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第59話 ラムール=ロム=テノス

 白の館の敷地内のはずれ、地下牢へ続く鉄の扉が重々しい音をたてて開かれた。

 カビくさい淀んだ空気が新鮮な外の空気と混ざり合う。

 見張りの兵士達が一礼し、ラムールはまっすぐ地下二階の牢屋へと向かった。



 

 ラムールが地下二階のフロアーにつくと、既に連絡が行っていたのであろう。 ドノマンとその家臣2名、そして右大臣はじめ数名の造反者が牢から出されて、座ったまま後手に縛られた格好で横一列に並ばされていた。

 武器も持たず、身一つで訪れたラムールの姿を確認すると、右大臣は野犬が威嚇するかのようなものすごい形相で彼を睨み付けた。


「繋がれているところをわざわざ見に来たか!」


 右大臣の叫びにラムールは何も言わず、ただ正面に立った。

 そんなラムールを見上げたまま、右大臣は意地悪く嗤う。


「せっかくワシをはめたと思っただろうに残念だったな。 ワシには王族の血が流れておる! たかが平民にワシを殺すことは許されぬ。 国外追放など屁でもない。 国外に飛ばされても、テノス国の資源の話をすれば、多くの国が侵略を仕掛けてくるだろう! この国は侵略される! せいぜいこの国が滅び行く様を見届けるが良い」


 その言葉にもラムールは表情を変えず、ただ静かに口を開いた。


「まずひとつ。 私はテノス国に危害を加えようとする者は誰であろうと許さぬ」

 まるで右大臣の言葉など無意味だと言わんばかりに。


「次に、王族でなければ王族を殺せぬというのなら、同じ土俵に上がってやろう」


「何?」

 右大臣が眉を寄せる。


「どこで生まれようと誰から生まれようと、私には関係ないことだと思っていたから今まで黙っていたが――」

 ラムールは一同の顔を一瞥してから、ちょっとだけ唇を噛んで躊躇したあと、覚悟を決めた。


「私は15年前に滅びたドムール国の王位継承者だ。 父から授かり母より与えられしドムール国の紋章が入ったおくるみが証拠。 父も母も死んだのでそれ以上を証明することは無理だが、王族でなければと言い訳する輩を黙らせるには十分だ」

「な……」


 たたみかけるように続ける。

「そして、今の私の名は、ラムール=ロム=テノス。 先ほど、テノス王から授かった」


 その言葉はそこにいる者達すべての顔色を蒼白に変えた。


「【テノス国王族にもっとも近い者】の称号を陛下がお与えになったというのか!? まさか、馬鹿な!」

 右大臣が混乱しながらも問いただす。


「滅びたとはいえ他国の王位継承者にこの国の称号を与えるはずがない! 王子の次の王位継承者はお前ということになるではないか!」

「いいえ。 私は絶対に王位は継承しません」

「何を言う! デイ王子が死ねば……」


 ラムールが右大臣の頭に左手をかざして言葉を制した。


「【身代わりの護り】を王子に施した。 これで王子が私より先に死ぬことは絶対無い」


 身代わりの護り。

 守る対象が怪我を負った時は、その怪我すべてを身代わりの者が代わりに受ける、究極の護衛魔法だった。


「そんな……まさか……」


 右大臣がうろたえる。 それは【身代わりの護り】に付随するある事実に気付いたからだった。


「気付いたようだな」


 ラムールはゆっくりとそう言うと左手を挙げ、空中に何か模様を描いた。


「出よ! 殺滅許可証!」


 ラムールの声が地下牢のフロアに響き渡ると、彼がなぞった空間に白っぽい半透明のゼリーのような、煙のようなものがあらわれた。 それは人の顔ほどもある大きさの卵状の形になり、それを透かしてテノス国の紋章と二本の死神の鎌が絡み合った模様が命の鼓動を奏でるように脈打ち、空間に生まれた黒い渦が集まって剣の形をなした。

 ラムールの左手が宙に浮かんだ剣を取った。


「な……、な……」


 右大臣達は驚きのあまり言葉にならず、酸欠状態の魚の如く、目を見開いて口をぱくぱくとさせた。

 ラムールが凍った眼差しで告げる。

「見るがよい。 この印は殺滅許可証。 この剣は裁きの剣。 いかなる理由があろうとも、通常の手続きを無視して人を滅する事を許された証。 テノス国に危害を加えし汝らを我が名のもとここに滅する」


