第23話 お互いの気持ち
「遅いっ! ライマ、ほら、こっち手伝うっ!」
ライマ達が家に帰るとすかさずラフォラエルが呼んだ。 なのでライマは慌てて台所に行き、いそいそと夕食作りを手伝う。
それをどこか楽しそうに見ているタートゥンへ、メーションがそっと近づいた。
「あの子、どんな感じ?」
その口調はどこか警戒しているようだった。
しかしタートゥンは微かに口元を緩めた。
「スパイの線は無いな。 本当に偶然ここに迷い込んだ感じで――鈍感というか、純粋というか」
「へぇ? だとしたら、どうしたらいいのかしら?」
メーションが戸惑いながら腕組みをする。 真剣な眼差しでタートゥンが呟いた。
「お互いの気持ちを確認する必要があるな。 ラフォーのためにも」
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ほどなく夕食の準備も整い、先週と同じように皆でワイワイ言いながらの食事が始まった。
ただ前回と違うのは並び順で、ライマとラフォラエルは二人がけのソファーに一緒に腰を下ろしていた。 そこは前回はウズとラフォラエルが二人で座っていた場所。 そして今回は、ライマはここに座れよ、とラフォラエルがわざわざ指示した場所。
だがそこに、二人だけの世界のような特殊な空気は流れていなかった。
ラフォラエルは左横のソファーに座るウズと他愛の無い会話をし、ライマは右斜め前に座っているタートゥンと話を弾ませた。 右と左で、お互いに反対を向いている。 なのに、二人の背中と背中の距離感がなんか微妙、な感じなのである。
食事もほぼ済み、これからはボチボチ酒とつまみでゆったりと時間が流れていく、そんな頃合いになったとき、タートゥンがメーションに目配せした。
「ねぇ、カレン。 これからまだ夜は長いし、先にお風呂へ入らない?」
メーションが大きな声でカレンに告げた。
「そうね。 汗もかいちゃったし。 入りましょ♪ ライマもどう?」
予定通りとばかり、カレンがライマにふった。
「えっ!?」
ライマが慌てる。
お風呂? そう、お風呂である。
――あっ、そっか。 私、今、女の子だから一緒に入ってもいいんだ。
今更な事を確認する。
「いーじゃない、ライマ♪ 入りましょうよ」
メーションがやってきて、ライマの腕をつかんで立たせる。
「あ、えとっ、えーっと」
ライマがまごつくのを無視して風呂場へと強制連行。
入らない訳にはいかないようだった。
+
「あーっ! もぉ、汗かいちゃったぁ♪」
脱衣所でメーションはポンポンと脱いでいく。 カレンだってあっさりと脱ぐ。 そんな二人に圧倒されながら、ライマは少しモジモジしながら服のボタンに手をかけた。
「遅いっ!」
そう言ってメーションが、ライマのスカートを勝手に下ろして脱がす。
「きゃああっ!」
「女同士なんだから恥ずかしがらないのっ!」
腰に手を当てて立つメーションの、尻かと見まがうばかりの豊満な胸がプルプル揺れる。
「ご、ごっ、ごめんなさい……」
迫力に負けて、ライマは赤くうつむきながら謝った。
「さぁー♪ 入りましょっ」
メーションは全裸になったライマの手首をつかみ、ガンガンと浴室に入っていく。
「んもぅ、前くらい隠しなさいな」
苦笑いしながらカレンが小ダオルを持って来た。
「えーっ。 面倒っ。 いっつもソンナことしないじゃない〜!」
メーションが抗議するが、ライマは慌てて小ダオルを受け取り前を隠した。
「湯船に浸かる時は外しなさいよぉ」
メーションはそう言ってザポンと湯船に浸かる。
「湯船に浸かる時は髪の毛くらい上げなさいな」
カレンがそう言って自分の髪をゴムでまとめながら湯船に浸かった。
「あ」
ライマはその時、カレンの胸元に、微かに赤くなっている箇所を見つける。
「カレン、虫にさされたの? 赤くなってる」
