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 兄妹で仲が良いかというとそれは家族それぞれだろう。

うちの場合は話したい時に話したいだけ言って、何か手伝って欲しいときには手伝ってもらうと言う感じで、普段はあま話さない。男女で趣味も違うのにどう仲良くなれというのかと俺は思う訳だが、端から見ると仲が悪い兄妹ではない。


「こら、何で買って来たばかりの菓子をお前が食ってるんだ」


 俺の部屋には常備菓子がある。夜中に食いたくなることがあるので買ってある訳だが、部屋に入ってきたさつきはそれを開けて食べだした。


「いいじゃない減るもんじゃなし」

「物理的に減るわ!」


 しかも値段の高いカロリー控えめのタイプばかり選んで食べる。そのままさつきは本棚の方に向かうと俺の漫画を読みだした。

 本は兄弟である意味共有しているような感じで、俺もさつきの買ってきた少女漫画を読むことがあるので文句はない。が、食い物の恨みは恐ろしいのだ。


「と、言う訳で没収」

「あ、返しなさいよ」

「俺がまだ読んでない本を読むな」


 これは兄弟間の不文律というやつだ。


 そんな事をやっていると、窓から何かが飛び込もうとするのが見えた。二階にあるこの部屋の、開いた窓から飛び込んで来た赤いそれは壁にぶつかって部屋に落ちる。


「なんだなんだ」

「何?」


 俺は天気のいい日は窓を開けている。夏と冬は除くが、何しろこの町は海上に建てられたドーム型の閉じられた都市なので気候は良いのだ。それが今回は幸いした。そうでなかったら窓を突き破って大惨事になるところだ。


「留美じゃない!」


 赤いと思ったら赤い武装のレッド・スターだった。さつきがスーツ解除の操作をすると、いつもきっちりした服装の彼女としては珍しく部屋着らしい服だ。


「大丈夫かしら、お兄ちゃん、私の部屋に連れて行って、ベッドに寝かせて」

「断る」


 さつきの言葉を自信を持って拒否する俺。


「何でよ」

「年頃の女子の体に触ったという事がばれると、裁判に訴えられる」

「訴えないわよ」


 下手に触っては訴えられるのが世の男性の常だと思う。痴漢と言われた事はないが、言われるのは嫌だ。俺は平和な人生を生きたい。


「女性に重い物を持たせる気?」

「女性を重いと言う方が問題じゃないかと思う」


 俺の台詞に妹は言葉に詰まる。


「スーツを着れば持てるだろう。扉を開けるのは手伝うからそっちでやってくれ」

「ヘタレ何だから」


 ヘタレで結構。俺は女性の体に触るよりはヘタレで良い。なまじ悲鳴でも上げられたら心に傷を負うのは俺だ。


「あれ、あれ?起動しない」


 何?スーツの故障か?って、そうなると、


「仕方ないからやっぱりお兄ちゃんが運んで」

「やっぱりそう来たか」


 どうしよう。どうしようか。女体に触らずに隣の部屋に運ぶ方法は、ない事もないか?


 俺は倒れているレッド・スターの前にブランケットを広げて用意する。


「ほら、運ぶんだからこれぐらい手伝ってくれ」

「仕方ないわね」


 さつきに言ってブランケットの上に彼女を転がしていくのを任せる。そのまま畳み込んで、直接肌に触れないようにすれば準備完了。


「ありゃどっこいしょ」

「どういう掛け声よ」


 女性に重いと言ってはいけないとは常識で分かっているが、重いと言うか、普段重くても蜜柑箱しか持たないからそれよりも重い。当たり前だが。


「うううう」

「ほら頑張って、ドアは開けてあげるから」


 妹の応援を受けながらなんとかさつきの部屋に運んで、ベットに下ろした、というかずり落ちた。


「大丈夫かな」


 流石にゆっくりと下ろしたと思うが自分の予想とは違う下ろし方だったのでブランケットを広げて首が変な方向に曲がってないか確認する。


「大丈夫みたいだ」

「大丈夫みたいだじゃないわよ。何で頭から落とすの」

「いやわざとじゃないんだが」


 腕力の限界が早かっただけだ。


「じゃあ俺は部屋に戻るから、お前はちゃんと目が覚めるまで面倒を見てあげろよ。本ぐらいなら貸してやるから」

「ジュースとお菓子追加ね」


 部屋でごろごろしてるつもりだろうと思いつつ、俺は台所へ向かった。


 レッド・スターの目が覚めた。俺がさつきの見届け人というのは知っているのでレッド・スターも別に正体がばれたからどうという話にはならない。一度紹介もされている。ちなみにレッド・スターの見届け人は母親である。

 ペンタグラムに関係ない人は話を聞くなという事で、俺はこっそりと聞き耳を立てる。隣の部屋なので場合によっては声が聞こえると言うだけだが。

 なんでもちょっとした重い荷物を持つのにスーツを着て、着るなと言っても黙ってれば分からないのでさつきも時々やってる、正体がばれてはいけない契約のはずなんだが家の中では結構使われているのは戦隊ヒーローのあるあるだったりする。とにかく荷物を片付けた後変身解除をしようとしたら飛び上がったそうだ。幸か不幸かベランダだったのでとにかく近くの仲間の所へ行こうと、うちに来た。