「ま、待ってぇ!」

 その時レッシェル嬢が慌てて叫んだ。

「わ、私は悪くないわ。 全部右大臣達が勝手にしたことですもの。 ねぇ、ラムール様、あなたともあろう御方が女性に手をあげるなんてことは、な、なさいませんよね?!」


「いいや。 ご期待に添えず申し訳ない」

 あっさりと返事を返す。


 するとレッシェル嬢は胸の谷間を強調するかのように顎を上げて前のめりに体を倒しながら懇願した。

「そんな! ねぇ、私は右大臣に騙されていただけでございます。 あなた様の事を心からお慕い申し上げておりました! 身も心もあなた様のものでございます。 ほら、私の体はとても魅力的でございましょう? 好きにして頂いて構いませんわ。 ですから、どうか……!」


 それを聞いてラムールがちょっと眉を寄せた。

 その行動をドノマンが深読みする。


「ラ、ラムール様! お慈悲を! 私はこの国を去りましょう! 二度とテノス国にはまいりません! 何の危害も加えません! お約束致します。 そうだ! 私が国に帰った暁には、どうぞ我が屋敷に遊びにお越し下さいませ。 我が屋敷には多くの女どもがおります。 全員美人で従順! よりどりみどりにございます。 どんな命令でも聞きますし、どんなプレイでも望むまま。 お望みとあれば幼女であろうと熟女であろうとラムール様が抱きたいと望まれる女を手配致しましょう!!」


「――下劣な」

 ラムールは吐き捨てるように言った。

「時間がもったいない。 右大臣、そしてその手下ども。 3秒やろう。 祈るがいい」


 右大臣達は何か祈ることができたのだろうか。

 3秒後、そこには首を落とされた右大臣達がいた。

 ごろんと頭部が床に転がり、頭のない胴体が、ばたんと後方に倒れる。


「ひ、ひぃぃ」

 ドノマンは失禁しながら叫んだ。

「お、お前! ワシに手をだすとただではすまさんぞ! ワシにはここから逃げきれたラフォラエルがいる! あいつはよくできた息子だから必ず私を助けに来る! ワシに手を出すとラフォラエルの呪いがお前にふりかかるぞおぉっ!!」


 ラムールは少し目を伏せた。

「ここにその息子が来るならば、私は喜んで彼に会おう。 彼の呪いなら甘んじて受けよう」


 左手に掴んだ剣先から、血がぽたりぽたりと床を汚した。

 何滴か石の床に染みこむのを見てから、ラムールが口を開いた。


「殺滅権で殺された魂はどうなると思う?」


 ドノマンは返事ができなかった。

 ラムールは剣を振って血の粒を払い落としながら言った。


「殺滅権で殺された魂は、あの世には行けぬ。 滅びるだけだ」

「……?」

「そして、殺滅権を行使した人間も死したら地獄で滅びるだけだ」

「……?」


 ラムールが剣を構えた。


「3秒やろう。 祈るがいい」

「ま、待って、ど、どうして!」


 ドノマンの問いにラムールは答えた。


「お前達をラフォーとサシャのいる世界には行かせない」

「な? お前、なぜその名前を……!」


 ドノマン達が真っ青になった。


「時間だ」

 ラムールの冷たい言葉の響きと剣が振り下ろされたのは同時だった。









 足下の屍を見ながら、ラムールが兵士に尋ねた。

「その、逃げた男とやらが入っていた牢はどこだ?」

 兵士がラフォラエルが繋がれていた牢にラムールを案内する。

 そこはフロアーに一番近い牢だった。

 牢の奥のしっくいの壁には、人一人分くらいの大きな水たまりのような血の跡が壁から床へと広がっていた。

「調べてみる。 一人にしてくれ」

 ラムールはそう言って兵士を追い払うと、ゆっくり歩いて血の跡の側まで来た。

 床にひざをつき、壁と床についた染みに両手で触れる。

 寂しそうな、寂しそうな瞳をして、ラムールはその染みを見つめた。


――あなたがラムールであれと望むなら……これで、許してくれる?


 その唇が声は出さずに、そう形づくった。

 次の瞬間、勢いよくラムールは立ち上がる。


「見張り兵!」


 凛々しい口調でそう言いながらラムールは牢を出る。

 そして両手から魔法で鎖を出し、牢の入り口をその鎖でぐりぐりに巻いて固めた。


「ラムール様、これは!?」


 驚いた兵士達が尋ねる。

 ラムールは言った。


「この牢は呪われているかもしれぬ。 危険だから絶対誰も入らせないように!」


 そうして、その牢は彼の手によって誰も近づけないものとなった。







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