それは長さ1〜2センチ程度で、カレンの体のあちこちについていた。
「え? 虫? 痒くないけど……どこ?」
「鎖骨の所とか胸元とか……」
ライマがそこまで言った時、カレンとメーションが顔を見あわせた。
「……む、虫じゃないわよね……」
「虫……じゃないけど……」
歯切れが悪い。 しかし、カレンは頬を薄赤く染めて言った。
「幸せの証?」
「キャー! カレンったら言うわねぇ!」
ライマには良く分からないが、二人は妙に盛り上がる。
「でも、アレかしら? こんな堂々たるカマトトってことは何にも知らないのかしら」
「見た感じはそうね」
なーんて言っている。
+++
「さぁって、女子は席を外したことだし、男同士腹を割って話そうか」
リビングでは、タートゥンが椅子を引き寄せてラフォラエルに寄った。
「話すって、何を?」
ラフォラエルはあえて視線を合わせず、おつまみを口に放り込んだ。
「うっわ、とぼけてる」
「ライマの事に決まってるだろ」
ウズとトガールも寄ってくる。
ラフォラエルはソファーの背もたれに寄りかかって冷静に言った。
「先週言ったろ? ライマは海で溺れていたからここで治療してたんだ。 治療は済んだからもう帰ってもいいんだけどさ、お前達が来るからもう一度、会わせてもいいかなって思ってさ」
だが誰も納得しない。
「へー? ほー? ふーん?」
「でも結局、論文の事で語り合うためにライマは残すんだろー?」
「今日オヤジが来た時の慌て方はただごとじゃないと思ったけどなぁ」
ラフォラエルはあえてゆっくりとワインを注ぐ。
「ただごとも何も。 偶然に猫鳥がいたせいでライマは翼族と勘違いされたから平気だったんだ。 勘違いされなかったら、ライマはここでオヤジにヤられてハーレムに連れて行かれるか、抵抗して殺されるかどちらかだったんだぞ? オヤジを知ってるからこそ慌てた、ただそれだけだ」
そして注いだワインを一気に飲む。
「ふーん」
「言ってることは確かだが」
「ただそれだけねぇ」
彼らが何を言っても、ラフォラエルは決して目を合わせない。
「ふぅむ」
タートゥンが足を組んでしばし考え、それからゆっくりと口を開く。
「――なら、俺がライマに手を出しても大丈夫だって事だよな?」
「どうぞ?」
ラフォラエルはあっさりと、軽く手を挙げて応える。
「そうか。 止めないんだ?」
「俺には止める権利はないだろ。 タートゥンが口説きたいなら口説けばいい」
「止める権利は無い、ねぇ。 ラフォーがライマの事を好きなら止めようかと思ったけど」
タートゥンはラフォラエルのグラスを取り上げ、テーブルに置いた。
「じゃあライマを口説こう。 決定だ」
「……お、おお。 いいんじゃね?」
軽く笑って、再度グラスにワインを注ぐラフォラエルを見て、タートゥンがニヤリと笑う。
「じゃあ寝室を提供してもらおうかな」
それを聞いたラフォラエルの手がビクリと揺れ、ワインをグラスの外にこぼす。
慌ててテーブルを拭く彼を見て、タートゥンは意地悪く続けた。
「ライマが風呂から上がったら、寝室に二人きりにさせてもらうな。 口説くのにギャラリーはいらないし、ベットがあれば話が早くて一石二鳥だ」
「お、おま、お前……」
手を止めて言葉を探すラフォラエルに向かって、タートゥンは自身満々に微笑む。
「当然、無理矢理になんてしないよ俺は? 紳士だから。 ただ、幸いライマは俺に無警戒だ。 肩に触れても側にいても全然嫌がってない。 嫌がられてなければ俺には簡単な話だね。 ライマは俺を異性として意識はしてないけど、それも問題じゃない。 なんとなく気がついたらそうなっていたってだけで、体から始まる恋愛があっても、まぁいいじゃないか」
言いながらタートゥンはゆっくりとシャンパンを飲み干す。
それを見てウズとトガールが感心した。
