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第24話 爆弾投下

 ラフォーと思いがけず目が合って、恥ずかしさのあまり視線を逸らしたライマは、瞳を閉じて記憶の整理をする。 そしてほんの一瞬後には平静を取り戻した。

 テーブルの上のおつまみに目を向けると、そこに大好物のチーズ&生ハムがある。


「あー、おいしそう♪」

 そばに行ってチョコンと座り、それに手を伸ばすとカレンが困った顔をした。

「まぁ、ライマ。 あなた、髪は乾かさないの?」

「食べてから!」

 ライマはそう言ったが

「風邪ひくぞ。 髪を乾かすのが先っ!」

 ラフォラエルが皿を取り上げる。

「あーん。 一個だけー」

「ダメ。 乾かしてから。 そしたら生ハムメロンも出してあげる」

「んー……」


 ライマは少しふて腐れながらも、素直に立ち上がって髪を乾かしに行く。

 ライマが別室に行くと、みんながラフォラエルの顔をじっと見た。

「なんだよ、お前ら」

 ラフォラエルは少し赤くなりながら台所へと消える。 そしてライマのために生ハムメロンの用意を始める。

 カチャカチャと台所で立てられる音を聞きながら全員が顔を寄せ合う。


「聞かなくても分かるわ、ラフォーもライマが好きね」

「それじゃあやっぱりライマもか」

「告白は?」

「無理っぽい。 そっちは?」

「絶対無理ね。 好きだって言えない理由でもあるみたい」

「理由って?」

「知らないわよ。 度胸がないだけよ、きっと」

「度胸はラフォーにもなさそうだ」

「うわー。 いい歳して何やってんだか」

 声をひそめて好き放題だ。


「しっ!」

 タートゥンが言葉を制する。 と同時にライマが髪の毛を乾かして部屋に戻って来た。

「早っ」

「魔法でささっと乾かしたもん。 よっし、ラフォーの生ハムメロン作りに勝った♪」

 ライマは小さくガッツポーズをする。


「ちょっと俺、失礼」

 そう言ってタートゥンが手洗いへと席外す。

 そのとき、ウズが何か思いつき、ポンと手をたたいた。


「なぁ、ライマライマ」

 タートゥンが完全にいなくなってからウズが話しかける。

「俺達が時々、田舎の言葉を話すの知ってるよな? ライマも話してみたくね?」


「うん!」

 ライマは元気よく返事をする。

 ラフォラエルの部屋にあった古代文字の本。 ライマはなんとか”文章なら”読めるようになっていた。

 彼らが話す”田舎の言葉”はおそらくそれに違いないと確信はあったが、発音は乗っていないので”話す”となるとお手上げだ。 だから、数個の単語でも構わない、発音を教えてもらえば、そこから推理を働かせて古代言語を完璧に使いこなせるようになるのは時間の問題だった。


「それじゃあ、【q@ew?】って言ってみて」 

「【q@ew?】」

 それを聞いたメーション達がカクテルをつまらせてむせる。

「オケ。 バッチリ。 もう一回」

「【q@ew?】」

「完璧」


 ウズが満足げに頷き、ライマも微笑んだ。


「それで、意味は何?」

「ラフォーに言ってみ? 意味を教えてくれるよ。 どーしても教えてくれなかったらタートゥンに聞いてみるって言えば絶対教えてくれるって」

「うん、わかった」

「――あ、できそうなら【^@Zsiz;wZw】も言ってみなよ」

「【^@Zsiz;wZw】ね。 わかった。 言ってみる」


 ライマは完璧に発音した後、台所にいるラフォラエルの所にいそいそと行く。


「ラ・フォ・ー♪」

「早かったな。 ちゃんと乾かした? 待ってな、もうすぐ作り終え……」

「【q@ew?】」


 ガ シ ャ ン

 ラフォラエルが思わず動揺してフォーク類を落とす。


「ああ、もぅ、なにしてるの?」

 ライマはそう言って落ちたフォークを拾う。

「え、あ、いや……」

 ラフォラエルは挙動不審になりながらフォークを受け取る。

「ら、ライマ? 今、なんて……?」

「え? あ、うん。 【q@ew?】」


 ラフォラエルが思わず後ずさりをする。

「は――はぁ?」


「んっとー、だから、【q@ew?】 を教えて欲しいの」

「教えてほしいっ?!」

 ラフォラエルの声が裏返る。


「うん。ねぇ、【q@ew?】。 【――q・@・e・w?】」

「そ、そういう事は言っちゃいけない」


 ラフォラエルは赤面しながら背を向ける。


「えー? なんで? 教えてよぉ。 q@ew。 ――q・@・e・wってばぁ」  

 ライマは少し拗ねたようにねだるように、繰り返す。

「んもぅ。 それじゃあ【^@Zsiz;wZw】」

 ラフォラエルは背を向けたままだ。

「^@Zsiz;wZwー……」

 ライマが再度言うがラフォラエルは振り返らない。

「ダメ? 教えてくれないの?」

 ライマが尋ねる。

 しかし返事はない。


 ライマはため息をつき、台所を後にしようとする。

「じゃあウズの言う通り、タートゥンに聞いてみる」

 そこにタートゥンが戻ってきた。

「どうしたライマ?」


 ライマが近づく。


「あのねぇ、タートゥン。 教えてほしいの。 q@――」

「ダメっ!」

 その時ラフォラエルが叫びながら慌ててやってきて、ライマの手を引く。

「きゃん」

 ライマはラフォラエルの側に引き寄せられる。

『おー♪』

 それを見たウズ達が拍手をする。

 ラフォラエルは頬を赤くそめたまま、キッとウズ達をにらむとライマの手を引いて寝室へと行く。

『おー♪』

 背後でウズ達の声が再度響いた。





 ラフォラエルがかなり勢いよく寝室の扉を閉めて、掴んだ手を離す。

 そんな彼はライマと視線を合わせず、どこか恥ずかしそうで、どこか怒っていた。

「ら、ラフォー?」

 ライマは彼の表情を見て不安になる。

 そこまで怒らせるような事を言ったのだろうか?

