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私はウンチョコ製造機である。

作者: おむすびころりん丸

 私はウンチョコ製造機である。


 突然のカミングアウトを許して欲しい。

 こんなことは誰にだって話せない。


 要は私のウンコはチョコ味なのだ。

 幼い頃、甘い匂いの漂うウンコに我慢できず、ひと舐めしたことで発覚した。

 以来、私は二月十四日、バレンタインには必ず意中の相手にウンチョコを渡している。

 義理チョコは既製品、本命はウンチョコ。そこはフン別付けている。


 中高と、私は幾度もウンチョコを渡し、そして振られてきた。

 いまだに私はバージンで、彼氏の一人もいたことはない。


 現在は地方の大学に通っている。

 一人暮らしにも慣れてきて、そろそろ男の一人でも欲しいところ。


 そんな時に出会ったのが、彼、便流(たよる)くんだ。

 実は入学当初から顔は知っていたのだが、便流(たよる)くんはいつも一人で影が薄い。

 薄めの顔で線も細く、大人しそうな男の子。


 頼りなさそうな便流(たよる)くん。

 その彼と仲良くなったのは、木の葉も色付く秋の中頃。


 二コマ目の講義、一つ席を空けた隣には便流(たよる)くんが座っていた。

 だがこの時の私は何も感じない。

 空気のような便流(たよる)くんの存在にすら気付いていなかったと思う。


 この日、いつも共に出席する友達は、体調不良で欠席していた。

 一人退屈に授業を待つ。便流(たよる)くんは黙々と予習をしている。


 そして時は経ち、教授が講義室に訪れる。

 ようやく準備を始める私。

 鞄を開いて覗いて見ると……


 ないっ!

 テキストが!


 困った。どうしよう。

 今日は不幸にも一人、友達とシェアする訳にもいかない。

 こうなったら、誰かに見せてもらうしか……


 その時、スッと横からテキストが回された。

 振り向くと、そこには優しく微笑む便流(たよる)くんがいて――


「使っていいよ。僕はもう、全部覚えてしまったから」


 それが出会いのきっかけ。

 思えばこの時から、私は便流(たよる)くんの優しさに惚れていたのだと思う。


 それから冬が訪れ、年が明け、来たる二月の十四日、バレンタインデー。

 私は便流(たよる)くんにチョコを渡すと決めていた。告白しようと誓いを立てた。


 そして今まさに、腰を落とし、(りき)を込め、チョコレートを生み出さんと奮闘している。

 ここ数日、緊張のあまりか便秘気味だった。

 コンディションは△、しかし、だからこそ熟成されており、味の方は◎が期待できる。


「くっ、ぐぐっ……ぬぅぁぁぁあああ」


 チョコの味は、私の食べたものに由来する。

 甘いものを食べれば甘く。

 しょっぱいものを食べれば塩チョコに。

 今回私は、恋のほろ苦さを演出する為に、抹茶フロートをしこたま食った。


 下痢でないことを祈りながら、般若の如き形相で、便流(たよる)くんへの想いを練り上げる。


「ぬぅぉおおおおお! 出でよぉおおおお!」


 ブッ……ププ……プピィィィイイイイイ

 ブリャブリャズボボボブバァアアアアブリブリブリブリ…………




便流(たよる)くん! これ……受け取ってください!」

「え? これって……」


 バレンタインデー当日。

 私は人気のない屋上に彼を呼び出し、そして、チョコレートを差し出した。

 

 困惑する便流(たよる)くん。きっとチョコを貰うなんて初めてなのだろう。

 私も同じく緊張する。便流(たよる)くんとは仲が良い。

 だけど、彼は私のことを異性として見てくれていたのであろうか。

 そのことが心配で、心配で。便通されたはずのお腹が痛む。


「今日、バレンタインでしょ? だから、私の気持ちを受け取って欲しいの。私、便流(たよる)くんのことが好きなんです!」


 突然の告白に、便流(たよる)くんは目を泳がせ、しどろもどろしている。

 あぁ、なんて可愛いのだろう。


 それでも便流(たよる)くんは、ここぞという時にできる男。

 気を持ち直し、真っすぐに私を見つめると、芯の通った声で答えを返した。


「嬉しいよ。僕も、君のことが好きだった」


 や、やった! 嬉しいっ!

 私の大好きな便流(たよる)くん。そんな便流(たよる)くんと両想いだったなんて!

 気持ちは舞い上がり、お腹の痛みも吹き飛んでいく。


 これで、便流(たよる)くんと私は彼氏と彼女。

 だが、あと一つ、大切なイベントが残っている。


「チョコ、開けてみて?」

「うん」

(ぷっ、うんこだけにか?)


 包み紙を丁寧に剥がし、中のチョコを取り出す便流(たよる)くん。

 それは既製品ではない。手作りのチョコ。

 いやむしろ、体内精製されたチョコレートだ。

 手作りでは及ぶべくもない、究極の真心が詰められている。


「胆を込めて捻り出しました」

「丹精込めて作り上げた、ってこと?」

「まあそういうことです」


 食べるのがもったいないのか。

 チョコを眺めるだけで満足げな便流(たよる)くん。

 でも私は見たい。

 便流(たよる)くんが、私のチョコを食べる姿を。

 私と一つになる、その瞬間を。


「是非、今、食べて感想を聞かせてくれませんか?」

「うん」

(ぷふっ、うんこだけにね)


「じゃあ、いただきます」


 便流(たよる)くんはチョコを一つ摘まむと、愛おしそうに見つめながら、それをゆっくり口に運んだ。


(おほっ! 食った! 食ったぞ! 便流(たよる)くんが私のチョコレートを食っている!)


 これでこそ作り甲斐があるというもの。

 目を瞑り、丹念に味わう便流(たよる)くん。

 熟成されたチョコレート、きっと美味しいに違いない。

 私は幼少以降食べたことはないので知らないが。


「美味しいよ。有難う。そしてこれから宜しくね」

「こちらこそ」


 そうして私たちは付き合った。


 これから待ち受ける幸せに、興フン冷めやらぬ私。


 だが不ウンにも、その後一か月もしない内に別れることになった。

 私は便流(たよる)くんに振られてしまったのだ。

 理由は、ウンチョコのことがバレたから。


 別れた日。その日は便流(たよる)くんとのお泊りデート。

 つまりは私の初体験。


 便流(たよる)くんは、寝そべる私に――


 ウンコを要求した。


 そう、彼の性癖はスカトロだった。

 彼は、ウンコ味のウンコが好きだったのだ。

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