「タートゥンはテクニシャンだからなぁ。 俺にはとても言えない台詞だ」
「体の気持ちよさと恋愛感情をごっちゃにするのも、まぁ、ある話だな」
テーブルに置かれたラフォラエルの手がカタカタと小さく震える。
タートゥンがウインクした。
「ま・か・せ・な? 明日の朝には俺の女になったライマが出来上がりってことで。 今夜、激しすぎてアノ声が聞こえたらゴメンなぁ〜?」
そしてウズ達3人は揃ってラフォラエルの顔をじっと見る。
「ホントにいいな?」
「タートゥンはやるぜ?」
「最後通告だ」
ラフォラエルは、ぎゅっと目を閉じて歯をくいしばり――観念したかのように口を開いた。
「ダメ。 ゴメン。 止めてくれ」
『だろー?』
タートゥン達は笑いながら声をそろえる。
「あー、もう」
そしてラフォラエルは、思いきり脱力してソファーの背もたれによりかかる。
「ダメっ! 絶対ダメっ! 頼むからだめ!」
天を仰いで再度言う。
タートゥンが真面目に尋ねる。
「じゃあライマの事、好きって認めるんだな?」
「――ああ。 認める。 かなり前から好きって認める!」
ラフォラエルは白状した。
「そんじゃ、どの位前から好きなんだよ?」
ウズが尋ねた。
「……海でライマを見つけた時から……」
認めてしまったラフォラエルは素直に答える。
「早っ! 一目惚れってやつか?」
そう言われてラフォラエルはちょっと考える。
「いや、ただ初めてライマを見た時に、……いや、ここまで運ぶ間にライマを抱き上げた時に、なんかこう……こいつと会うのは決まっていた、みたいな……。 なんか妙に気になって。 そのうち、気づいたら好きだった」
ウズ達が頷く。
「気づいたら好きか」
「王道だね」
ラフォラエルが悔しそうに二人をにらむ。
タートゥンが笑いながら言った。
「それで手はまだ出してない、と」
ラフォラエルは返事をしない。
「童貞でもあるまいし、またいたく奥手だな。 機会はいくらでもあったろう?」
そこでラフォラエルが口を尖らせた。
「だってライマって何も知らねーんだもん」
タートゥンは頷く。
「ああ、確かに、あれは間違いなく処女だ。 しかも無知識。 最強だ」
「そう! 何も知らねぇの! ……って、タートゥン、どうして分かるんだ?」
「そりゃぁ会話してれば、雰囲気で。 他にも、わざとカレンとトガールのキスシーンを目撃させたり、妖しい雰囲気に持っていこうとしたけど、俺は見事に玉砕した」
「お前、そんな事してたのか!?」
呆れるラフォラエルにタートゥンが意味ありげに笑う。
「そんな事、って、お前も絶対、何かしただろう? 時間はたっぷりあったし邪魔する者はいないし、でも直接手を出してないっていうのなら、言葉遊びやゲームでやらしい言葉を言わせたり変な格好させちゃって気づいたとか?」
「バ、バカ! んな事する訳ないだろ! 俺はあいつがあんまり無防備だから気づいただけで……」
「慌てるか……図星とみた」
「ラフォーともあろう奴が。 ガキだな」
「どんな変な言葉を言わせてみたのか……」
「してねーって!」
ラフォラエルが慌てて否定する。
しかしそこでトガールが穏やかに言った。
「いいじゃん、何してたってさ。 ライマもラフォーの事好きだと思うよ? 嫌がったりしないと思うけどなぁ。 なのに……何を迷うのさ?」
ラフォラエルは少し戸惑いながら口を開いた。
「ライマには帰る所があるし……あとは、俺だから――かな」
その言葉に、ウズ達3人は言葉を失う。
ラフォラエルが続ける。
「分からないし、不安なんだ。 俺の愛し方が普通なのか? それともライマを傷つけてしまうのか。 言葉でも態度でも、何をどうしたらいいのか、分からない」
それを聞いてタートゥンが微笑んだ。
「ラフォー。 お前、人間臭くなったな。 まるで感情を表さなかった頃とは別人だ。 いいことだよ」
