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第八話 業務連絡

「あーいたいた! お知らせ……ってちょっと! 何してるんですか!」

 ノリスにとっては運の良い事に、四人にとっては運の悪い事に、階下から受付嬢のリリアがやって来た。


「ノリス先輩! 大丈夫ですか、ノリス先輩!」

 惨状を目にした彼女はノリスに駆け寄ると布を引っぺがし、椅子を引き起こす。


「う゛えっ、死ぬかと思った」

 さすが歴戦の冒険者と言うべきか、助けが入るや、ノリスは冷静に鼻の中の水を噴き出し、呼吸の自由を取り戻した。


「ノリス先輩に何してるんですか! 危うく死んじゃうところでしたよ!」

 リリアは、コルクスとノリスのギルド附属学院時代の一つ下の後輩だった人物で、卒業後はギルドの職員となっているのだが、どういうわけだが在学時代からやたらノリスに懐いている。


「いやーコイツがね、俺が稼いだ金を丸々強奪してここの貸金庫にしまい込んだ訳だよ。貸金庫の鍵を渡せと言っても聞かないものだから、少し痛めつけてやったというわけさ」

「当たり前だ! お前らに金なんか渡したらあっという間になくなっちまうだろうが」

「だがお前が持ってると横領するだろ」

「横領じゃねえ。独断で追加の給金を貰ってるだけだ」

 ノリスの言っている事は事実である。


 ノリスを除くパーティーメンバー四人は、何かと金を使いたがる質である。駆け出し時代は人並みに貯蓄をしたりもしていたが、名を挙げてからはその気になればまとまった金をすぐに稼げるようになった為、金を気にする事がなくなった。

 あれば使うが、なくなったからといって焦る事もない。


 そんな中でパーティーの経理を一手に引き受けているのがノリスである。彼には彼なりの苦労があるのだ。

 もっともその立場を利用して常習的に横領に手を染めていたりもしている。


 まあそれでも他メンバーが金も道徳もさして気にしていない為平然とパーティーに居座ってる。今回ノリスが拷問されたのも、ふざけ半分と出し抜かれたのが気に入らなかった為である。

 そのあたりがマッド・ペンタグラムのマッドたる所以だ。


「まあそんな事はどうでもいい。お知らせってのはなんだ」

「はい。ハイイロヤマオオカミの掃討作戦の実施が決定されました。皆さんにも是非参加していただきたいとのことで」

 リリアが持って来た資料をコルクスに渡し、自身はノリスの縄を解き始める。


「ほら、俺の読み通り」

 早期の掃討作戦の開始を予見していたコルクスがしたり顔をする。

「やっぱり開拓を急いでるなこれは。まあそれはそれとして、これ参加でいいか」

「いいんじゃね」

「あ、皆さんはオオカミ回収しないで下さい」

「はぁ!?

 リリアが付け加える様に言った言葉に、彼女に助けられている最中のノリスが噛み付く。


「おい。作戦期間中にターゲット狩るなってどういうことだ」

 魔獣の掃討作戦の期間中には、その魔獣の換金額が三割から五割ほど割り増しされる。


 つまるところ格好の稼ぎ時というわけだ。


「だってそうでもしないとノリス先輩の指揮で刈り尽くしちゃうじゃないですか」

「ああ。悪いか?」

「ダメです。その代わりに、期間中に換金されたハイイロヤマオオカミの換金額の一割にあたる額をギルドからお支払いします。そういうわけですので、他の方々のサポートに徹して下さい」

 吠えるノリスを宥めながら念入りに縛られた縄をほどくリリア。


「しかし全換金額の一割とはずいぶん太っ腹だな」

「辺北管区は筋金入りの本部長派、つまり開拓推進派だ。そんくらいやるさ」

 冒険者ギルドの内情は複雑である。

 もともと各地の冒険者の自助コミュニティを、英雄コールグ・ウェルブの名声とカリスマ、そして彼の親友である天才魔術師フォルク・アーネストの辣腕で一つに纏めたのが冒険者ギルドだが、組織化および一元化に成功したとは言え、運営は一筋縄ではいかない。

 当初は安定していたものの、強力な指導体制を敷いていた初代理事長フォルク・アーネストの急死後、彼の唯一の弟子、マリア・レサイアが跡を継いだが、コールグ・ウェルブ名誉理事の力を借りてなお、互選に敗れ理事長の座を追われる事が多々あった。

 結局、後任の地位も安定せず、なんだかんだ後ろ盾のあるレサイア女史が復権することが常態化していたが、ここに来て強力な対抗馬が現れた。


「本部長か。そういや理事長選が近かったっけか」

 運営本部長オスカー・ロトゾロフ。タルタロス紛争において、緊急で設置された特別北方管区の管区長として、対タルタロス作戦の指揮を執ったばかりか、新たなる英雄ルクス・オーランドを始めとする戦役の中核を担った優秀な冒険者達を見出し、的確に用いてタルタロス紛争を勝利に導いた。

 本人は謙遜しているが、功績はルクス・オーランドを上回るという評も一つや二つではなく、現にそれを評価されて、四十歳に満たない若さで理事長、副理事長に次ぐ地位である運営本部長に就任した。


「やっぱ狙ってるのかな、理事長の席」

「狙ってると思うね。今すぐ本人がとはいかなくても、少なくとも考えの合う人間を置きたがるはずだ」

 世間的には温和で社交的な紳士で通っているロトゾロフ本部長だが、対王国自立を唱え、辺北の開拓計画を推進する急進派という側面もあり、本性は上昇志向の強い野心家であるという話もちらほら聞かれる。

 対王国親密派で、辺北開拓は王国の主導の下に行われるべきとするレサイア理事長をその座から追い落とそうとしても不思議はないどころか、その方が自然とさえ言える。


 辺北開拓の成果を主張したい本部長が、中央の各部署に働きかけて辺北管区に更なるバックアップを行っているのだろう。


「本部長の仕業かどうかは知りませんが、ちなみに特別待遇なのは先輩達だけではないんです。なんとあの大物も参加する予定なんですよ」

「誰だよ大物って」

「それは当日まで秘密です。驚かないで下さいよ」


 気になるところをぼかしたまま、リリアはノリスの拘束を解くと、階下の自分の持ち場へと戻っていった。

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