 壊れたのか?一時的な物か?どっちにしろこういうのはさっさと報告するに限る。


 報告したらスーツ担当者の所へ行けと言われた。

 俺の爺さんがロボット担当の一人であるように、開発者の一人が担当しているので、そっちに話を持って行けという事である。

 そうやって来たこの家は知り合いの小旗 利郎の家である。


「すいませーん」


 チャイムを鳴らすと出てきたのが利郎だった。


「おや珍しい。お前さんが来るなんて」

「いや、スーツの調子が悪いみたいで、お兄さんいるか」

「いるけど、寝てるかもしれないぞ」


 ペンタグラムのスーツ担当の開発者は、利郎の兄に当たる、九郎(くろう)さんだ。凄い天才とは思うが、凄い欠点もある。


「んあ?」


 ソファで寝ていた。この人はとにかく寝る。そして夜は遅くまで起きている。典型的な昼夜逆転人だ。


「…何しに来た」


 言葉は悪いが怒っている訳ではない。


「兄ちゃん、何でもペンタグラムのスーツの様子が悪いんだと」


 背後の柱に見えた整備台に赤いレッド・スターのスーツが乗っている。専門ではないので外見からはどこが悪いのか分からない。


「…ああ、今すべて調整を終わらせた。そろそろ全体的なメンテナンスが必要かもしれない。酸の体液や光線の衝撃など、負担を与える攻撃は多かったからな」


 戦闘は戦隊ヒーローの宿命だからどうにもならない。結構持ったと言うべきか。


「どうする?いっそのことパワーアップパーツで誤魔化すか?」


 利郎の案でもいいかもしれない。どうせパワーアップはいつかするので今しても悪くない。


「…やめろ。先に人員増加がある」


 人を増やすのか。それも一つの手である訳だ。というか、レッド・スタースーツの隣にある見た事ないスーツがいくつかあるからどれかだろう。


「…何か知らんが可愛いのが良いと言い張って、よく分からない造形になった」


 男女で可愛いと言うのはかなり違うので、苦労しているようだ。そういえば可愛いと言う言葉は男は外見に、女性は目下?というか自分より小さい物に使うと聞いた記憶がある。本当かどうかは知らないが。


「二人は何が可愛いと思う?」

「女心が分かる訳ないでしょう。俺に」

「兄ちゃんは名前が九郎だけに苦労するんだよな」


 駄洒落で落ちがついた。何か脱力したので通信で状況を説明して帰る。


 しかし、またメールが来てモチーフが分からない。駄目出し5回目という情報が書いてあった。

 別に気にしなくてもいいと思うんだが。さつきは別に文句言わなかったし。ああ、でも意見は聞いてみよう。


「と言う訳で、お前はスーツに不満なかったのか?」

「いきなり何よ」


 さつきの部屋に来た俺は早速聞いてみる。ちゃんとノックはしている。


「あのね、お兄ちゃん。私だから良いけど、いきなり切りだしても分からないわよ」


 会話を端折りすぎたかな。


「スーツの不満?私は飛行型だし、羽をモチーフにしてくださいって言ったくらいかしら。戦いに使う物だから私の考えじゃ思いつかなかったし」

「へー」


 すると、ブルー・スターのスーツについている羽が希望したアクセサリーな訳か。全体的に機械的な外見のスーツでも、背中の飛行ユニットの翼は機械的な感じなのに対して飾りは彫刻的な鳥の羽になってるからな。


「よく女の子はかわいいのが良いと言ってくるらしいが」

「可愛いなんて千差万別でしょ。何?彼女でもできた?」

「そんな地球が滅びに向かうような事はないよ」


 天地がひっくり返るから。


「可愛いって言えば、動物じゃない?子猫の髪飾りとか無難ね」

「そうか」


 俺は納得して早速九郎さんに電話してみる。


「という事で、可愛いのが分からないなら動物風にするのも一つの手かと」

『成程。じゃあ狸にしよう』


 何で狸?女の子に狸の着ぐるみを着せると言うイメージが湧いてきた。よくある信楽焼の狸の形で。


「怒られませんか?」

『パーツ交換とはいえ、ほとんど化けると言えるほどスーツの換装が多いタイプでな。今までそういうのはほとんどレッドがやってたらか仕方ないんだが。化けるなら狸だろう』


 九郎さんの独断と偏見だった。ペンタグラムのメンバーを考えてみる。そういえば汎用型はレッド・スターだけだ。強いて言えばブルー・スターやグリ-ン・スターもそれなりに武器を変えられるが、専門分野ははっきりしている。そのサポートもレッド・スターがしていた。


