドワーフのおっちゃんが出迎えてくれる。
「今日は髪留めをお願いしたくて。」
「カミドメ?なんだそりゃ。」
その反応からするに髪留めは普及していないみたいだ。
「うん、構造としては...」
私はそう説明していく。
髪を留める部分はピンのようなシンプルな造り。
先端には風の魔石を削ってつくった花をつけるつもりだ。
「ほう、なかなか興味深いな。知り合いの宝石職人と協力して作ってみるよ。」
「ありがとう!」
完成が楽しみだ。
ーーー
後日、完成品が届いた。
箱を開けると、まず目に入るのはフェルの若草色の瞳をイメージして作ってもらった緑色の魔石だ。
綺麗な花の形になっていて、光が当たるたびにきらきらと反射する。
か、かわいい。
そしてピンの部分も私のイメージを忠実に再現してくれている。
細かい作業が必要なので難しいかと思ったが、見た目は日本で見たことのあるそれだ。
私は早速、それをフェルに渡す。
「フェル、いつもありがとう!」
「これは...?」
私が感謝の言葉とともに箱を差し出すとフェルは心底驚いたような表情を見せる。
「髪飾りだよー。前髪につけるの!」
「わ、私に?」
「うん、フェルのことを思ってデザインしたんだ!」
フェルは私の言葉を聞くと、とても嬉しそうに髪留めと手に取って早速髪につけてくれる。
「あ、ありがとうございます!とっても嬉しいです!」
それからのフェルの喜びようはすごいもので、いろんなところに私からの贈り物を自慢して回ったらしく。
そのせいか、しばらくの間、魔王領では臣下思いの魔王の話とともに髪飾りが流行る事になるのであった。