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第四話 スリルを求めて

「マジでいやがった」


 バーカウンターに寄りかかるノリスを見て、オルトが驚き半分呆れ半分といった声を発する。


「いやぁ、ギルドの連中から賭場に行くって言ってたって聞いた時には驚いたが本当にいるとはな。スリルが欲しくなったのか?」

「馬鹿言え。足りないのは命の方だ。お前らなんぞと組んでるせいでな」

 悪態をつくノリスに構わず、オルトもカウンターにもたれかかる。



 ここはフィートシーカー支部のはす向かいにある賭場。先日オープンしたばかりだが、既に大勢の冒険者で賑わっている。


「しかしなんでこんなところに」

「新しくできたって聞いたからさ。いや、俺賭場って好きなんだよね。賭け事は嫌いだけど。賭場で飲む酒ってさ、美味いじゃん。ところでコルクスとアスランは?」

弓の達人であり、コルクス同様附属学院で学んだインテリであり、結構な美男でもあるノリスだが、いかんせん悪趣味である。


「あそこ」

 オルトが顎で示した先には上半身をコルクスに、下半身をアスランに抱えられて運ばれるランプの姿があった。


「いくら擦ったのアイツ?」

「知らん、ただ相当負けてるのは確かなはずだ。酒がずいぶん美味いからな」

「レニーニャワインだから他人の不幸で割らなくても十分美味いだろうさ」

 オルトがカウンター後方のボトルラックを振り返る。レニーニャワインといえば言わずと知れた高級ワインの代名詞。


「言っとくがこれレニーニャワインっつってもレニーニャ産なだけで多分そこまでグレードは高くないぞ」

 なのだが、正確にはレニーニャワインとは王国南部レニーニャ地方で作られたワイン全てを指す為、一口にレニーニャワインと言ってもピンからキリまで存在する。


「そもそもここは賭場だ。気取った言い方すりゃカジノだ。よっぽどの高級志向ならともかく、酒なんておまけだからマズくなきゃいいんだよ。そもそも賭けをやるのに酒飲む奴も多くはねえし」


 そう語ったノリスの視界の端に、顔を真っ赤にしたまま担がれるチームメイトが入った。

「時々泥酔したままプレイするキチガイがいるけどな」


「はわうぇうぉー、賭けごたぁひとのかねに手ぇつけてからがしょーぶなんだぁ」

「こんな風にか」

「ああこんな風にだ」


 他人事のように眺めているノリスとオルトだが、一方のアスランとコルクスは一苦労である。


「いっせーのーせっ」

 長身なランプの頭を再び持ち上げ、なんとかカウンターにもたれ込む態勢を取らせる。

パーティー内でノリスの次くらいには顔が整っているランプだが、そこそこの男前も泥酔して緩んでいては台無しだ。


「ちょっと、コイツに水を。なるべく冷えたやつで」

 バーテンの出した冷水をランプの口に流し込み、なんとか話が通じるくらいには落ち着かせた。


「それで、幾ら擦ったんだお前」


 泥酔状態で、要するに判断力の著しく鈍った状態でギャンブルをしたらどうなるか。

 想像したくもないが、するまでもない事である。


「……七五〇ヘルメ」

「すっくな。ガキの小遣いかよ」

「ガキの小遣いにしてはちと高くないか?」

「どっちにしろ二等のバッジ付けた冒険者が賭ける額とは思えねえ」


 七五〇ヘルメ、少し小洒落た服を買えば消えてしまうような額だ。


 冒険者と言えば今をときめく憧れの職業で、彼ら二等の冒険者はそのなかでもかなりの高位に位置し、一度の依頼で十万単位、場合によっては百万単位の額が動く事すらある。


「人の金に手を出してからが本番とかイキっといて、賭けたのが千もいかねえとかつまんねえな」

「勝手に言ってろ」

 ノリスは一瞥もくれずにランプを嘲笑する一方で、アスランは呆れを隠してはいないもののランプを必死に諭していた。


「金は別に自分の金なら文句は言わない。だが絶対にトラブルだけは起こすな。ここの賭場仕切ってるのはヘルマ・カヴァリエレだぞ。穏健派とは言えマフィアはマフィアだぞ。目を付けられたらどうなるかわかるか? 身体と財布が仲良くダイエットするんだ」

「わーってる、わーってる」

 古今東西賭博というものは裏社会と切り離せない娯楽だ。


 ここフィートシーカーにおいても例外ではなく、エレオス王国を主な縄張りとする「ヘルマ・カヴァリエレ」と呼ばれるマフィア組織が賭場を取り仕切っているのが公然の秘密となっている。


 犯罪組織ではあるものの、堅気に害をなさない事を旨とする穏健派で、トラブルの仲裁等を担う事もある為、市民や本来敵対しているはずの官憲からすら頼られている節のある人情派組織。


 とは言えど犯罪組織は犯罪組織。唾を吐きかけるような真似をすればそれ相応の報復が返ってくる。

 その上ランプ達はそれなりに名の知れた冒険者である為、下手すればギルドを巻き込んだ話になりかねない。


 アスランがそんな事に思いを巡らせている内に、その場から一人いなくなっている者がいる事に気がつく。


「あれ、オルトは?」

「いねーな」

 どことなく嫌な予感がしたアスランとコルクスは、オルトの姿を探し始めた。


 騒々しい雑踏の中だが、流石は歴戦の冒険者。二人はすぐにゲームテーブルの脇に佇むオルトを見つけた。手には分厚い札束が握られている。


「あの金ってさ」

「さっきオオカミを換金した金だよ。札束なんかシャッフルさせてどうする気だろうね」


 だがアスランとコルクスが人並みをかき分けて駆けつけた時には既に遅く、オルトは既にゲーム用のチップを手に「ミセリコルデ」を始めていた。


「悪いがゲームセットまでテーブルを立てないんだ。それがルールでね」

「いくら交換した。まさか」

「十一万五千ヘルメ弱全額きっちり全部交換しました」


 振り返りもせずにそう言ったオルトに対し、アスランとコルクスは溜息をついた。

 三人で下山勧告を無視して狩り集めた成果が無に帰した瞬間だった。

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