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第47話 6人の、大事な友達

 翌日の夕方。

 ベベロン国発ロアノフ島行きの船の甲板に、待ち遠しそうな顔をして海を眺めているラフォラエルの姿があった。


「ラフォー♪」

 そこにカレンとメーションがにこやかに駆けてくる。


「おー」

 ラフォラエルは軽く右手をあげた。


「ラフォー、タートゥンから聞いたわよ♪」

「ライマと上手くいったんですってぇ?」


 そう言って二人はキャーッと言って盛り上がる。

 ラフォラエルはふくれながらメーションに言う。


「お前なぁ、あんなことするから大変だったんだぞ?」

「何言ってんのよ♪ そのお陰で仲良くなれたんでしょ?」

「……それはそうなんだけどさ」


 ラフォラエルが反論できないのでメーション達は大喜びだ。


「良かったわね、ラフォー」

「ライマってカワイイものねぇ?」


 ラフォラエルは小さく微笑む。 

 するとメーション達が視線を合わせて、一つの箱を取り出す。


「ねぇねぇ、ラフォー、ちょっとこれ、見てみて♪」

 そう言って蓋を開ける。

「どうどうどう????」

「いいでしょぉ〜〜???」


 二人はとても興奮しながら箱の中の物を見せる。


「これって――」

 ラフォラエルは驚いた。




+++




 ロアノフ島の港には、きちんとライマが迎えに来ていた。

 ライマの姿が見えるや否や、メーション達は声を上げて大きく手を振る。

 ライマが小さく振り返すと、ラフォラエルが小さく振り返す。


「ラァイマ〜〜!!」

 船が着岸するとメーションが真っ先に船を駆け下りて行った。


「メ、メーション??」

 そのあまりのハイテンションぶりにライマがたじろぐ。


「元気だったぁ〜〜???」

 メーションは勢いよくライマに抱きつくと――


「!」


 その唇をライマの唇に重ねる。

 時間にして2秒。

 みんなが目を丸くする。


「メ、メーションっ!!!」

 慌ててラフォラエルが駆け寄る。


「ぷはぁっ!!!」

 メーションが勢いよく唇を離す。


「ラフォーとのキス、返したわよっ♪♪」

 そう元気よく言う。 


「あ……はは……」

 ライマは苦笑しかできなかった。


「メーション、お前!」

「んもー。 何よ、ラフォーのキスをライマに返しただけよ? このために一週間大変だったんだから」

「はぁ?」


 タートゥン達が笑いながら近付く。

「メーションはな、ライマにキスを返すためにこの一週間誰ともキスしなかったんだ」

「キス魔のメーションにしてはかなり大変だったみたい」


 我が意を得たり、とばかりにメーションが胸を張る。

「そうよ? 私がどんなに大変だったか分かる?? 辛かった! 苦しかったわ! でもライマに絶対返さなきゃって、頑張ったんだから!!」


 なんだかよくは分からないが、頑張ったらしい。


「えー……っと、アリガト」

 ライマはとりあえず返事をする。

 彼女の前回の行動がなければ、ラフォラエルと今の関係にはなれなかっただろうから。


「さすがね! ライマ、人間ができてるわ!」

 メーションは喜びのあまり、ライマをぎゅっと抱きしめる。


「ちょ、離れろって」

 ラフォラエルがふくれながら二人を引き離し、ライマの肩を抱き寄せる。

「ただいま♪」

 ラフォラエルが微笑むとライマが恥ずかしそうに頷く。


「あーっ、もうこれでキス解禁なんだわー♪」

 背後でメーションの伸び伸びとした声が響く。


「ちょっと待てメーション。 お前が次にキスした相手は、ライマのキスをもらったことにならないか?」

 ラフォーが気づく。

「他の男に渡すな。 俺によこせ。 頬でいい」


 それを聞いてライマが慌てる。

「頬でも、だめっ!」

「え、だって、他の男に間接でもライマのキスをやりたくないんだもん」


 そんな二人を見てウズがひやかす。

「うっわぁ、熱々」


 カレンが笑った。

「じゃあ私がもらおうかな♪」

「それならOK!」

 ラフォラエルが言い、みんなで笑う。


「さ、みんな行こうぜ」

 ラフォラエルはライマの肩を抱いたまま先を歩き出す。

 みんな、いままでになく、ハイで楽しそうだった。

 そんな彼の体温を感じながら、ライマは悲しいくらい嬉しくて、それが余計に辛かった。







「もう料理はできてるの♪」

 家に入るとそこにはご馳走が並べられていた。

 ライマが今朝から腕をふるって作った食事の数々だった。


「うっわあ♪ おいしそー!」

「今日はお祝いね♪」

「飲むぞー! 喰うぞー!」

 全員が興奮する。


「ライマ、ちょっとおいで」

 ライマはラフォラエルに連れられて寝室へいく。


 寝室の扉が閉じられる。

 と、同時にラフォラエルがライマをきつく抱きしめた。


「ただいまっ」

 その回した両手は、締めすぎて痛いくらい。


「……う、うん」

 ライマもそっと両手を回す。


 昨日の朝まではこうしていたら何も考えずにただ幸せだった。

 心臓がはち切れんばかりに幸せだった。

 なのに今は、怖い。

 ただ、怖い。


「……ライマ?」


 ライマの様子の違いに気づいたラフォラエルが体を離してライマの顔を見る。

 ライマは視線を逸らす。

 ラフォラエルが少ししゃがんで視線を合わせる。


「……キス、しよ?」


 しかしライマは首を横に振った。

 ラフォラエルは何もいわず、ただ、おでこにキスをした。

 そしてもう一度、ライマを抱きしめる。