そう言って、ワインが注がれたまま放置されたグラスを一つラフォラエルに渡し、自分のグラスと重ねてチンと鳴らした。
軽く響くグラスの音を聞きながら、ラフォラエルは言った。
「今日は――特別なんだ。 だって今日は俺の――」
+++
「亡くなったお姉様の誕生日?!」
風呂場でライマが声を上げた。
「そう、今日がね」
メーションが頷いた。
「ラフォーのお姉さんはね、私と親友だったわ。 とても弟思いのいいお姉さんだったわよ。 ただドノマンの言うことをきかなかったから、みんなの――そう、ラフォーもいる目の前で殺されたわ。 しかもその日はラフォーの誕生日だったの」
カレンの声も悲しげに続く。
「だから今日、ライマがドノマンに連れて行かれなくて本当に良かったって思うわ。 これ以上大切な記念日を穢されたら……やっぱり可哀想だもの」
「ホント」
「それにラフォーはその後も沢山辛い目に遭ってるし。 よく耐えてきたと思うわ」
メーション達の話を聞きながら、ライマは今日の事に思いをはせる。
――好きだ
そう言って、自分を抱きしめた、彼。
きつく抱きしめた、彼。
「……今日がそんな日だったから、その流れだったのかなぁ」
嫌われてないことは確かだが、でも、”好きだ”のレベルを計りかねているライマが思わず漏らす。
そんなライマを見ながらカレンとメーションが目配せする。
「ところでライマ。 ラフォーと暮らしてみて、どう? アイツってどんな奴って思う?」
メーションが身を乗り出した。
「どう、って、料理上手で、お医者さんとしての腕は抜群で、島民の人にも好かれてる」
「他には?」
カレンも身を乗り出す。
なので思いつくまま口に出す。
「えーっと、短いスカートが好きで、ローライズがいいなーなんて言うエッチなところがあって、前髪を下ろしたら童顔で、童顔って言ったら拗ねて……」
「ちょっと待って! ラフォーがあなたの前で前髪を降ろしてたって言うの?!」
メーションがひどく驚いて言葉を遮った。
「え? う、うん。 出かける時はきちんと上げるけど、家にいるときはたいてい」
ライマの答えに、カレンとメーションが顔を見あわせた。
「これってやっぱり、全然、警戒してないってことよね」
「ええ。 今でも私達にそんな無防備な姿は見せてくれないのよ?」
「愛称で呼ばせているあたりから変だと思ったのよ。 第三者からラフォーって呼ばれるの、すごく怒っていたのに」
「でもまだ何もしてないみたいよ?」
等、コソコソと話す。
「ねぇ、ライマ、あなたラフォーとどこまで行ったの?」
メーションからの突然の質問にライマは素で答えた。
「島の集会所に法術治療しにいったくらい」
『ああもぅ! そーじゃなくてっ!』
メーション達が声を重ねる。
しかしライマはキョトンとする。
メーション達が再度ボソボソと呟く。
「すごいわよ、この天然爆弾」
「天然記念物発見ってところ……」
ライマはそれを聞いて、少しシュンとする。
――どうやら私は何かに関して、とても無知らしい。
そう考えながらメーション達を見る。 自然のままといえば聞こえが良いが、化粧も手入れも何も知らない自分と比べて、磨かれた女性としての色っぽさを放つ彼女達。 彼女達のようにあったならば、どんなに自信がもてただろうと考える。
そこにふと、カレンが尋ねる。
「……ねぇ、ハーレムってどんな所か、知ってる?」
ライマは頷いた。
「ハーレムって、簡単に言ったら後宮でしょう? 跡継ぎを作るためにとはいえ、女の人の意志を無視して自分の奥さんにしちゃうなんて、本当に許せないわよね!」
ライマは力説するが。
「ああ。 なんてまともなハーレムの姿……」
カレン達は腰砕けだ。
そんな事も知らず、ライマは心配そうに告げる。
「そういえば、カレンはトガールとキスしていたでしょう? いくら無理矢理ハーレムに入ったからと言っても、やっぱり不貞行為はいけないんじゃないの?」