『サポートという意味なら、サポートロボットという話もあるが、ペンタグラムはなあ』


 戦隊の売りのような物が、ペンタグラムの場合年頃の娘ばかりだと言うタイプだからなあ。顔を隠しているのになぜか美少女だと言う噂だ。怪人がその他担当だから、このタイプの戦隊は人手がいる。だから女子で固めて話題を作ろうとするらしい。


『話してみよう。ちょっと回線はそのままにしてくれ』


 何か向こうで会話しているようだ。


『駄目だった。スーツの方も汎用型でなくて一人でも戦えそうな物が良いらしい』

「まあ狸の予想は付いてましたが。そういえば色はどうなんですか?」

『オレンジの予定だ』


 オレンジの生命体なんてオラウータンしか思い浮かばない。が、これは拒否するに違いないのでさつきの言葉を告げてみた。


「子猫なら女の子は喜ぶそうですよ」

『猫か。確かに無難だな。猫パンチというのもあるし』


 それはボクシングの話ではないかと思う。新しいメンバーは聞いた話だと通常の5人に加わる常勤組で、グリーン・スターのようなサポート組ではなかったはずだ。第一、最初の汎用性を高める話はどこに行った。


『こう何度もやり直しさせられるともうどうでもよくなってくるよな』


 どうやら九郎さんのやる気が無くなっていた様だ。


『猫で賛成を貰ったから、それでいくことにする。ありがとう』

「いえいえ」


 通信が切れて、おそらく最後にする調整を始めたんだろう。

 今日もいつも通り何もない一日だった。



『そこっ邪魔しない!』


スーツの修繕も終わったレッド・スターの狙撃が俗にいう雑兵的モンスターに当たる。ブラック・スターとホワイト・スターの武闘派コンビがサテライトに向かっている。最近はペンタグラムの皆も考えて、日陰で決着つけようとするからな。それをさせないために敵幹部的存在が時々日向に引っ張り出すようにしている訳で、色々と大変だ。


『貴方の実力、見せてもらうわよ』


 妹が新入りに声をかけた。


『任せてくださいっ。オレンジ・スターいきますっ』


 おお、ついに新入戦士が出たか。どんな姿になったんだろう。

 現れた娘は顔はまだ分からない物の猫耳猫尻尾がついていた。何というか、オレンジなトラネコだ。そういう漫画があったような気がする。基本的には汎用型に見える。脚と手に余計なパーツがついてなければ。


『オレンジ・クロー』


 腕には着ぐるみサイズを付けたような巨大な猫の手がついている。脚にはブースターがついて一気に怪人との距離が縮まった。猫の手から出された爪が光る。


『スター・スラッシュッ!』


 怪人が細切れにされた。わざとか偶然か、日陰だったので巨大化はない。


「親方ァ!、新入りさん用のペンタ・ドールの装備、ありましたっけ?」

「まだねぇ!呼ばれたのか?」


 俺が下に声をかけると親方の怒鳴り声が返ってきた。


「いえ、巨大化はしません」

「今日は巨大化しない予定だったから、予定通りだ。もう上がって良いぞ」


 その予定は俺に回ってなかったんですが。回覧メールは回って来ていないのか?

 そして思う。新しい人も武闘派というやつではなかろうか。白、黒、橙と武闘派で、サポートが赤と緑、だけか。黄色はまあ狙撃や偵察には使えるけど逆に操作が難しいから無理をさせないようになっている。


「本気でサポートタイプの人を増やさないといけないな」


 俺が思っても報告書に書くだけだ。人事権は俺にない。

 それにしても、今回の新入りさんはどういう人なのかは気になる。今度顔を教えてもらおう。ペンタグラムは、というか戦隊ヒーロー達の収入源の主は写真集、他映像系だから、顔は良いんだろう。いや顔は隠しているタイプの装備だから顔は見えない。いつだったかバイザー部分が壊れてばれそうになって大変だった。

 そう思っていたのがフラグだったのか、本来なら終わってると思っていた現場の方で大きな声が上がった。


「なんだどうした?」


 映像を見ればオレンジ・スターの爪がブラック・スターの顔面、バイザーに突き刺さっていた。


「ぶっ」


 慌ててグリーン・スターに連絡を取る。


「何があったんだ?」

『それが、爪と拳が似たような戦い方になると言う話から手合せする事になったんです』

「分かった。そこから普通に帰れるか?」


 やっぱり武闘派な思考タイプだったようだ。訓練場でやればいい物を、なんで往来でやりだすのか。

いつもはペンタ・ドールで帰ってるので、現場輸送用の車があるにはあるがあれは目立つ。場合によっては周りで望遠カメラを構えている奴がいるので陽動も含めて出動だ。


『お願いできますか』

「了解」


 俺は下の親方に声を張り上げた。


「親方ァ!ペンタ・ドールを出してください。行って帰るだけで良いです」

「分かった。じゃあ予備パーツの方を出すぞ」


 急に慌ただしくなった。俺はグリーン・スターに連絡をして、ペンタ・ドールの出撃を手伝いに階段を降りた。


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