「ライマッ!」

「はいっ!」

 厳しく名を呼ばれてライマは思わず直立する。

 ラフォラエルは、ただ黙ってライマの顔を見る。

 ライマは思わずうつむいた。

「ご、ごめんなさい。 何て意味か、知りたかったの」

 ラフォラエルが息を吐く。

「【q@ew?】と【^@Zsiz;wZw】を?」

 ライマは頷く。

 ラフォラエルはむくれながら呟いた。

「全くウズにはめられやがって……」

 ライマは彼を不愉快にさせたことが申し訳なくてギュッと目を閉じた。

 次の瞬間。


「!」


 ライマの体が抱きかかえられて宙に浮く。

 驚いて目を開けると真面目な顔をしたラフォラエルがまっすぐベットを見つめていた。

 ラフォラエルはライマを抱いたままベットに行き、ライマをベットに押し倒した。


「!?!?」


 ライマが目を白黒させる。

 その表情を見てラフォラエルが小さく微笑む。


「q@ew?は、”抱いて”。 ^@Zsiz;wZwは、”ベットにつれてって”だ」

 そう言って横にしたライマを一度だけギュッと抱きしめる。

 ラフォラエルが体を離しながら言う。

「人前で言うなよ」


 ライマは慌てて激しく頷く。

 ラフォラエルは頷くと軽くライマの頭を撫でてベットから離れる。

「今日はもう、良い子は寝ろ」

 そう言ってラフォラエルは寝室を出て行った。

 扉が閉まると扉の向こう側からウズ達の【q@ew】コールと、ラフォラエルが「お前らぁっ!」と喚く声が漏れてきた。

 ライマは自分の体を抱きしめた。

「びっくり、したあ……」

 ドキドキする胸を押さえながら、ライマが呟いた。





 台所でぶつぶつ言って皿を洗うラフォラエルを見ながらメーションが言った。

「このままじゃ、二人はどうにもならないわね。 明日ひと肌脱ぎますか、っと」




+



 

 翌日の朝は先週とほぼ変わりがなかった。

 ライマが起きると扉の前にラフォラエルが寝ており、目覚まし時計と柱時計が鳴り、みんなが起き出す。

 違う事といえば、ラフォラエルが入れたコーヒーをライマも飲む。 ただそれだけと――ウズやカレンやタートゥンには、メーション発と思われる口紅キスマークが沢山ついていたが、ラフォラエルには無かったこと。


――今日はちゃんと逃げるから

 ラフォラエルが言った言葉を思いだし、ライマはちょっと嬉しくなる。


「♪」

 ライマは足取りも軽くみんなと一緒に港へと行く。

 今日もライマは荷物を持っていない。

 だってラフォラエルと二人で語り合うから、まだここにいていい。

 今日はこのあと、あの論文やこの論文やあの仮説やこの定理でトコトン語り合う。


「♪」

 ライマは今までにないほど、これからの時間が楽しみだった。

 そんなライマの表情をじっとメーションがみつめる。


 港につくと、既に船はいつでも出発OKだった。

「それじゃ、また来週」

 そう言ってみんなは一人ずつ船に乗り込む。

 あとは出発、その時だった。

「ちょっと忘れ物」

 メーションが一人、船から下りてきた。

「もう出発しますよー!!」

 船員が声をかける。

「すぐ済むわ」

 メーションはライマとラフォラエルの側にやってくる。


「どーした? メーション」

「忘れ物なの?」


 ラフォラエルとライマが尋ねる。

 メーションは意味ありげに微笑み、そっとラフォラエルに近づくと――


 メーションの唇がラフォラエルの唇と重なる。

 それはゆっくりと、確実に。 そしてライマに見せつけるかのように。



「!!!」

 ラフォラエルが慌てて体を離す。

 ライマは驚きのあまり声も出ない。


「ふふん♪」

 メーションは満足げにそう微笑むと、さっさと船に乗り込む。


「メーションっ!」

 船に乗り込んだメーションにラフォラエルが怒鳴る。


「え〜っ? 何で怒るのぉ?」

 メーションが悪気がないと言わんばかりの口調で挑発的に答える。

 ラフォラエルの隣でライマは顔面蒼白だ。

 いかりが上がり、船がゆっくりと進み出す。

 メーションが船から身を乗り出して言った。


「だって、ラフォー、今更じゃない? ここに来るまでは持ってたじゃない、ハーレム。 私だってそこにいたじゃない。 キスなんて数え切れないほどしたし、それよりすごいこともやったわよね〜。 私や、他の沢山の女の子と」


「メーション!」

 ラフォラエルが青くなって叫ぶ。 次の瞬間、ライマが背を向けて駆けだした。

「ライマっ!!」

 ラフォラエルは慌ててライマの後を追う。


 船が港を離れていく。

 振り向きもせず走り去っていくライマと、それを追いかけるラフォラエルの背中を見ながら、タートゥンがメーションの隣に来た。


「まったく、ものすごい爆弾投下だな」


 それを聞いたメーションが自嘲気味に笑った。

「だって本当のことよ。 そして、ライマが知らなきゃいけない事でもあるわ。 違う?」


 タートゥンは軽く首を横に振った。

「違わないさ。 二人が先に進むためには乗り越えなきゃいけない過去だって事も――な」 

 そして船は島から遠く離れていった。


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