第40話 古代語で【大好き】の意味。
2019/03/20 改稿しました
朝、目を覚ますと、当然のようにラフォラエルがライマの顔を眺めていた。
「……おはよう」
そう言って微笑む彼に、恐る恐る、ライマは頷く。
「昨日はイイモン見せてくれてアリガトな♪」
クスクス笑いながらラフォラエルがライマの頭を撫でる。
「――また、見せてくれる?」
ラフォラエルの問いに、ライマが赤面して
「……うん」
返事をする。
ラフォラエルがニヤッと笑う。
「じゃあ今からっ!」
「だ、ダメっ! こんな朝っぱらからっ!」
ライマが慌てると予想通りとばかりにラフォラエルがケラケラと笑った。
「冗談冗談。 さて、んじゃ俺は研究室にこもるから。 ライマは好きにしてろな? いーもん出来たら見せてあげるから」
ラフォラエルが体を離す。
ライマもブランケットにくるまったまま、体を起こして軽く頭を振る。
「昨日のオリハルコンで、何作るの?」
「すっごくいいもの」
「オリハルコンの加工方法って難しくない?」
「加工自体はなー、かなり文献も読みあさったし、そーでもない。 ただ未知の可能性を秘めてる鉱物だからなぁ。 色々な使い方ができるはずだからすっげー楽しみ」
「面白そう。 側で見ていちゃダメ?」
「ダメ。 研究室狭いし。 一人の方が加工に集中できる。 二人で狭いトコいたら、まぁ、その」
照れるラフォラエルの意見はもっともな気がした。
ラフォラエルは着替えて書斎に行く。 ライマも後につづく。
書斎の床に隠し扉がある。
彼がそこを開けると、下に続く梯子がかかっていた。 そこから覗き込むと、中は下まで進むと横に通路が延びているようで、その先に何があるのかは見当がつかなかった。
「んじゃ行ってきます」
ラフォラエルはそう言ってライマにキスをしてから梯子を下る。
隠し扉が内側から閉じられる。
訳もなく慌ててライマが扉を叩く。
隠し扉が開く。
「どうした?」
ラフォラエルの言葉にライマは返事ができない。
――扉で切り離されたくない
ただそれだけだったから。
ラフォラエルはちょっと苦笑した。
「いい子にしていたら、あとでご褒美あげるから。 ここの扉は閉めないけど、絶対入って来ちゃだめだからな? 約束できる?」
ライマは頷く。
「良い子だ。 俺は多分、夜中位には出てくると思うから」
ライマは頷く。
そして、ラフォラエルは研究室に消えた。
ライマは少しの間、その地下へ続く梯子を見ていたが気を取り直して部屋の掃除と古代語の研究をすることにした。
その日、研究室からラフォラエルは一度も出てこなかった。
食事を作って入り口から呼んでもほとんど返事は来なかった。
時々、「うわっ!」とか「やりっ!」とか、感想?のような声や、石を削るような音が響いていた。
「ラフォー、おやすみー!」
ライマは寝る時間になって、大声で呼んでみたが返事はやはりなかった。
じっと梯子を眺め、ライマは呟いた。
「q@erg」
それは古代語で【大好き】の意味。
ライマは古代語を完璧にマスターしてしまっていた。
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一方、夜も更けたスイルビ村は、前にも増して一層多くの国民が押し寄せてきていた。
患者の数はうなぎ登りである。
水が危険だと注意をしたものの、周知されるまでにはまだまだ時間が短く、それに料理、洗濯、色々なものに使う生活用水全部を煮沸消毒するなんて無理があった。
新世以外にも法術治療で体力を回復させることができる者もいたが、やはりそれらは高価で、かつ、新世のものより効果が弱かった。
そして法術で体力を回復できても、結局はほとんど飲まず食わずなのだから、体力がもたない。
よって、皆、帰りもせずに最後尾に並んでは再度、法術治療の順番を待つのである。
新世はそんな中、不眠不休で法術治療にあたっていた。
さすがは翼族の血というべきか、次から次に治療を施していくその魔力の大きさは無限に沸き出でる泉のようだと訪れた誰もが思った。
しかし実際は、ハーフの姿だと多少上限があるため、時々陽炎の館に30分ほど帰って翼族の姿に戻り、力を回復してはみんなの前に立っていたのだ。
そして、今ふたたび、新世が陽炎の館に戻ってきた。