ため息混じりにメーションが言う。
「えっとねライマちゃん。 普通の後宮ならそれは当然でしょうけど、こっちは違うのよ?」
「?」
「あいつのハーレムは主に性奴――」
ライマのまっすぐな視線にメーションがたじろぐ。
「えー、えっと、何でも言うことを聞く召使いって言った方がしっくりくるかしら。 踊れといわれれば踊るし、歌えと言われれば歌う。 裸でお酌をしたり、一緒にお風呂に入ったり、一緒に寝たり。 あいつが望むエッチな事を叶える所っていうの?」
「ええっ! 裸でお酌したりするのっ? 何それっ!?」
心底ライマがショックを受ける。
「……驚きどころはそこなのね……。 ま、まぁ、だからカレンは奴の奥さんじゃないのよ。 だからトガールとキスしても大丈夫なの。 ドノマンのハーレムは仕事場みたいなモノだから、ここで恋人とリフレッシュしなきゃ!」
「そうなんだ」
ライマは素直に頷く。 それを見てカレンが苦笑する。
「さすがのメーションも説明が変になってるわね」
「だあって、セックスの意味も知らない子供にどう説明しろっての?」
そこですかさずライマが一言。
「セックスなら知ってる」
『えええええっ!』
「性交の事でしょ? 性の交流ってことで。 辞書で見た」
『辞書!? 当たってるけど何か外れてる!』
メーションとカレンが力尽く。
「ねぇカレン? 私達はどうしたらいいのかしら? このお嬢ちゃんに」
「ラフォーよ。 ラフォーに任せましょう。 下手に染めたくないわ」
「そ、そうね! 本題に入るわよっ!」
二人はライマの肩をガッとつかんで尋ねる。
「ライマ、あなた、ラフォーの事、好きでしょ?」
単刀直入。
ライマは。
ライマは。
「え、ええっとぉ……」
と言うが早いか、顔を真っ赤にする。
『好きなのねっ!』
二人の言葉にライマは驚き頬に手を当てる。
「や、ヤダ。 わかるの? そんな大声で言わないでっ」
そう言って恥ずかしがるライマを見てメーション達が感動する。
「カワイイ……」
「好きって言葉だけでこんなに反応しちゃって……」
ライマはただただ、顔を赤らめる。
優しく微笑みながら、カレンが言った。
「告白はしないの?」
「まさか!」
ライマは顔を横に激しく振る。
「何言ってるの?! 告白しなきゃ始まらないでしょ!?」
メーションが乳をゆらしながら(失礼)ライマにくってかかる。
「だ、だって、……そんな事言ったら迷惑かもしれないし……」
「ダメよ! そんなことじゃだめ! 女は告白してナンボよぉ!」
「ライマだったら大丈夫よ!」
メーションとカレンがかなり励ます。
しかしライマは怯えたように顔を横に振った。
「――ダメよ。 だって、私、帰らなきゃいけないし、ラフォーはそんなに私のこと好きじゃないかもしれないし……」
「いけないしだの、しれないしだの、ああじれったいっ! 私が言ってあげるっ!」
メーションが勢いよく立ち上がる。
たがそんな彼女の手首を、ライマが泣きそうな顔をして掴んだ。
「ダ、ダメっ! おねがい、お願いだから言わないで!」
「どうしてよ?」
「だってもう、今のままで十分だから。 変なこと言って、負担になったり嫌われりしたくないの。 お願い!」
明らかに何かに怯えているライマの態度に、カレン達が言葉を失った。
+
メーション達はその後、雰囲気の良い、たあいのない話をして風呂から出た。
風呂から上がるとリビングではラフォー達が酒を飲みながらくつろいでいた。
ほんのり顔を上気させた、パジャマ姿のライマを見てタートゥンが声を上げる。
「おっ♪ ライマ、かっわいい♪」
その言葉に誘われるようにラフォラエルもライマに視線を向ける。
「……」
ライマとラフォラエルの視線が一瞬重なり、慌てて双方目を逸らす。
二人以外の全員が苦笑いした。