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第1話

父が死んだ…

怪獣に狙われていた少女を庇ったところを襲われたらしい

俺は父が好きだった

だからその話を聞いたとき、少女を見捨ててでも生きて欲しかったと思った

「父さん…」

ここは怪獣が眠る星

どこかでまた怪獣が目を覚ます

……………

「うぅ…」

暗闇の中で目を覚ます

「どこだここ…?」

辺りは黒色に染まっている

もちろん、見覚えのあるような場所ではない

「なんだ…?」

立ち上がり辺りを散策すると少し先のほうで人がぼんやりと映りあがる

「?…」

ぼやけていてはっきりとは見えない

少しずつ、少しずつその姿がはっきりしていく

「!?…」

「父さん!?」

それは父の後ろ姿だった

息子の自分に背を向けて父はその暗闇を歩いていく

「待ってくれ!父さん!行かないでくれ!」

追いかけようとしても足は動かない

手を伸ばしても届かない

そのまま父は暗闇の中に消えていった

「父さあああんッ!!」

「はッ!!」

またも目を覚ます

ジリリリリリ…と目覚ましが鳴る

その音は既に耳に馴染み聴き飽きた音だ

いつも見る天井

いつも感じる布団の感触

そこは見覚えのある、いつも通りの自分の部屋だった

「夢…か…」

体をゆっくり起こそうとするが

「ん?」

何か異変を感じる

景色、音、匂い、感触、全てに何もおかしなところはない

だが何か違和感があった

それは右腕に

「ぐ…」

右腕を上げようとしても重りでも付けられたかのように重たく寝起きの状態では全く上がらない

どうなっているのか…布団をめくり確認する

「!?…うわああああああああああッ!!!!!」

悲鳴…いや、絶叫が家中に響きわたる

「はぁ…はぁ…はぁ…」

呼吸が乱れる

息が苦しい

顔は真っ白になっていき沸き上がる冷や汗が体温を下げる

ここは2階

ドタドタと誰かが階段をかけあがっていく音が聞こえる

「どうしたの!?」

扉を開け部屋に入ってきたのは母だった

心配した表情で息子の顔を見つめる

「い、いやなんでもない!なんでもない!」

「本当…?」

「本当!本当!」

「そう…何かあったらちゃんと言いなさいよ?」

「うん!うん!」

「じゃあご飯出来てるからね?今日から学校なんだから」

「分かった!分かった!」

ギィィ…っと扉が閉まる音がする

ふぅ~っと一息つく

父が亡くなって数日が経過した

最近の母はやけに優しい…というより何か過保護になった

俺が父と親しいのはよく知っている

だから心配するのも分かる

でも俺だってもう高校生だ

悲しくない訳じゃないが心配される程、お子ちゃまでもない

いや、そんなことよりもだ

この右腕は…

そっと布団の中を覗く

だが

「あれ…?」

右腕は普通だった

重みもなく違和感など微塵もない

「はぁ…変な夢見たせいで起きても変なの見ちゃったよ…」

「…」

「よし…起きるか」

今日から学校

また通常通りの日常が始まる

と思っていた…この時は…

