11 セレナ、魔法使いデビューを果たす
魔王城二日目。
フェルによって身だしなみが一通り整えられると、私は隣の部屋に住んでいるという黒竜の部屋に直行する。
「ねー私に魔法教えて!」
部屋の前に着くと同時にそう扉に向けて話しかける。
昨日は色々ありすぎて、結局私の魔法の適性は分からずじまいだったのを今朝ふと思い出したのだ。
一旦思い出してしまうと魔法のことで頭がいっぱいになって、待ちきれない。
魔法を使うのが楽しみすぎて体がうずいてしまう。
それでもさすがに押しかけるのは迷惑だったかなとか考えていると
『いいよぉ』
そんなのんびりとした声とともに黒竜が出てくるので安心した。
ーーー
そんなこんなで黒竜と一緒に敷地内にあるという闘技場に向かう。
道中私はずっと気になっていたことを聞いてみた。
「ねー私ずっと黒竜って読んでるけど個人の名前とかないの?」
何気なしにこれまで私は黒竜って呼んでたけど、それってよくよく考えてみると私が日本人って呼ばれるのと同じことなのだ。
それはなかなか失礼だろうし、地味に言いにくい。
すると黒竜がのんびりとした口調で答える。
『まー僕は唯一無二の存在だからね。黒竜というのが種族の名前でもあるし、僕個人を指している言葉でもある。だからそこまで気にしないかなぁ。
でもセレナが気になるんだったら何か名前つけてよ。』
ふむ。そんな感覚なのか。
確かに、名前は他人とを区別するものであってそれが自分だけの相称であればそこまで気にならないのかもしれない。
そんでもって名づけの件だけど、そんないきなり聞かれてもなぁ
この世界での名前の傾向が分からないし、黒竜とかいう伝説級の存在に名前をつけるっていうのも少し躊躇してしまう。
なんかもう威厳とか消え失せてるような気もするけど。
そして、頭に浮かぶのはよくあるペットの名前ばかり。
「クロ、、とか?」
『簡単すぎない?犬じゃないんだから』
ですよねー
ちょっと安直すぎたか。
「じゃあ、クロムとかどう?ㇺをつけて」
『ちょっと軽率過ぎない...って言いたいところだけどクロムってなかなかかっこいい響きだね。
かっこいいボクにはピッタリだ。』
ちょっと何を言っているのかよくわからないけど、気に入ってくれて何よりだ。
こんなにぱっと決めていいものなのかと思うが、本人が気に入ってくれているんだったらそれでいい。
そうこうしているうちに闘技場に着いた。
闘技場はコロッセオのような建物で、円形のグラウンドの周りに観客席がある。
高い戦闘力を有した歴代の魔王たちはよくこの闘技場を訪れていたみたいで、度々闘技大会などがここで催されていたらしい。
フェルによると周りには厳重な結界が張られているみたいなのでどのような戦闘を行っても安心だ。
「じゃあ、クロムさっそく私の適性を教えて!」
さっそく私がクロムに声を掛ける。
『もちろんだよ。』
初めて名前を呼ばれたのが嬉しかったのかクロムは上機嫌にこたえる。
『まず、魔法は火、水、風、土、雷に加えて光、闇の7つの種類に分けられる。
そして適性があればその種類の魔法を扱いやすくなる。
一人に一つとは限らないけどね。
人間の国では教会っていうところで一定以上の年齢になったら適性を教えてもらえるんだ。
そこで使われるのが今から僕が君に使う魔術なんだけど、その人が持つ属性に合わせて光る色を変える。
それじゃあ準備はいいかな?』
うん!
『「適性診断」』
私の足元で魔法陣が展開される。
何色に光るだろうか?
どうか風魔法だけは...
そう思い少しづつ目を開けてみると...
赤、青、緑、黄色、茶色、黒の六色に光っていた。
わぁ
やったー!!
『ふふ、おめでとう
やっぱり僕と一緒だったね』
え?
『だって君は僕と魔力を共有しているわけだから僕の適正と同じになるはずでしょ?
あえて言わなかったけど。』
はっ、言われてみればそうだった
「すごいです。一般的に一人につき一つの適性しか持たないので...」
私が騙されたような気になっていると、後ろでそうアンナが呟く。
そうなんだ。
えへへ。
なんかこれだけで大魔法使いになった気分だ。
適性が分かったなら、早速魔法を使ってみたい。
「魔法どうやって使うの?」
そうクロムに尋ねる。
『うーんと大事なのはイメージかな?
体の中のエネルギーを手にあつめて風として放出する感じ?』
うーん、イメージって言われてもなぁ
感覚をつかむのはなかなか難しい。
いろいろと試行錯誤を重ねる。
すると不意にふわっとした感覚が手伝いに伝わる。
きたっ
この調子だと力をこめていく。
そしてを下に向けて放つ。
「セ、セレナ様。それ以上はやめておいたほうが...」
え?
ぶわっ
そう風が吹き荒れたと思った瞬間、私の体は上空に吹っ飛んだ。
うわぁぁぁぁぁぁぁ
やばい、調子に乗った
魔法障壁が受け止めてくれるかなとか思ったけど、魔法障壁が受け止めてくれるのは魔法だけみたいで、地上を見ると竜巻のようなものが透明なドームの中で猛威を振るっている。
いや、逆に通り抜けて良かったかもしれない。
あの勢いのまま障壁にぶつかってたら押しつぶされていたかも。
クロムは大丈夫だと思うけどフェルが心配だ。
いや、真っ先に考えるべきは自分の状況か
体が上昇する勢いは止まって、徐々に下降を始めている。
顔を上げるとそこにはのどかな魔王領の風景がひろがっている。
うーん
これは真面目にやばい。
地面に着地する瞬間にもう一度風魔法を放つのもアリだけど、どのみちこれのくり返しだ。
どんどん地面は近づいてくる。
ぶつかるぅぅぅ
そう目を瞑った瞬間さっと何かに抱きとめられる。
『ふぅ、いきなり特大の魔法を放つもんだからびっくりしたよぉ』
私は人間の姿のまま羽を生やしたクロムに抱えられていた。
助かったぁ
あ、ありがとう
そう素直に感謝を述べる
そのままクロムはゆっくりと私を地面におろしてくれた。
「す、すごいですセレナ様。初めてでここまでの大魔法を放つなんて...」
私が地面に降りるなり駆け寄ってきてくれたフェルがそう褒めてくれる。
嬉しいんだけど、それよりもあの嵐の中で無傷なフェルのタフさが気になる。
でもこれじゃ空飛べないんですけどー
『君みたいなタイプは一気に魔力を出すよりも、コントロールするほうが難しいんだ。
空を飛べるようになるにはまだ時間がかかるかな?』
そうか。
練習あるのみだね
っていうかクロムに抱えて飛んでもらったほうが早いのかもしれない。
なんか負けたような気がするけど
私は暫く一人での魔法発動を禁じられるのであった。