「……ごめんな。 明後日になったらお別れなのに側にいられる時間が短くて」


――やっぱり、お別れ、なのね


 予想していたせいか、思いのほか動揺はしなかった。 

 ラフォラエルが告げる。


「一足早く、奴らとは今晩を過ぎたらお別れだから、せめていい思い出にしてやりたい」

 抱きしめた手に力がこもる。

「いい思い出にしたいから、訳はきかずに、あいつらの話に合わせてやってくれ。 頼む」


 ライマは頷く。


「明日、みんなが帰ってから、……説明する」


 ライマは頷く。


 ラフォラエルに抱きしめられると彼の香りで包まれる。

 嬉しくて、幸せな記憶が蘇る。

 そう、蘇るのだ。

 幸せを、今は感じることができないから。




+++




「早く始めよ〜〜!!」

 リビングに戻った頃には、みんながきちんと席に着き、準備万端。


「熱々すぎて2、3時間は寝室から出てこないかもと思ったんだけどな」

「もう、ウズったら! ラフォーはそこまでケダモノじゃないでしょうに」

「メーション、甘い。 ケダモノどころか、昨日、俺が話した感じじゃ、まだみたいだぞ?」

「タートゥン、それマジっ??」

「って言うか、タートゥンもラフォーも二人でそんな話してるわけッ?!」

「そんな話の一つや二つ、男ならするって!」


 意味もなく話が逸れる。


「さ、ささ。 ま、とりあえず始めよう」

 じとっとした眼差しで見るライマを誤魔化すように、ラフォラエルが慌てながらその場をとりつくろう。


「おうおう」

「はいはいお二人さん、座って座って」


 勧められるまま、ライマ達は並んで一つのソファーに座る。

 まずは各自のグラスにシャンパンが注がれる。


「さて」

 タートゥンが立ち上がる。

「なんだかんだ言って楽しかった、ここでの集まり。 それも今日で最後だ」


 みんなが静かにタートゥンを見つめる。


「ラフォーのおかげで、俺達は明後日、自由を手に入れる。 と同時に、今持っているものをすべて捨てなければならない。 でも自由にはそれだけの価値があると俺は思う。 今日は俺達の最後の宴。 心ゆくまで楽しもう。 今から乾杯するけど、それぞれ何に乾杯するか言ってくれるか?」


 最初に言ったのはウズだった。

「俺は――可能性に。 メーションは?」

「私は、希望に。 次はトガール」

「僕は……カレンとの未来に」

「じゃあ私も、トガールとの未来、そしてそれを与えてくれた、ラフォーに」


 ラフォラエルがみんなを見回す。

「俺は、みんなの協力に」


 メーションが口を出す。

「あらっ? ライマにじゃないのっ?」


 ラフォラエルが恥ずかしそうに口を尖らす。

「……ライマに」 


 ライマとの出会いにだろっ?と、ウズ達が言ってみなクスクス笑う。


 タートゥンがライマを見た。

「先に俺が言っていい?」


 ライマは頷く。

 タートゥンがみんなを見た。


「ここにいる、6人の大事な友達に」

「6人?」


 ライマが声に出した。 タートゥンが微笑む。


「そうだよ。 ウズ、メーション、カレン、トガール、ラフォー、……そしてライマ。 6人の、俺の大事な友達」

「――友達?」


 確かめるように呟くライマに、みんなが優しく頷く。

 ライマの胸が思わず熱くなる。

 友達だなんて響きは初めてだった。


「じゃあ、次、ライマは何に乾杯?」

 タートゥンが尋ねる。

 ライマは少し泣きそうな顔をして恥ずかしそうに口を開く。

「――笑わないでよ? ……生まれて初めて出来た、6人の友達に」

「上等♪」

 みんなが優しく微笑む。


「じゃあ乾杯だ」

 タートゥンの優しい声の響きが、宴の幕を乾杯で開けた。






 宴は賑やかに進んでいく。

「うわー、この料理、ラフォー仕込み? ライマ、めっちゃ上手いじゃん!」

 ウズが手放しで褒めちぎる。

「コツ覚えたら、ライマは何でもできるもんな♪」

 ラフォラエルも感心しながら食べる。

「ライマが最初に作った化学実験料理、お前らにも食わせたかったよ」

「ああっ、ダメっ、ラフォー、それ内緒っ!!」

 真っ赤になって抗議するライマを見てみんなが笑う。



 沢山食べ、沢山飲み、沢山笑う。

 沢山食べ、沢山飲み、沢山笑う。

 時間はどんどん過ぎていく。



「さーって、そろそろ、メインな話、いっちゃいましょうかぁ〜!!」

 かなり上機嫌になったウズが立ち上がってラフォーを指さした。


「さぁ言え、ラフォー!!」


 挑発的なウズにラフォラエルが苦笑する。


「落ち着けよ、ウズ」

「いーやっ! 俺はお前の一言が聞きたいっ!!」


 鼻息荒いウズ

 しかし見ると、他のみんなも興味津々な目で見ている。

 ライマまでもみんなと肩を並べてじっと見ている。


「つか、ライマはあっち」


 ウズにそう言われてライマは何故かラフォラエルの隣に行かされる。


「?」

 ライマが首をかしげる。


 今、ライマ達2人とウズ達5人が向かい合わせて座るような形になっている。

 ラフォラエルがコホンと咳払いをひとつした。


「えー」


 そう言いながら、ライマの肩に手を回す。


「私事ではありますが、今回、自由になったら!」


 ラフォラエルが声を張り上げる。


「俺、ライマと一緒になることに決めましたっ!!!」


 そしてライマをぐっと引き寄せる。

 ライマの顔がボッと赤くなった。


「おっめでと〜〜〜〜〜♪♪♪」


 パンパンパァンと、皆が隠し持っていたクラッカーが鳴った。


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