……………

俺は「王 アシラ」

高校1年生 彼女なし

頭のほうは…賢いとは言えないな…

まあ、それでも楽しくやってる

「よう、アシラ!」

「おう!田中!」

「アシラ!久しぶりだな!」

「よう!吉田!ってかそんなでもないだろ!」

友達もそこそこにいて学校生活は充実している

特にこいつら二人とは良く遊ぶ仲だ

「おい!アシラ!今日、うちのクラスに転校生が来るらしいぞ!」

「マジ!?」

「マジよ!マジもんのマジよ!」

「で…性別は…?」

「やっぱそこだよな!肝心なところはよお!」

「まあ、まだわかんねえんだけどな」

「ちぇ、なんだよ…」

「ふっふっふっ…」

「どうした田中?アホになったか?」

「おいおい、田中は元からアホだぞ」

「あ、そっか」

「おい!」

「あ~あ、俺ちゃん今朝、転校生が職員室入るとこ見たんだけどなあ~」

「何!?」

「田中!?マジか!?」

「あ~!マジもんのマジよ!」

「でかした!で?性別は?」

「教えてやんね~」

「おいおい!頼むよ!田中~!」

「アホだのなんだの好き勝手言われちまったからな~」

「そう言わねえでさあ~!た~な~か~!」

「悪かったと思ってるよ~!だから~!な?」

「ん~、しょうがねえなあ!」

「さっすが田中!そうこなくっちゃなあ!」

「いいぞ!田中!」

「ふふふ…さてさて、それでは皆さん気になる性別は~」

「性別は…?」

「にひっ!」

「!!」

「女の子だっ!」

「うおおおお!!」

「顔は!?顔はどうなんだ!?」

「それがよお!」

「うん!うん!」

「めちゃくちゃ可愛いんだよお!」

「うおおおお!!」

「とうとうこのクラスにも春が訪れるんだなあ!」

「そうだぜ!氷河期のようなこのクラスにも春がやってくるんだ!」

「やったな!田中!吉田!」

「ああ!本当に良かった~!バンザーイ!」

「馬鹿じゃないの…」

「なぬ!?」

男子3人が盛り上がっているところに水を差したのは横の席で聞いていた女子の桑山

俺と田中と吉田そして桑山は小学校からずっと同じ学校の同級生

「桑山!男の話に入ってくるんじゃねえ!」

「だったらもうちょっとボリューム下げてくれる?そんなでかい声で喋られるとこっちは迷惑なんですけど」

「何を~!?」

「まあまあ、田中 落ち着けよ、な?」

キーンコーンカーンコーン

「あ、そろそろ先生来んぜ!おら、田中!席つくぞ!」

「ったくよ~」

田中と吉田が席に戻っていく

「なあ桑山!転校生が女子だって知ってたか?」

「ええ、あんたらの会話から聞こえてたわよ」

「どんな子なのか、楽しみだな!」

「別に」

「なんだよ、楽しみじゃないのか?」

「興味ないよ、そんなの」

「…」

「何よ」

「何か最近冷たくないか?」

「別に」

「なんだよ何かあったのか?昔はよく遊んでたじゃねえか」

「昔の話なんか出さないでよ、大体私はもうガキじゃないの!分かる?自分達がいかに幼稚か?もう自分のことを見れる年齢でしょ?下らないことばっかやってないで少しは成長したらどうなの!?」

