16 セレナ、プレゼントを買いに行く1
魔王になってから政務やらなんやらで毎日が忙しい。
やらないといけないことがいくらでもある。
一応、万能おじじことセバスが大半の書類を恐ろしい速度で処理していってくれるから過労で死ぬ、というほどの忙しさではない。
国のトップの承認が必要な案件とかは全部私のほうに来るから辛いことに変わりはないけどね。
そんな中ふと思う。
魔王領では何かお祝い事とかはあったりするのだろうか?
うーん、明らかに積み上がる書類からの現実逃避的な思考だってことはわかってるんだけど、そろそろ、休憩が欲しい。
なんせ、寝るとき以外はこの執務室から出た時なんて数えるくらいしかない。
その数回もトイレに行っただとか夕飯をとったとかの生活に最低限必要なもの。
そう、今私は娯楽に飢えていた。
とりあえず隣にいたフェルに問いかけてみる。
「魔王領ではなにかを祝ったりする習慣とかあるの?誕生日とかさ。」
クリスマスとかの宗教がらみの祝い事は国によって変わったりするっていうけど、やっぱり誕生日はメジャーなのではないだろうか。
「誕生日、ですか。祝う習慣はありますが、国民全員が必ず祝うというわけではありません。祝うほどの生活的余裕がない国民も居ますので。」
フェルがそう答える。
うっわぁ…魔族領の負の側面だぁ…
明らかに戦争の影響ですね分かります。
国民の生活と職業手配関連の改善が必要だとおじじに後で相談しておこう。
まぁ今はそれは置いておくとして、内容が気になるな。
誕生日の祝い方にも国ごとの特色は存在するっていうのは前世でもそうだったし、ここではどういう扱いなのかを知りたい。
バイオレンスなのだったらちょっと嫌だけど、この国の強者優遇みたいな国風的にはあり得なくもないところが怖い。
まぁ考えても仕方がない、引き続きフェルに聞いてみようか。
「そうなんだ。魔王領では誕生日をどういう感じに祝ってるの?」
「そうですね...種族によっても変わったりしますがプレゼントやご馳走を用意するのが一般的なのでは無いでしょうか?」
ふむ。そこら辺に関しては日本とあまり変わりはないようだ。
バイオレンス云々は杞憂だったようで安心である。
と、誕生日の話をしているうちに気づく。
私、フェルの誕生日知らないじゃん。
仕えてくれてる人の中でもフェルは特に熱心な従者だ。
そんな相手の誕生日を知らないままスルーしてしまうことは避けたい。
祝い事は多い方が楽しいってのもあるけど。
そんな思いから私はフェルに疑問を投げかける。
「フェルの誕生日はいつなの?」
私がそう聞くとフェルが思っても似なかったというような顔をした後、少し寂しそうに答えた。
「実は私自分の誕生日が分からなくて...」
なんだって
一大事ではないか。
ーーー
私はセレナが離れたのを見計らってセバスとクロムを緊急招集する。
「どうされたのですか?」
執務室にやってくるなりセバスがそう尋ねてくる。
「実はフェル、誕生日を祝ってもらったことがないらしい」
私が深刻そうな顔つきでそう話し出すと、セバスは少し驚いたような顔をするがすぐに平然を取り戻して続ける。
「確かに魔王領ではそのような者も少なくは無いです。」
そうなのか...
でも日本で毎年誕生日を祝ってもらっていた私にとって、それはちょっと寂しい。
いつもお世話になっているものとしてなにかしてあげられないだろうか?
そう、うんうんうなっているのを見かねてか
「なにか贈り物をしては?」
そうセバスが提案してくれる。
贈り物かぁー
うん、確かにそれが良いのかもしれない。
最近魔王領にも生活水準が上がったことでいろんなお店が増えてきている。
それらの店を探せば、フェルに何か良いものを買ってあげられるんじゃなかろうか?
思い立ったらすぐ行動!
さっそく二人に聞いてみる。
「明日買い物に行きたいんだけど、二人共ついてきてくれない?」
「かしこまりました。」
『買い物ぉ~?楽しそうだしいいよぉー』
よかった。
「ちなみにセバスは誕生日を祝ってもらったことはあるの?」
「はい、妻と子供達から毎年祝ってもらっていますのでご安心を。」
おお...セバス家庭持ちだったのか
うん、でもセバスなら凄く良い家庭を築いてそう。
それなら安心だね。
まぁいつもお世話になってるわけだし、その日になれば贈り物はするけど。
と、そんな覚悟はさておいて、まずフェルに何を買うかを決めようか。
やっぱり女性ならアクセサリー類が王道かなぁ。
でもフェルはお仕事柄普段あまりおしゃれをしていない。
好みとかもあるだろうし、送るなら何か仕事の邪魔にならないものがいいな。
うーん、髪留めとかはどうだろう?
でも、おじじに見せられた領内の店のリストを確認したところ、魔王領でアクセサリーはあまり発展していないようだ。
これはオーダーメイドしてもらった方がいいかも。
よし、明日ちょっと鍛冶屋に行って相談してみよう。
『ねーー僕長いこと誕生日祝ってもらってないんだけどぉー』
私が何を渡すか考えを巡らせていると、暫くの間静かにしていたクロムがそう言い出す。
「はいはい、また今度ね」
『なんか僕の扱い雑じゃない?』
気のせいじゃないかなー
「ちなみに、明日の外出はどのようにフェルに伝えるおつもりで?彼女は貴方様付きの従者。出かけるのに連れて行かないとなれば怪しまれてしまうと愚考しますが。」
あ、確かに。何も考えていなかった。
うーん
でも一応方法がないわけではない。
「それは私に任せて!」
そう私は宣言する。
そんなの私の演技スキルに掛かれば余裕よ
...とか思ってた昨日の自分が恥ずかしい。
「ふぇ、フェル?」
「どういたしましたか?」
「ちょっと、おでかけしたいなぁ~って」
やばい、どうしても白々しくなってしまう。
目は泳ぐし言葉も詰まる。
...絶望的だ。
「なら、準備いたしましょう。」
「い、いや、その...」
や、やばい
昨日あんな自信満々に宣言した手前、失敗したら絶対クロムにいじられる
それもあいつのことだから、生涯ねちねちと絡んでくることだろう
そ、そんなのってないy…
バンッ
「メイド長、料理長がお呼びです。」
不意にドアが開かれるとともにそんな声が響く
見るとメイドが一人部屋の入口に立っていた。
私の視線に気づいたのか、メイドはこっちを一瞥するとウィンクを返してくれる
はっそうか、私の意図を組んでフェルを呼びに来てくれたのか!
ナイスプレー!!
心の中でゴールデングラブ賞授与式を行う。
「ん?なにかあったのでしょうか?
セレナ様、少し離れます。」
フェルはそう言って部屋をはなれる。
「いってらっしゃぁい」
よし、こうなると話は早い。
すたこらさっさ
私はこの隙に玄関へ移動する。
...ん、待てよ
あのメイドは外で待機してくれていたはず。
私の演技は声だけで嘘つこうとしてるのが分かるぐらい白々しかったってことか...?
い、いや今は目の前のことに集中しよう。
玄関では二人がもう待ってくれていた。
『遅いよぉ。フェルは撒けたの?正直そこまで期待してなかったけど』
「で、できたし!!ほら、さっさと行くよ!」
『ふーん』
な、なにその目は?
「そ、それより早くいこう!」
私は二人を連れて街に繰り出した。