「な…」

「あ…ごめん…言い過ぎた…」

「いや…こっちこそ…ごめん」

「…」

「そっか…そうだよな…桑山は凄いな…俺達と違って大人になったんだな…」

「やめて…」

「でもさ、たまには…」

「やめてって!!」

「…」

「もうこの話は…やめて…」

「もう…やめにしよ…」

「ああ…そうだな…」

二人に沈黙が訪れる

ガラッと教室の扉が開く

担任の先生が来た

「皆おはよう!」

担任の川下先生は顔が濃くて恐い印象が強いが生徒一人一人にしっかりと向き合ってくれる実に良い先生だ

「お前達、このクラスに転校生が仲間入りすることになった」

「入ってきていいぞ」

川下先生が扉の方に声をかけると一人の少女が入ってきた

「おお!マジで可愛いな!」

吉田が前の席に座っている田中に言う

「なあ?言ったろ?」

「じゃあ自己紹介を」

少女は小さく頷くと黒板に名前を書いた

「私の名前は友里 カルラ」

少女は身長が低く顔も少し幼く感じるのもあって年下のように見える

田中と吉田は可愛い可愛いと言っているが俺にはそうは思えなかった

確かに顔はいい、しかし何か睨んでいるような、鋭い目付きが冷たい印象を受けた

「はいはい!質問質問!」

田中がはしゃぎ気味に手を挙げ、当てられてもいないのに勝手に立ち上がり質問をする

「どこから転校してきたんですか~?」

田中は無駄に大きな声で質問を投げかけたがそれに対する答えは一向に帰ってこない

「…」

カルラは黙りこんでいる

「こら!田中!勝手なことをするな!」

先生が田中を叱る

田中はへへへっと笑いながら席につく

「カルラはこっちに来てからまだそれほど日が経ってないんだ」

「だからまだまだ知らないこともあるだろうし慣れないこともあると思う」

「だから皆にはもしもカルラが困っていたら助けてやってほしい」

「皆、よろしくな」

「さてと、じゃあカルラの席は…」

「先生!先生!」

吉田が勢いよく手をあげ田中よりは控えめな大声で先生を促す

「俺の隣が空いてま~す!」

「そうだな…じゃあ吉田の隣に…?」

吉田が心の中でガッツポーズをしたが結果は思い通りにならなかった

「どうした?カルラ」

カルラは先生の裾を引っ張りながら小さな声で言った

「私…あそこがいい…」

カルラが指を差した先はアシラの席の後ろだった

「そうか…まあカルラがそこがいいって言うならそこにするか」

吉田が思わず「ええ~」っという声をもらした

「…」

カルラがゆっくりとアシラの後ろの席に向かっていく

「カルラさん!俺、王 アシラって言うんだ!よろしく!」

「…」

「ねえ!何か言ったらどうなの!?」

アシラを無視したカルラに桑山が指摘する

「…」

だがカルラはそれさえも無視する

「あなたねえ!」

「まあまあ、落ち着けよ」

「カルラさん、気にしないで大丈夫だよ!」

「…」

「ふん…」

朝の会が終わるとクラスメイト達はカルラの席に集まりだした

「ねぇねぇ?カルラさんの趣味ってなに?」

「カルラさんって綺麗だよね~!何かケアとかしてるの?」

「カルラさん部活とか入る?もし良かったら手芸部とかどうかな!」

「…」

カルラは投げかけられた質問には何一つ答えない

だが周りにいるクラスメイト達は勝手に盛り上がって喋っているのでそれには特に気にかける様子はない

「…」

カルラはじっと何かを見つめる

その先にいるのは吉田、田中と会話を楽しんでいるアシラだった

「でさ~、俺思わず笑っちまって!そしたらそいつが~」

「…」

カルラはじっとアシラを見つめる

授業中も昼休み中もずっとただただ見つめる

「なあ、アシラ」

田中が小声でアシラに声をかける

「カルラさん、やけにお前のこと見てねえか?」

「え?そう?」

「そうだよ、ほら今も」

「カルラさん、お前の後ろの席を指定したのもあるし」

「もしかして…好き…なんじゃねえか!?」

「まっさか~!」

「いやいや!そうとしか思えねえだろ!」

「でも俺、朝のときに話しかけたけど無視だったぞ?」

「んなもん恥ずかしかったからに決まってんだろ~」

「分かってねえなあ~お前は乙女心ってもんをよお~」

「本当にそうなのかな…」

時間は過ぎ放課後になる

アシラは掃除当番でほうきを持って床を掃いている

「はぁ~、掃除って数分で終わるようなことなのにな~んでこんなに面倒なのかな~…」

「ん?」

アシラが視線を感じる

「…」

カルラがまだアシラを見つめていた

(カルラさん、掃除当番でも無いのになんで残ってるんだろ?帰らないのかな?)

見つめられていることには何とも思わないアシラだったが…

……………

「ん~…なんでカルラさんは俺のことずっと見てたんだろ…」

アシラの家は高校のすぐ近くで毎日徒歩で登校している

過去に自転車を盗まれたことがあり、それからは徒歩か交通機関を使うようになった

何気無いいつも通っている帰り道

だが何かいつもと違うものを感じる

それは朝から続いているものだ…

(まさか…)

アシラが後ろを振り向きある人物を探す

いや…探す必要なんて無かった

人一人分を開けてすぐ近くにその人はいた

「…」

カルラはじっとアシラを見つめる…いや目付きが鋭いせいでどちらかと言えば睨み付けているのかもしれない

アシラは思わず「わっ!」という驚きの声をあげる

「カ…カルラさん!?」

「…」

アシラの心の中には若干の恐怖心があったがカルラに聞くことにした

「カルラさん…俺に…何か用…?」

「…」

カルラは答えない

「あの…カルラさん…?」

「…」

「あ!もしかして朝、声かけたことで怒ってる?」

「…」

「ごめんね!軽い気持ちだったんだ…気を悪くさせちゃったかな?」

「…」

(うぅ…どうしようこの状況…気まずいなあ…)

そんなことを思ったその時だった

ピクッ…

(?…今…右腕が…?)

「!…来る…」

突然カルラが口を開いた

「え?」

次の瞬間

ゴガゴガガガアアアンッ!!

地面が割れ黒い巨体が突如として姿を表す

「グガアアアアアアアッ!!!」

「うわああああああああッ!?」

すぐ目の前にいる怪獣を見て腰を抜かすアシラ

「か、怪獣!?」

「グルルルルルルル…」

「はぁ…はぁ…うッ!?」

右腕が脈打つようにドクドクと鼓動する

その鼓動が起こるたびに鋭い痛みが走る

だんだん右腕が重くなっていき色は黒く爪が鋭く尖りまさに怪獣の腕のようになっていく

「これは…朝に見たのと…同じだ…」

「抑えて!」

カルラが叫ぶ

「え…?」

「駄目!抑えて!」

「どういうこと…?」

「後で…説明する…ちゃんと…」

「とにかく…今は抑えて…」

「怪獣は私がなんとかする」

制服の上に着ていたジャンパーのフードを被り顔を隠す

「はああ…」

カルラの左腕がぐにゅぐにゅと蠢く

「がああッ!!!」

カルラが怪獣のような声をあげると左腕がアシラの右腕のように怪獣の腕に変わる

「嘘だろ…!?」

「はああああッ!!!」

カルラが地面を蹴って怪獣に飛び込む

普通の人とは思えないジャンプ力

「あああああッ!!!」

ズドンッ!!!

「グゲエアアアアアッ!!!」

怪獣のような左腕で強烈なパンチを繰り出す

「すげぇ…」

一撃を食らい後ろに下がった怪獣にカルラが追い討ちをかける

ザジュッ!!

鋭い爪で怪獣を豪快に引き裂く

「ググ…」

怪獣が前に倒れていく

「うおおおお!?」

アシラが押し潰されそうになる寸前でピタッと怪獣が止まる

「カ…カルラさん」

カルラが怪獣の背中を掴みアシラを助けた

「アシラ君…少し避けて…」

「あ!は、はい!!」

ズドオンッ!

怪獣が地面に倒れこむと地面が僅かに揺れる

「大丈夫…?怪我…とか…」

カルラが不慣れながらも話しかける

「あ、ああ!大丈夫!大丈夫!」

「そう…良かった…」

「俺なんかよりカルラさんは?大丈夫?」

「うん…私は平気…」

「そっか~、でもビックリしたなあ~」

「右腕…」

「え?」

「右腕に何か違和感とか…無い…?」

「ああ、さっきは何か変だったけどもう何とも無いかな」

「ところでさ…カルラさんに色々聞きたいことがあるんだけど…」

「分かってる…全部…説明する…」

「まず…私の左腕と…アシラ君の右腕のこと…」

「ずっと昔に…ディーヴァナーガっていう怪獣がいたの…」

「ん?聞いたことあるぞ…ディーヴァナーガ…確か小学生の頃の国語の教科書に載っていた話に出てくる…」

「そう…それ…」

「え、あれって実話だったの!?…え~っと…どんな話だったっけ…?」

「災いを起こすディーヴァナーガに5人の英雄が挑んでいく話…」

「そう!そうだそうだ!思い出してきた!でも確か結局倒せなかったんだよね?」

「うん…最後は5人の英雄が何とか怪獣の頭を破壊して…胴体と尾…右腕…左腕…右足…左足の5つに分けてそれぞれを自分の身体に封印した…」

「そうそう!そんな話だった!いや~懐かしいなあ~」

「それで…その英雄が私とアシラ君の御先祖なの…」

「そうそう!それで…って…え…?」

「私達は封印を大昔から受け継いできたの…」

「嘘…」

「本当は20歳になってから受け継がれるものなんだけど…」

「アシラ君が突然ディーヴァナーガの封印を受け継いだのは…」

「アシラ君のお父さんが…亡くなったから…」

「そう…だったのか…」

「…」

カルラの目に涙が浮かぶ

「え?カルラ…さん…?」

「ごめんなさい…アシラ君…本当に…ごめんなさい…」

「え!え?え!?ど、どうしてカルラさんが謝ってるの!?」

「アシラ君のお父さん…亡くなったのは…私のせいなの…」

「え…」

「もしかして…父さんが庇ったのって…」

「そう…私なの…」

「…」

「ごめんなさい…謝って…どうにかなるなんて思ってない…でも…本当に…ごめんなさい…」

「別に謝ることじゃないよ…カルラさんが助かって良かった…」

俺はもう少しカルラさんから色々と話を聞きたかったが今日はとりあえずそのまま家に帰ることにした

今日カルラさんから話が聞けて正直良かった

父さんは怪獣と戦う英雄だったんだ

カルラさんから話を聞くまでは見捨ててでも生きてて欲しかったって思ってた

でも今は違う

今は父さんの行動を誇りに思う

俺もこの封印を受け継いだからには…いずれ戦うときが来るのかな…

不安だけど…その時は…俺は命をかけたっていい…

父さんのように…俺も逞しくなるんだ…

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